表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第三章 Diabolous in Musica/音楽に潜む悪魔
111/144

111 tr11, wild seed/野生の種

た、大変だった。


アウストリ語の習得も自分でおかしいと思うくらい早かったが、結論としてはユリアの課題をこなすことができた。

彼女の若かったころ、イニシエーションで知識をインストールしていた過程の教育方法を覚えていて、それに従って詰め込み学習して覚えた…のか、思い出したのか。

ということは言語野だけじゃなく、前頭葉や海馬にヴォルケインの頃の記憶が残っている可能性もある。

呼吸し身体が動かせる時点で小脳や延髄は機能していたのは推測できるが、それ以外の部分はアベルの件位しか出てきていない。

今後何かの拍子で、彼の記憶を思い出す日が来るかもしれないな。

オレという自我は、いったい何だろう。



思考に沈みがちな巨体をよそに、日々は過ぎてゆく。

お行儀のよいハイイロオオカミ達は皆に随分世話になったようで、愛想のよい白いジロどころか人見知りの黒いタロも懐いている

寒気も緩み春の兆しが見えてきた四月、そろそろ出発しようかとスパルタ教育中のユリアに持ち掛ける。

「巨人の集落へ行き、そのままノヴゴロドへ向かおうと思うんだが。

 時期的にも春から夏の方が良いだろ?」

「そうね、そろそろ頃合いかしら…

 レイさんの体調も快復して、夏にはウィーンへ帰れそうだもの。

 そうしたら諸々手配を始めようかしら。

 あ、でもすぐ出られるわけじゃないから、まだまだお勉強は終わりませんからね?

 うふふ…」

ぬぬぬ。


それから一ケ月。

王妃閣下送迎の団体…ではなく、オズモシス商会の傭兵連中がやってきた。

「ようケイン、久しぶりだな。元気だったか?」

「おおヨルグ!怪我は治ったみたいだな。

 そうか、お前さん巨人集落の出身だったっけ」

「おう、集落はモーレイっつーフィヨルドの先っちょの方にあるところだ。

 シティア様経由で商会に依頼が来てなぁ。

 王妃閣下のお迎えは本隊がもう少し後に到着するから、それまでの間俺にお前さんの案内をしてやれってよ」

心強い。地元民で、かつ戦力になる。

「お前さん宛や長宛に手紙も何通か預かってきたから、ついでに届けるさ。

 そうだ、そういやお前さんの恋人のルイーズさんだったか、手紙来ないって寂しそうだったぞ」

「恋人じゃあねえよ。

 でもあれ、オレんトコに魔燕居たっけ?

 冬の間静かすぎて全然覚がなかったんだが…

 ちょっと見てくる!」

「おっと、ルイーズさんからお前さん宛の手紙だ、受け取れ!

こっちはユリア様に挨拶してくらぁ」



――――――――――



行方不明の黒ヤギさんへ


ひどいです、ずっとお手紙待ってたのに…

でもそちらの冬は寒いと聞きますし、移動の毎日だと忙しなくてお手紙どころじゃなかったかもしれませんね。

それに実は学校の試験勉強が忙しくて、退屈はしていなかったんですよ。エヘヘ。

今年の夏はいつも一緒のグループの内、里帰りしないメンバーでお出かけしようかって計画しています。

私も今年は地元へ戻らずザグレヴへ行きお祖父様とお祖母様に挨拶するだけなので、計画に混ぜてもらおうかなって思ってます。

皆年上で色んな地域から来てるから、いつもお話ししてても飽きません。

お友達っていいですね!

去年までは体験できなかった、学生生活を楽しんでいます。


ただ年末から年明けにかけて、学園都市の周辺には不審者が現れるようになりました。

『眷属』と言われる、以前ロヴィニの墓地で見かけた人たちに似ている様。

お出かけにしても警戒が必要だから、オズモシス商会に相談しなさいってケリーさんから言われています。

もちろん皆で会った時、ですよ。

その時にケリーさんからケインさんの行く先を聞いて、こうしてお手紙を書きました。

無事届くと良いな。

………

……


寂しくて目の赤くなった白うさぎより



――――――――――



淋しがりの白うさぎさんへ



ごめん、こっちに魔燕居たんだね。

冬の間半冬眠状態で巣に閉じこもってたみたいで、さっきやっと動き始めた。

エサも準備しないといけなかったから、ケアが大変だった。


冬の間、オレはずっと言葉の勉強をしてた。

シティアの紹介でユリアさんっていう女性。

彼女らは同郷らしく、出身地で受けた詰め込み教育をオレにも施して辟易としています。

今後の旅を考えると、ありがたい事なんだけどね。


ルイーズは暖かい季節になって、元気も出たかな。

夏休みの計画を立ててるってことは、無事試験も終わったんだろうか。

年の近い友達と一緒に遊ぶのも学生ならでは、存分に楽しんでください。


もう少しで夏休みかと思うけれど、今年は残念ながら会うことはできない。

今はイエテボリという、プロイセンの北にあるスウェーデン王国に滞在しています。

確か、ルーのお友達でバルトやデーンの娘がいたよね、その娘たちと地図を見るのも面白いかもしれません。


オレは、これからさらに北のニーノシュク王国や海賊どもがたむろすフィヨルドへ行きます。

オズモシス商会に居たヨルグ・ミカという傭兵の出身地で、巨人の集落があるという。

自分のルーツに係るかもしれない人達なので、今から楽しみと不安が同居しています。


まだ旅は始まったばかり、今後はちゃんと手紙出しますよ。

今回は、申し訳なかった。

では、また。



座学で体のなまった黒ヤギより

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ