100 tr43, my way/我が道
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【AD:1525年】
年も明けて雪も解けたころ、頃合いと判断しストックホルムへ向かう。
私とフセス、志願した部下達を引き連れ、いざ王都へ。
王都ストックホルムでの軍事顧問就任当初は、必ずしも歓迎されたわけではなかった。
疑ってかかる者には実力行使、裏の手回しが得意なものは、先手を取り暗殺。
皆が従う頃には人手不足が慢性化した。
だがフセスは違った。
周囲の者を巻き込み懐柔し、あっという間に味方を増やし顧問参謀の地位を独力で得てしまった。
なんだ、足が不自由でも充分強いじゃないか。
軍事教練や紛争対応も同じ。
私の教育は少々厳しいのか、いつも脱落者が多く少数精鋭になってしまう。
フセスは個人間の信頼を糧に大多数の底上げで全体を引き締め、強力な結束のある軍隊を作り上げる。
今までの生き方を反映しているようで、童話の『太陽と北風』を思い出し独り笑ってしまった。
お互い足りないところを補い敢えて、良いじゃないか。
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【AD:1532年】
余裕が生まれれば欲が出るのが人間だ。
以前の取り決めに従い、デーン人と決着をつける。
大規模軍事行動としてニーノシュク全体で西海岸へ兵を集め、全面攻勢をかける。
やるなら一挙に、出し惜しみしてはいけない。
私の率いる陸軍は辺境ヘルシングボリから王都コペンハーゲンまで駆け降り、シェラン島で睨みを利かせる。
フセスが任されるようになった海軍は、事前の工作や調整もあり、難なくカテガット海峡を制圧しユトランド半島へ攻め入る。
石板の通信でフセスから「半島制圧まであとわずか、コペンハーゲンを攻略されたし」と連絡。
躊躇せずコペンハーゲン城へ潜入して占拠、混乱の王都を制圧した。
長年因縁のある隣国だが、事前準備を怠らなければ勝利まで1年と掛からなかった。
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【AD:1564年】
対デンマーク戦争後の30年は、楽しかった。
ニーノシュク王国からこの制圧の功績を認められ、高位の爵位とイエテボリ近郊のカテガット海峡一帯の領地を拝領した。
カテガットって猫の穴って意味なんだな、私にはぴったりだ。
フセスとも正式に結婚式を挙げ、ずっと渡せなかったお揃いのチョーカーを渡せた。
私は引退し、イエテボリ領主として他のフセスの子らと一緒に皆で子育てに勤しむ毎日を送れた。
私も子供を授かった。三男二女だ。
その後もフセスが次々と妻や子供達を連れてくるので休む暇はなかったけれど、それでも仲間が増えることに喜びを感じた。
いつしか、私たちはライカンスロープ一族と呼ばれるようになっていた。
私やフセスに似て、耳の形や聴覚・嗅覚、強靭な身体能力を引き継ぐものが多かった。
彼らにはできうる限りの教育を、脱落者の無いよう施したつもりだ。
かつての私の出自の様な、閉鎖環境で物も知らず躊躇なく殺しの出来る子にはしたくなかった。
今でもアジンの、あのスケッチブックが忘れられないんだ。
子供たちはせめて、フセスと私のように支えあえる人に会えるようにしたかった。
私は、本当はこの時代に残りたかった。
フセスと共に生き、共に死にたかった。
けれど思い出してしまった。
あの国の野望を打ち砕かないといけない。
四姉妹の三人にも会わなければならない。
生き残れるかどうか判らないけれど、彼と同意のもと、私は一度眠りにつく。
さようなら、愛しのフセスラフ。
最後にわがままを聞いてくれてありがとう。
…楽しいときってのは、いつでも過ぎ去ってからわかるんだ。
仕方ねぇ、小箱の中身をナージャに知られちまったから教えるしかなかった。
子供たちが俺の執務室に忍び込んで、見つけちまったんだと。
遠征から帰ってきたら、ナージャに問い詰められちまった。
俺の小箱に入れていたのは、3号以外の突入ポッドの仮死管理装置への改修用資料と、工作員を仮死状態にするための薬品。
SSSR打ち上げ式典の直前に手渡され詰め込み、こっちじゃ箱の外に出して保管してた…らしい。
納得いかんが、そうとしか思えない。
俺とドラクルの搭乗していたコールドスリープ機能搭載の3号機に近いが、少し違う。
あっちは中の人間を冷凍して保存しとく。
身体さえ入れば誰にでも使えるし、最初のコストはかかるが維持が容易で、復帰も問題なく可能だ。
一方5号機の改修で可能なのは、死んだ状態に近い人間を保存しておく。
人によっては投薬段階で死ぬこともあるし、蘇生できない可能性も高い。
危険だが、可能性はある。その程度だ。
突入ポッドの改修は搭載工具で可能、座席で投薬して寝るだけだ。
ナージャはさほど飛行を使わなかったこともあり、機体状態は良く燃料も多い。
突入ポッドならいづれ後からやってくる工作員達が探し出すだろうし、異世界の貴重な歴史や地理を知る人物が眠っていれば、放っておくことはないはず。
俺達工作員の体力なら、装置さえ稼働していれば組成は可能だろう。
せっかく自由になれて、再開して、家族どころか一族になって、まだまだこれからって時に…
けれど、彼女はもう決心していたのだろう。
真っ直ぐに俺の目を見つめ
「お願いだ、私からお前へ最後のわがまま。
私を仮死にして、後世に残してほしい」
ああ、これは施設時代の言い出したら聞かない、『頑固のナージャ』の顔だ。
苦労を掛けた負い目もある、同意するしかなかった。
彼女と共に地下の保管庫へ行き、5号機を改修し、着席してもらい、少しの荷物を渡し、俺の手で彼女へ投薬し、効果を確認する。
最後の遺言は、一字一句違えず覚えた。
突入ポッドの扉を閉め、外に出る。
何故か前が見えなくなったので、入口で待機する部下たちに封印・偽装してもらった。
これなら、石板の共振以外で見つかることはまずない。
次の日から、新たに妻を娶るような行動はきっぱりやめた。
一族には口外無用と添えたうえで全員集め、出自や目的も含めすべて包み隠さず教えた。
軍や領の部下達には、長患いから手違いで毒を飲み亡くなったと伝えた。
領民を上げて葬儀が行われ随分と批判もされたが、もう涙を流すことはない。
ロマ族には事の経緯や遺言を記した書状と、ナージャの姿を彫刻したペンダントを同封し、困ったら頼ってくれと文書を添え、事情を知る転生出身者に暇を与えて頭目へ届けさせた。
そうやって暫くは忙しくしたので考える余裕もなかったが、少しでも振り向くと塩の柱になりそうだったので、俺は俺の遣り残しを潰しに行かねばならない。
そう、ドラクルだ。
元はと云えば、アイツが勝手な行動を取ったせいだ。
そういえばサルが幽閉されたままだったか。
あいつはそのままでいい。
身分を逆手に取り、アイツを探し出して落とし前をつけてやる。
ニーノシュク王国はこれより更に南下し、領土を広げる方針を取る。
- 第二章おしまい –
*ごめんなさい、今回はエピローグありません。




