ポンプは厄介者
「オイラの目的は、強力なエアポンプになる事!君みたいな可愛い子を膨らませながら生活してると、強くなれるんだ!」
「いや、どういう設定よそれ!」
あれからドクロは体から空気を抜かれ、元のスタイルに戻りつつポンプと共に自宅に帰った。
勿論ドクロは全力で拒否した。しかしポンプはまるで言う事を聞かないのだ。
何を言っても聞かないし、得意の体術を決めようとしても膨らまされて動けなくなるし…見かけによらずとても厄介な存在だった。
「あー、何でこんな事に!」
ドクロは窓を開け、風に当たる。先程の膨らんだ体がまだ忘れられない。
あの内側から押し広げられる感覚…物凄く気味が悪い感触なのだ。
気持ち悪いような、それでいてほんの少しだけ気持ちいいような…どちらにせよ、スッキリした物ではない。
ドクロの揺れる髪を見つめながら、ポンプは周りを見渡した。
可愛らしいぬいぐるみに柔らかい布団に…何とも可愛らしい部屋だ。
それらを見て、ふとポンプは思った。
「あれ、君一人暮らしなの?」
「本当はお兄ちゃんもいるわ。私を滅茶苦茶溺愛しててすっごく鬱陶しいの。今は遠方に戦いに行ってていないんだけどね。…そんな時に来たのがあんたよ!」
振り返り、指をさすドクロ。ポンプはおかしそうに笑った。
「アハハハハ、それは残念!まあまあ、ここは一つ膨らんで…」
さり気なく向かってくるポンプ。ドクロは顔を赤くして払い除けようとするが、ポンプは意外と身が軽いのだ。
素早く彼女の攻撃をかわしてみせる。
「あんたねぇ!」
ドクロの綺麗な足が飛んでくる。強烈な蹴りだ。
ポンプはそれすらも回避し、一瞬の隙を突き…。
「隙やり!」
「きゃあ!?」
ドクロは背中から突き飛ばされる!ポンプは突き飛ばすと同時に、目にも止まらぬ速度でドクロの背中から空気を注入。
ドクロの体は、お腹の辺りから勢いよく張りだす。
プシューっ、という空気の音がハッキリ響いた。
ドクロは、大きく膨らんだお腹を揺らしながら、振り返る。
「ちょっと!いい加減にしてよね…あれっ?」
すぐ後ろにいたはずのポンプが、姿を消していた。
「ほれ、遅いよ」
やたら覇気のある声が響いた。ドクロの表情が歪む。
同時にまた、嫌な音がする。空気が流れるあの音が。
そして、ドクロを襲う何とも言えない感覚!
「ううっ!ま、まさか…」
恐る恐る、自分の体に目を向ける。
「…やっぱりー!」
ドクロは思わず両手をあげた。
体は、先程よりも更に大きく膨れていたのだ。
今はポンプと出会った時に膨らまされた大きさ。体が球体型になっており、ポンプの言う、マスコットキャラクターのような外見だ。
「ポォォォォンンンンプゥゥゥゥゥ!!」
ドクロは怒りに満ちた顔で空中のポンプを睨みつける。ポンプはさも可笑しそうにドクロを嘲笑った。
「ヒャハハハハ!余裕余裕!」
「いい加減にしてよねー!!」
ドクロは持ち前の身体能力で勢いよく飛び跳ねた!
…が、空気で膨らんだ体はいつもと全く違う挙動だった。フワリと宙に舞い上がり、上手く動けない。
一応、ドクロは元から死神の魔力を活かして飛行する事はできる。しかしこんな風に体内に空気がある状態など体験した事がなかった。
全く自由が効かず、壁に顔をぶつける。
「にゅ!」
フワフワと舞い落ちるドクロ。顔を抑えようとしても、手が短くて全く届かない。
動けば動くほど、ポンプを楽しませるようだ。
「ヒャハハハハハ!!その動き!まさしく風船っ!」
「うっ、うるさーい!!」
ドクロの大声がこだます。丸い体で必死に起き上がり、ポンプへ走っていく。
「こんの…アホ…ポンプゥー!!!」
精一杯拳を握り、まるで無重力下のような動きでポンプの憎たらしい笑顔へ迫っていく。
今度こそ当たる!そう思い、ドクロは持てる力全てを持って拳を突き出した!!
拳圧で、目の前の壁が歪む。丸い体のせいで全く迫力のない絵面だが、破壊力は抜群だった。
「当たらなきゃ、意味ないよ!」
…頭上から声がした。
プシュウウウウウウウウウ!!!!!
「ああっ、もおおおお!!!」
ドクロはもはや泣けてきた。
丸い体は先程とは比べ物にならない速度で膨張していく。
空気の音と共に、紫の風船が部屋をどんどん埋めていく。
周りの机やぬいぐるみを押し退け、止まる事なく膨らみ続け、ついに天井に頭をぶつけた。
ドクロの体は、元の何倍も膨張してしまった。完全に膨らみきった体は風船のような質感で、外見だけでも空気が入ってる事が分かる。
体が部屋一杯に膨らんでしまったので、ドクロはもう動けない。ポンプは、視界一杯に広がったドクロの体を見て実に満足そうだ。
ドクロは立ち上がろうとするが、身動き一つとれないのでどうしようもない。
「抵抗するからだよ♪」
天井に引っかかって首も上手く動かないが…分かる。
今間違いなく、ポンプは舌を出してバカにしてる。
「じゃ、オイラはもう少しこの家を探索する事にするよ!戻ってくるまで良い子にしてるんだよ?…巨大風船ちゃん♪」
ドクロの体に、軽く体当たりをするポンプ。そのままドアからどこかへ行ってしまった。
「…もおおおおお!!!」
ドクロの声が、虚しく響き渡った…。