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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
80/226

20.闇騎士(エレン視点)

──コンコン


「失礼します」


中の返事を待たず、扉を開け中へ滑り込むとそのまま後ろ手で扉の鍵を閉める。

ツカツカと部屋の中へ入り、テセウスの元へ真っ直ぐ向かった。


「おい、エレン……お前くらいだぞ……宰相の部屋に返事も待たず入ってくるのは……」


抗議の声を上げたのは騎士団長のアレックスだ。

室内には他に、副団長のバリー、そしてケイレブと門番のケイン。

メンバーに問題はない。むしろ都合のいいと言っても良かった。


「急ぎ、ご報告があります」

「それ今じゃないとダメか?こっちも闇の鎧の適合者が騎士団内からは見つからなくて次の対策を練るのに忙しいんだが」


なおも抗議するアレックスを止めたのはテセウスだった。


「いいよいいよ、急ぎなんだろう?言ってごらん」

「全く……テセウス様はエレンを甘やかしすぎです」

「仕方ないだろう?可愛いんだから」

「かわいい?!()()が?!この生意気の塊みたいなののどこが……!」

「適合者が見つかりました」

「どこも何も、全てが……え?」

「は?!適合者?!」


無駄な言い争いを聞いている暇は無いので簡潔に報告のみをあげる。


──適合者。


それは国宝の闇の鎧に選ばれし者。

今は『黒の大陸』と呼ばれる何人(なんぴと)たりとも侵入を許されないあの国に、唯一上陸することが出来ると言われている鎧を身に纏うことが出来る者。

この国の騎士団が今、血眼になって探しているのが、その闇の鎧の適合者だ。

そしてその適合者は恐らく……


「エレン、適合者が見つかったとは?今日、騎士団全ての団員を確認したがそんな者はいなかった。一体誰だと言うんだ?」

「……シノブです」

「シノブ?!」


一番驚いた声を上げたのはケイレブだった。


「え……シノブ?なんで?」

「……先程、広間の闇の鎧が私の上に落ちてきたのですが……」

「え?!エレンの上に?!大丈夫?!怪我は?!」


会話に割り込み、私の身体を確認するテセウスをちら、と見て、無視する。


「シノブは難なく受止め、軽々と持ち上げていました。本人はレプリカだから軽いんじゃないか、と言っていましたが……」

「……いや、広間にあるのは紛うことなき本物の闇の鎧だ。そうそう動かせるものでは無いからね、盗難の心配もなかったのでそのままにしていたんだが……」

「あの……」


今まで黙って話を聞いていたケインが声を上げる。

普段は門番の仕事をしているため、騎士団の仕事とそんなに絡むことは無いが、闇の鎧関連だと話は変わってくる。

黒の大陸に誰も入れなくなる前、最後にあの大陸から戻ってきたのが彼だったらしい。

そうテセウスから聞いたことがある。私が産まれる前のことだから詳しくは聞かされていないが。

そのケインが私たちの顔を見渡し、確認した。


「その、シノブというのは……?」

「あぁ、紹介はまだだったな。ほら、先日森で拾ってきた魔法アレルギーの保護対象の少年だよ」

「あ、あの時の怪我人用の鞍で検問所を通った彼か……え、じゃあ適合者は魔法アレルギー持ちということか?」

「……そうなるな」


バリーとケインは難しい顔をして考え込んでいる。

その様子を見たアレックスがバリーに指示を出した。


「そのシノブと言うのは先日報告に上がっていた守護の森で保護した少年だろ?私もまだ面識がないから後で連れてきてくれ。その時に、この目で適合者か確認したい」

「アレックス団長、俺も同席したいです」

「あぁ、ケインも無関係じゃないからな。いいだろう、後で時間は報告する。エレン」


今度はこちらを見るアレックス。


「そのシノブだが、今どこにいる?」

「それが……先程広間を出る際に急に意識を失いまして、今は宿舎のシノブの部屋に寝かせています」

「え、広間で倒れたのに部屋?誰が運んだの?まさか……」


ケイレブが何故か当たり前のことを聞いてくるので、正直に答える。


「私に決まってるではないか。横抱きにして部屋へ連れ帰った」


こう、と首の後ろと膝の裏に腕を入れ抱えるジェスチャーをすると、ケイレブは笑いを堪え始めた。


「え、ちょっと待って……!それ、お姫様抱っこじゃね?それで宿舎って……だって今ちょうど食事時だろ?!食堂突っ切らねぇと二階上がれねぇじゃん?もしかして……」

「ちょうど食堂で昼間会った団員、確かリアンと言ったか?彼に会ったからシノブの部屋の場所を聞いて、そのまま食堂を抜けて部屋に連れていったが何か問題でも?」

「マジか!!」


とうとう涙を流して爆笑し始めたケイレブは放っておいて、改めてアレックスに向き合う。


「まぁ、そういうことですので今はまだ寝ているかと」

「な、なるほど」

「……シノブ、可哀想に……」


何故か悲痛な顔で私を見るアレックスとバリー。

何か問題があったんだろうか?

ひとしきり爆笑をしていたケイレブが、あ!と声を上げる。


「え、待ってエレン。()()シノブを抱えて歩いたの?!」

「そうだが?」

「うへぇ、エレン見た目細いのに筋力あるよな……俺多分そんな軽々とシノブ持ち上げられないよ……ってあれ?あ、もしかしてヤバいかも……?」


冷や汗をかきながらケイレブはアレックスたちに向かってこう言った。


「シノブ、適合者だとしても……闇の鎧(アレ)入らなくない?」


……あ。


アレックスを除く、シノブを直に見た事ある全員が気づいてしまった。

いくら闇の鎧の不思議な力に認められても、物理的に無理だろう、と。


「ふ、ふふ……」


不穏な笑い声をあげたのはバリーだった。


「いやー……シノブが万が一闇の鎧の適合者だとしたら……俺が闇の鎧の似合う男に鍛え上げてやりますよ……!」


目の奥に謎の闘志を燃え上がらせるバリーを止める人はいなかった。

私は心の中でそっと応援する。


……シノブ、起きたら地獄が待ってるぞ。頑張れ……

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