29.体力向上
「……298……299……300!!」
ドスっ、と長剣を地面に突き刺し、額の汗を拭う。
「お、やっと300いけるようになったな」
肩で息をしていると、僕の横で同じく素振りをしていたリアンが余裕の笑みで声をかけてくる。
「ま、俺は500ヨユーでいくけどな」
何故か悪気なく余計な一言をリアンは付け足す。けど今は反論する体力がないのでそのまま好きに言わせておくことにした。
「シノブー、素振り終わったかー?」
ほかの団員たちとバトルロイヤル式打ち合いをしていたケイレブがベンチに戻り、僕とリアンの近くへ腰掛ける。
「目標達成したのか?」
「……今日は……300……いった……」
「ほー、頑張ったなー。初めは全然出来なかったのに」
「リアンが……一緒に、やってくれたから」
「いや、俺は自分の素振り、やってただけだし!」
リアンがツンデレ属性を発動させてたけど、実際僕がここまで素振りできるようになったのはリアンのおかげだからなぁ。
毎回毎回、「はっ、それしか出来ねぇの?」って鼻で笑われたら悔しさをバネに頑張っちゃうよね……
少し遠い目で今までの屈辱を思い出してると、ケイレブが訓練場の入口に目をやる。
「あれ、ケイン」
「よう。シノブの様子見に来たんだが調子はどうだ?」
「今へばってる。今日は素振り300行ったってよ」
「へぇ、体力ついてきたな」
「ありがとう、ございます」
少し取り戻した体力で立ち上がり、ケインさんの近くへ行く。
「今日はどうしたんですか?」
「あぁ、少し手が空いたからシノブの様子見に来たんだ。これやるから、飲んだら手合わせしよう」
ケインさんの手には、青い液体の入ったびんが握られていた。
確か、体力回復するやつだっけ?
びんを受け取り、一気に飲み干す。
するとじわじわと体力が戻ってくるのがわかった。
「回復薬、ありがとうございます。体力戻りました。……けど、手合わせできるほどまだ剣の扱い上達してないですよ?僕ほぼ素振りだし……」
「まぁ、剣の稽古と思ってくれればいいよ。そこの……リアンだっけ?その剣借りてもいいかな?」
僕の横で口をパカーっと開けてケインを見ていたリアンは、我に返り慌てて剣をケインさんに渡す。
「あの、はい!どうぞ!」
リアンはケインさんにめちゃくちゃ憧れてるらしく、声をかけられて凄く慌てていた。
「ありがとう、ちょっと借りるね。さて、シノブ。軽く打ち合おうか!」
「え、ちょ、待っ……」
こちらの返事を待たず、ケインさんは僕の方に剣を打ち込む。
明らかに手を抜いているのはわかる動きなんだけど、それでも僕はその剣を受け止めるのでいっぱいいっぱいだった。
「ほら、どうした?受けるばかりじゃなくてこちらにも打ち込んでみろ」
「はい!」
ケインさんに言われ打ち込んでみるものの、僕の全力の打ち込みは全てケインさんが片手で防いでいた。
いや、この剣を片手で振れるのがそもそもすごいんだけど……
打ち込む、受けるを何度か繰り返したところで、僕は剣を握る力がなくなり、地面に長剣を落としてしまった。
「ふむ、今日はこれくらいか」
動けなくなった僕の代わりに、落ちた剣を拾い上げたケインさんがボソリと呟いた言葉が耳に入る。
……今日は?
「よし、続きはまた明日だな」
「……明日?」
不穏な単語が聞こえ聞き返すと、ケインさんはにこやかに言い放つ。
「そう、明日。明日から素振りの後にこの打ち込み稽古もトレーニングに入れような」
「え?!」
メニューが……増えた……
「ケインありがとなー。じゃあ明日もよろしく!」
「わかった。さて、まだ少し時間があるし他に稽古つけたい奴がいたらつける……」
「はい!」
「いや俺!」
「俺も!!」
ケインさんが言い終わらないうちにいつの間にかギャラリーと化していた団員たちがあっという間にケインさんを取り囲み、稽古をつけてください!とアピールしている。
あ、リアンが押しつぶされてる……
その様子をただ呆然と見ているとケイレブに肩を叩かれる。
「最近体力ついてきたみたいだったから俺がケインに頼んだんだ。教えるなら俺よりケインの方が上手いしな」
「そうだったんだ……」
確かに初めの頃と比べて倒れることも減り、魔力切れも起こさなくなった。
魔石に魔力が馴染んできたってことかな?
なんか馴染んだら他から魔力補充できる、みたいなこと言ってた気がするんだけどどうなんだろ?
そんなことを考えていたら、ケイレブに背中を叩かれた。
「よし、少し休憩したら今日は研究棟行くぞー」
「研究棟?」
「新しい魔力増強剤の試作が出来たんだってさ」
「あ、エレンの新作か!」
僕の魔力が増えたのは多分エレンのおかげだと思う。
あの日、広間から出たあと直ぐに薬の研究を始めてくれたみたいで、魔力回復薬を改良して一度空になった魔力を回復させるときに元々の魔力の容量から少し多めに回復する薬を作ってくれた。
一度完成させたあとも改良を続けてくれて、回復する容量は日に日に多くなっている。
ただこの薬は僕に合わせて作ったから一般向けにするには更に改良が必要らしく、当面の間は僕専用にして、一般には流通させないみたいだけど。
そんなすごい薬を専属で作ってくれるエレンはほんとにすごいと思う。
薬師って、一人一人の体調に合わせて薬を調合してくれるから、相手のことをしっかりと観察するその目も凄いなぁ、と毎回僕は感心している。
研究棟に着くと、入口でちょうど出ようとするエレンと会った。
「あれ、エレン。どっか行くのか?」
「あ、ケイレブすまない!急ぎ必要な薬草が出てしまってこれから森へ行くところなんだ」
エレンは僕をチラっと見ると、目をそらす。
……なんか最近こんな風に目を逸らされるんだけど、僕何かやったかな?
疑問に思っていると、エレンは何事も無かった顔になり、
「シノブの薬は用意してあるから、後で届けるよ」
と言うと、裏の厩舎へ向かった。
「薬草採取かぁ……」
ケイレブがふと、何かを考える仕草をする。
そして僕を見て言った。
「シノブも一緒に行ってみる?」