33.闇騎士誕生
「う……」
くらくるする頭を押さえ身体を起こすと、どうやら滝の前にあったもうひとつのベンチへ寝かされていたらしい。すぐ隣にはケイレブが立っていて、起きた僕に気づくと先程エレンにもらった魔力回復薬を差し出す。
「お、起きたか。ならこれ頑張って飲め」
手渡されたびんを受け取ると、少しづつ喉へ流し込む。
うぅ、この味嫌いじゃないけど寝起きにはキツい……
「倒れたあと、シノブの服から魔力回復薬出して飲ませようと思ったんだけどさ、やっぱ気を失った後に飲ませるのは難しいな。どうにか倒れる前に飲めればいいんだけどなぁ」
「びんを持ち歩かなきゃならないのも大変だよ。またエレンに貰いに行かなきゃ」
回復薬を飲み終わり、うーん、と背伸びをして起き上がる。
──ふむ、魔力の馴染みが上がったな。こうやって魔力回路を繋げればよかったのか。
「ケイレブの案は正解だったってこと?」
──そのようだな。しかも一度繋げておけば毎度魔力を送ってもらわなくても馴染みやすいらしい。これならさほど時間はかからず魔力は馴染むだろう。あとは……
あれ?まだ問題あったっけ?
──主が鎧を身につけることが出来る様になれば万全だな。
「あ、はい……頑張ります……」
「鎧の魔石、なんだって?」
「あ、魔力馴染みやすくなったって」
「お、じゃあ成功か!」
ケイレブは嬉しそうに笑う。
「あとは僕が鎧を着れれば、ってことみたいなので……ケインさん、今朝言ってた明日からのトレーニングもお願いします」
「あぁ、任せておけ。団長やバリーの扱きに耐えられるよう精神鍛えてやる」
「え、そっち?!」
その言葉通り次の日から体力も精神も鍛えられ、さらに二週間後からは団長達のトレーニングも加わった。
人目につかないよう、研究棟の裏で密かに訓練とトレーニングをしていたので、ほかの団員には、何故か日に日に痩せていき、至る所で寝落ちをしている病弱な人、という認定をされてしまった。
廊下で会うと、みんな「体調は大丈夫?」って聞いてくる……
まぁ、みんながそう思うくらい僕の体型は王立騎士団に来た時とは別人のように変わっていた。
無駄についていた贅肉は落ち、体力を戻すついでに体操時代の基礎メニューも取り入れ訓練したことにより、身軽さも戻ってきた。
少ししか飛び上がれなかったジャンプも、今は宙返り出来るほどまで回復している。
身体が……軽い!
そうそう、この感覚懐かしい!
初めて宙返りをして見せた時のケイレブの顔があまりにも面白かったので、たまに思い出しては笑ってしまう。その時のことを思い出して一人笑いを噛み締めていると当の本人のケイレブが廊下の前から現れた。
「お、シノブちょうど良かった!テセウス様から呼び出し。そろそろ闇の鎧付けられるんじゃないかってさ」
「了解ー。でも入るかなぁ、あんな細い鎧……」
「なんとかなるだろー」
ケイレブと連れ立ってテセウスさんの執務室を訪れると、扉をノックする。
「テセウス様、シノブ連れてきました」
「あ、入っていいよー」
許可が出たので執務室へ入ると、中にはテセウスさんの他にアレックス団長とバリーさん、ケインさんの姿があった。
「シノブ、悪いんだけどそこの隠し扉から闇の鎧を出してもらっていいかな?」
「あ、了解です」
以前広間に飾ってあった闇の鎧はあの後、テセウスさんの命令で執務室へ運び込んでいる。
他の人たちには、「闇の鎧は厳重に保管している」とだけ伝えてあって、闇の鎧の適合者はまだ伏せているらしい。
闇の鎧が着られるようになったら「適合者発見」の件を公表するみたいだけど……
厳重に保管、は嘘じゃないくらい頑丈に、そして侵入者にバレないように出来ている隠し扉から闇の鎧パーツを出していく。
「……本当に軽く持つよねぇ、不思議なもんだ。あ、鎧のパーツ出したらどんどん身につけていってね」
テセウスさんに言われるまま、出したパーツから身体に纏っていく。
手足は問題なく装着し、一番の難関だったプレートアーマーを身体に合わせ、留め具を嵌めていく。
パチンッ
最後の留め具も無事に留まり、頭からフルフェイスの兜を被ると、僕の身体は完全に闇の鎧に包まれた。
腕に着けていた魔石も所定の位置、胸のプレートの飾りの下へと嵌め込む。
途端。
身体中の血管から血が逆流するような、魔力が溢れ出すような、今まで感じたことの無い感覚に包まれる。
──おお、やはり全身鎧で覆うと受け取る魔力が心地いいな。こちらから送る魔力も主に馴染んでいるだろう。
……送る魔力?
──今、闇の鎧の持つ闇の魔力が少しづつ主に馴染んでいっているところだ。完全に主の魔力と混ざれば、闇の魔力を使えるようになるだろう。
「闇の魔力が……使える?」
頭の中の闇の鎧の魔石の声に反応していると、その言葉を聞き取ったケイレブが聞き返す。
「闇の魔力?シノブ、闇の魔力が使えるのか?鎧じゃなくて?」
──そうだ。主自身の力として闇の魔力が発動するだろう。闇の魔力を使う分には主の魔法アレルギーは心配しなくとも良い。
「へぇー。あ、ケイレブ!僕、闇の魔法だったら魔法アレルギー出ないで使えるって闇の鎧の魔石が言ってる」
それを聞いたケイレブを始め、ほかの人たちも目を丸くする。
「闇の魔法?!」
「え?」
その様子に今度は僕が目を丸くする。
え、なんでみんな固まってるの?
僕が困惑してるのを読み取ったのか、テセウスさんが教えてくれた。
「闇の魔法は遣い手がほぼいないんだ。その貴重な闇の魔法の遣い手にシノブがねぇ」
「闇の魔法か……もし使えるようになったとしても教えるものが……あ、そうか。闇の鎧からなら基礎から学べるんだな」
うんうんと頷き合うテセウスさんと団長とバリーさん。
そしてケイレブは爆笑しながらこう言った。
「闇の鎧を纏って、使う魔法が闇の魔法って……!シノブ、それ完全にウワサの闇騎士じゃねぇか!」
「えぇ!」
「闇騎士誕生!てか?!やべぇ、ウケる!」
とうとうしゃがみこんで爆笑しているケイレブを見下ろしていると、頭の中に声が響く。
──闇騎士、とは?
「あぁ、なんかここの人達が闇の鎧の適合者を勝手にそう呼んでるんだ。僕がそう呼ばれるのは……」
ちょっと嫌だなぁ、と言おうとしたところに被せて、
──ふむ、なかなか良いセンスではないか!そう呼ばれるのは悪くないな。
と歓喜の声が聞こえたので、僕は思わず叫んだ。
「闇騎士、その名前で呼ばないでー!」
もし、『異世界行ったら……』とはタイトルをわけて連載していたら、シノブが主人公のこのお話のタイトルは
闇騎士 その名前で 呼ばないで
でした。
タイトル回収回です\(^o^)/