表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第三章 Diabolous in Musica/音楽に潜む悪魔
117/144

117 tr17, long hard load/長い苦難の道

では、改めて話をさせてもらおう。

老ヤンネから手紙を預かったのは、儂だでな。

但しもう何百年も前の話、事実かどうかは我々にも判らぬ。

ケイン殿を信用するで、この話は他言無用で頼む。



ご存じの通り、儂らはそちらのSSSR工作員、ナージャシュディ様の末裔。

始まりはフセスラフ様との間にできた娘、アンゲラ様だとされておる。

身体は一番大きかったが争いごとは好まんで、長く砦に住んでおった。

フセスラフ様のおかげで戦渦に巻き込まれることはなかったものの、ふとしたはずみで海賊に恋してしもての。

最初はからかい半分、彼女の膂力に気付いてからは恐れをなして海賊はイエテボリに近づかなくなった。

待てど暮らせど姿を見せないその海賊を待ち日に日にやせ細る彼女を見かねた親族たちはオスロ行きを勧めて…当時はオスロもニーノシェク王国に属しておって、比較的安全な場所だったからかね。


だがアンゲラ様は、ここで初めてボーフス砦とイエテボリ以外の都会を知ったのかもしれん。

また新たな恋をし、また海賊だった。

界隈で一番強い、とされていたアンデシュという男でな。

運良く背の高さは彼女に近く、今度はからかいも恐れられなかった。


悪い男でもなかったが、良くもなかった。

義侠心から商船は好んで襲わないものの、デーン人の戦舟を狙い撃ちにしては喜ぶ戦好き。

ナージャシュディ様に憧れて国軍に入ったが、その頃には彼女は身を隠し、フセスラフ様は南進を始めたから、海に生きたかったのかフィヨルドまで引き返してきて海賊になった。

戦績が良かったからか気前が良かったからか、自然と周りには他の海賊も集まってリーダーの様な扱いだった。


アンゲラ様はフセスラフ様の血も引いているから、耳が獣の様での。

悪い事にスコルの化身と言い出すものがおって、それで危うくオスロで襲われそうになった。

助けたアンデシュは国軍に居たこともあり、フセスラフ様の特徴を知っててもおかしくない。

アンゲラ様がナージャシュディ様の血を引いていると知り、猛烈な求婚のうえでアンゲラ様と結ばれた。



アンデシュは彼女をそりゃあ大事にし、オスロを捨て海賊業も辞め、フィヨルドでも比較的治安の安定したここモーレイに落ち着いて、世帯を持った。

そこから昔なじみの海賊どもも拠点にし始め、体格の良い連中が集まり、その中でも特に身体の大きい子孫を残すようになったのが我ら巨人族の始まり。


記録によるとアンデシュ一家は大家族で、六男八女とされておってこれが現在の氏族の元にされておる。

最初の家族はすべてナージャシュディ様の血が強く、獣の耳はまちまちだった。

他の特徴は身体が大きい、魔力で身体強化しているのか膂力が常人より強い、目と耳の感覚が鋭いなど、見た目の違いは身長だけに落ち着いた。

だから、代を重ねた儂らは全員が全員ナージャシュディ様の血を引いているとも限らん。



膂力の強さは戦渦を招く。

代を重ね数の増えた巨人族はやがて国を欲し、ニーノシェク王国を相手に戦争を仕掛けた。

最初は良かった、だが海沿いにベルゲンを超え更に南下せんとする巨人の軍隊に襲い掛かったのは、寒波。

陽の出ない日が長く続いた。

未曽有の大寒波で周辺の海全てが凍り、折り悪く食料を持たなかった彼らは、飢餓でほぼ全滅したそうな。

陣頭指揮を執っていた氏族長以下数名が這う這うの体でモーレイまで戻り、遂には進撃を断念した。


残った氏族で話し合いの結果、これはアンゲラ様の意思に反した行動で、彼女の化身であるスコルが太陽を食べてしまったとされた。

だから我々の巨人族はオオカミ、特に魔力を吸って大きくなったものを忌避する者が今でも多い。

ケイン殿、あなたの連れていたスコルは黒と白だっただろう。

それぞれ日食と月食の象徴に見立てられたのよ。

だから老ヤンネは集落へ立ち入るのを止めた。

儂らも悪いとは思って居るが、ここに入ることはやはり諦めて欲しい。


一方で当時の話し合いから、初代様方の生活に倣うべきだ、という意見が出た。

男は働きに出て、女は家を守る。

働き手の男性は遠征の全滅で激減していたが、幸い蓄えは有ったようでな。

一族を守る一面もあったろう。

その頃から保守の傾向が強くなり、現在は当時よりも人の数は増えた。


だが、生活は当時のまま。

男は出稼ぎ、女は集落に残す。

こっそり外に出るはねっ返りは男女とも居るが、数は知れておる。

これが、儂らの集落の閉鎖性の全貌よ。

特別にフセスラフ様やナージャシュディ様に連なる財宝や秘密がある訳ではない、ただただ古い血と伝統が残っているだけ。



ヨルグ達が去った後に離島で騒ぎがあった、老ヤンネが言っておったろ。

隔離されとった娘が逃げ出したのよ。

儂のひ孫でアンゲラという、奇しくもナージャシュディ様の娘と同じ名前でな。

これがはねっ返りで、もう儂らも追うことができなくなってしもうた。


これ以上非礼を重ねることは出来ん、だからこれはこの老い先短い老人の、ひ孫を心配する気持ちだ。

もしどこかでアンゲラという名の赤髪で…そう、ケイン殿と同じくらいの背の娘を見かけたら、儂らが心配しとったと声を掛けてもらえんか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ