22.黒い石
──……コセ……マ……ヲヨコセ……マリョクヲヨコセ!
「はっ!」
「あ、シノブ!大丈夫か?!」
目を覚ますと陽はとっくに昇っていて、訓練終わりと思われるケイレブが僕を揺すり起こしていた。
「ビックリした……部屋入ったら床に倒れてたから。何かあったのか?」
「何か……?」
そういえば夢の中でなにか声を聞いた気がするけど……思い出せない。
「うーん、なんか昨日の夜突然寝落ちしたみたい」
「突然寝落ちって……それほんとに大丈夫か?魔力切れかなんか起こしてないか?……あれ、でもシノブって魔法使えないのに魔力切れ起こすのか……?」
ブツブツと何かをまた考え始めたケイレブの足元に、昨日の黒い石が落ちていた。
「あ、それ……」
踏んだら痛そうだなと思い、僕がその石に手を伸ばすと、
「ん?これか?」
とケイレブが代わりに拾い上げ、すぐに床に投棄てる。
「え、ケイレブ?!」
「お前、これどうした?!」
これ、とケイレブは石を指さす。
「これは……確か広間で拾ったんだよ」
「シノブ、お前これに触って異常ないのか?」
「異常……?」
そういえば……
「異常、と言うかもしかして僕これに触ると寝ちゃうかも……?」
「おま……!それ、寝てるんじゃなくて魔力切れ起こしてんだよ……」
「魔力……切れ?」
「あーもー……なんでこんな変なもん拾ってきちまうかなー……念の為コレも報告しとくか……」
ケイレブは懐からハンカチを取り出すと、それで先程の石を包み、再び懐へしまい込んだ。
「よし、シノブ。出かける準備終わったらアレックス騎士団長のとこ行くぞ。行くって前触れ出してないから会えないかもしれねぇけど、この石の報告は急ぎ案件だ」
「わ、わかった」
僕の中ではさっき着替えたばかりの寝間着から外へ行く用の服へ着替える。
……あ。
「もしかして制服の方がいい?」
「あ、そうだな。団長は細けぇこと気にしねぇけどたまにうるせぇのいるからな」
「じゃあ制服にしとく」
そう、僕がここに来た時に、よく見る小説とかだと元々の世界の服は「なんだその変な格好」とか言われてたイメージだけど、そういうことを言われなくて不思議に思ってたら、どうやらここの王宮務めの人の制服と似たデザインだった。
王宮以外でも、街とかでちょっといいとこに出かける時は正装代わりに着るみたいだからそこまで珍しくなかったのが幸いしたらしい。
まぁそのおかげでちょっといい服着てるのに森にいた訳ありの人って裏で思われてるっぽいけど……
「準備できたかー?」
部屋の外で僕が着替え終わるのを待っていたケイレブが扉の外から声をかける。
「あ、終わったよ。今行くー」
制服に着替え、部屋の外のケイレブと合流し、王宮の騎士団長の執務室へ向かう。
──コンコン
「ケイレブです。宜しいですか?」
「入れ」
「失礼します」
「……失礼します……」
許可を得て中へ入ると、部屋の真ん中にある大きな机の前に、これまたバリーさんの筋肉の更に上を行くムキムキな人が狭そうに座って書類にサインをしていた。
「なんだ、早いなケイレブ。私はまだ朝の事務仕事が残っていてな……悪いがそこで少し待っていてくれ」
そこ、と言われたソファにケイレブと二人腰を下ろし、大人しく待っていると暫くして、首を肩をゴキゴキ鳴らしながらそのムキムキな人がこちらにやってきたので慌てて立ち上がる。
「いやぁ、待たせて悪かったね。初めまして。私はここの王立騎士団の騎士団長、アレックスだ。君がバリーが守護の森で保護してきたと言うシノブかな?」
「あ、はい!シノブです!この度は保護していただき、さらに面倒まで見ていただいてありがとうございました!よろしくお願いします!」
ペコっと腰を直角に折り、頭を下げると、アッハッハッとアレックスさんが笑う。
「そんなに固くならなくていいよ、こちらこそよろしく頼む。じゃあ話を聞こうか。座って」
「はい!」
促され、再びケイレブとソファに座る。アレックスさんは向かいの二人がけのソファに一人で座ってちょうど良さそうだった。……デカい……
「シノブ、王都は初めて来たんだろう?少しは慣れたかな」
「あ、はい。騎士団や薬師の人達に色々ご迷惑をお掛けしてると思いますが、みんな優しくて居心地がいいです」
「バリーから少し聞いたけど、行くところも戻るところもないんだろう?不便なことがあれば遠慮なく我々を頼ってくれ」
「ありがとう……ございます……」
……何度目だろうか?ここに来て人の優しさに触れるのは。
学校に行っていた頃、僕に掛けられる言葉は部活仲間からの誹謗中傷や先生からのプレッシャーばかりで、人との関わりが苦痛だったけど、ここの人たちはみんな温もりをくれる。
人との関わりも悪くないなと思わせてくれる。
ここで出会えたのが彼らでよかった。
「……ところで、話とは?」
「それなんですが……あの、これは俺の憶測なんですが、恐らく昨日の件に関連する事かと……」
ケイレブがそう話を切り出すと、ピリッ、とアレックスさん眉が上がり、纏う雰囲気に少し緊張が混ざる。
「……そうか。シノブ、少し君に確認したいことがある。場所を移動したいが構わないかな?」
「あ、はい」
そう言うと、アレックスさんはソファから立ち上がり部屋の中に待機していた人へ一言二言伝言すると部屋を出る。
僕とケイレブもその後を追った。
そのままついて行くと、連れて行かれたのは闇の鎧のレプリカの飾られた広間だった。
レプリカは昨日僕が床に置いたままになっていて、まだ組み立てられていない。
……あれ、組み立て直した方がいいのかな?
そう思って鎧をしばらく見つめていると、広間にまた人がやってきた。
あれは……?
「あれ、エレン。おはよう」
「おはよう、シノブ」
朝から爽やかな笑顔で挨拶を返すエレン。
その後ろからテセウスさんとバリーさんと……もう一人。
「お、シノブおはよう!紹介する。こいつは俺の弟のケインだ。城壁の門番をやってる」
「バリーさんの弟さん?初めまして、あの、シノブです」
「ケインだ、よろしくな」
何故かバリーさんの弟を紹介され、握手を交わす。
え、なんでこのメンバー?
僕が頭にハテナを浮かべていると、テセウスさんが、パンッ!と手を叩き言った。
「さて、では揃ったところで検証を始めようか」




