悪意
最愛の母を亡くし、父と共に母のことを名残惜しくも前を向こうとしたフィリアに、人の形をした悪意がやって来た。
それも、その内の一人は実の父親だったウォルターで。
母と結婚する前からの付き合いで真実の愛で結ばれた相手だと言い放った。
本当の妻のような存在と紹介され、ふくよかなことによりボリュームの増した胸を自慢げに張るマリーラとフィリアの一つ下だというその娘のミカエラ。
父からの思いもよらぬ言葉に、玄関ホールでフィリアがその目をパチパチしている横をフィリアの紹介もせぬ内に、屋敷の中を物色しようと走り出すミカエラと仲良さそうにお互いの腰へと手をやり、笑って話しながらゆっくりと追いかける二人。 それをフィリアは呆気に取られ、見送ることしかできなかった。
それから、フィリアは様々なものが取り上げられた。
陽当りの良い部屋も
仕立ての良いドレスも
身体に見合った一番のお気に入りのプチドレッサーも
その中にしまってあった髪飾りも宝飾品もリボンまで
父が連れてきた母代わりと言われたはずの煙草の臭いのする母とは正反対な女とその娘にただ一言。
「お姉さんでしょ」
という言葉により。
唯一つ、フィリアの首にかかったカメオのペンダントだけは一度見咎められたが、欠けがあり古臭いということで見逃された。
それ以降、フィリアは首から外すことはしなかったが衣服の中に入れ二人の興味を惹かぬように気をつけた。
最初の内は、使用人皆が庇ってくれていた。
けれど執事のガルフと母の実家から付いてきたというナニーもしてくれたナリヤの夫妻が領地経営のためという名目で都から遠く離れた領地屋敷へと送られた。
それを皮切りにフィリアを庇う人間は領地へ追いやられたり、それを断ると辞めさせられたりでタウンハウスからすっかり人の入れ替えが行われた。
今では、フィリアがフィーだったことを知るのは年老いた物静かな庭師一人だけだった。
それからは悪くなる一方であった。
父は母が生きていた頃より、家に帰ってくることがあからさまに増えたが、フィリアのことはまるで目に映らないかのように、マリーラとミカエラとの団欒を過ごし。
行儀作法と勉強の家庭教師の先生は異母妹の元へと挿げ替えられ、フィリアは今までの素地があるでしょう? と意地悪なネコのような目をしながら実践だとマリーラに言い募られて使用人の真似事をさせられるようになった。
食事も満足に与えられないどころか自分たちの給仕をまずさせ、その後に仕事を何かと言いつけ使用人のあとに食べるようにされた。
スープとパンが残っていれば良い方で。 肉の一欠、菓子の一欠片たりとも何年も許されたことなどなかった。
最初の内は、フィリアもマリーラとミカエラの行いを父に伝えようとした。 だがしかし、父であるウォルターはフィリアのことを無視し、幼子が我儘をいうように手など引っ張られようものなら、大人の力で容赦なく振り払い、鍵の掛かる部屋へと半日ほど閉じ込めた。
暗闇に閉じ込められフィリアの泣きじゃくる声がマリーラとミカエラの気に触れてうるさいと訴えられたときなど、鍵をはずし頬を張り、痛みで呻くことしかできないようにまでされた。
それを繰り返す内に、父は自分な味方などしてくれない。 あの二人の方が大切なのだと頭に刻みこまれた。
なので、誰かからの助けをフィリアはすっかり諦めてしまった。
何もかも全て奪われたあとは、フィリアの感情を乱そうという下衆な行いが待っていた。




