19.闇騎士(ダークナイト)
ガシャン!!
闇の鎧の一部が床にばらまかれたものの、胴体の部分はどうにか受け止めることが出来た。
そっと鎧を地面に置き、エレンの様子を見てみると、ショックで多少ぼーっとしているものの、身体のどこかに鎧がぶつかったりはしなかったようだ。
……間一髪……セーフ!
にしてもこれが国宝の鎧かぁ……
なんか思ってた鎧よりも細身でスラリとしたその鎧は実用的と言うよりは飾っておきたくなるような芸術品のような美しさの仕上がりだった。
……待てよ?
今僕、この鎧普通に持ってなかったか?
てことはもしかしてこの鎧は闇の鎧のレプリカとかそういう感じの美術品?
改めて一度床に置いた鎧を両手で持ち上げてみると、ヒョイ、と軽く持ち上がる。
材質は鉄に見えるのに、その軽さは紙で出来ているかのようだった。
え、すごい!何で出来てるんだろ?
とりあえず床に散らばってしまった他のパーツをかき集め、鎧の胴体の周りに置いておく。
もう全部集めたかな?
さて、これどうしよう……
僕、鎧に詳しくないから元に戻せないんだけど……
てかこれ、きっとレプリカだよな。
めちゃくちゃ軽いし、何よりこんなスレンダーな鎧、着れる人そうそういないだろ。
エレンとか似合いそうだけど。
……あ!エレン!
さっきからなんの反応もなく、声も発さないエレンを慌てて振り返る。
まだ少しショック状態のようだったので、目の前で手をヒラヒラさせ、声をかけた。
「エレーン、大丈夫?」
「あ……ああ……大丈、夫……」
まだ少し茫然自失としているエレンの頭を、落ち着かせるように軽くポンポンと叩く。
「いくらレプリカとは言え、上からあんなの落ちてきたら怖いよな」
「レプリカ?」
「あ、エレンも知らなかったんだ?あれ、普通に持てるしレプリカみたいだよ。エレンも気づかないなら結構本物ソックリに作ってあるんだね。実物も見てみたいなぁ」
いつか本物も見てみたい、と言う僕の横でエレンは思案深げな表情で何かを考えていた。
そして、不意に立ち上がると僕の手を引く。
「え、何急に、どうしたの」
「すまない、用事を思い出したので急ぎシノブを宿舎まで送り届ける」
「え、急ぎなら僕一人でも戻れるけど……」
「ダメだ」
そのままぐいぐいと手を引っ張り歩き出してしまった。
──コツン
ふと何かを蹴飛ばし拾い上げると、それは親指の先程の黒曜石のような綺麗な石だった。
「エレ……」
エレン、と声をかけようとして突然目の前が暗くなり、意識がブラックアウトした。
……目を覚ますと、そこはどうやら宿舎の僕の部屋のベッドに寝かされているようだ。
起き上がってみたものの、この部屋には時計がなく、どれくらい眠っていたのか、なぜ眠っていたのかまったくわからない。
とりあえず部屋を出て、1階にある食堂に向かうと、ガヤガヤと声がするのでどうやら時間は食事時のようだ。
食堂の扉をくぐり、中へ入ると何故か騒がしかった食堂の喧騒がピタリと止む。
え、なんで?
わけもわからず入口で立ち尽くしていると、
「おいシノブ!こっち!」
と、奥からリアンが声をかけてくれた。
気まずい視線を感じながらリアンの元へ行き、勧められた椅子へ腰掛ける。
「ねぇリアン、何この空気……」
「うーん、シノブは今騎士団の注目の的だから……」
「注目の的?!」
引きこもり以来、いることに気づかれないことはあっても注目されたことはなかったのでビックリする。
「なんでそんなに……」
「ほら、魔法アレルギーとか……」
すい、と目を逸らしつつ歯切れ悪くリアンは言う。
「あぁ……」
今朝のことを思い出す。確かに訓練してる人沢山いたし、あの中で倒れたりしたら目立つか……
迷惑かけるな、とか思われてるのかなぁ……
「リアン、迷惑かけてごめん……」
「迷惑だなんて思ってねぇよ!それより……」
キラキラした顔でリアンは話し始める。
「今日さ、適性検査で国宝の闇の鎧真近で初めて見たんだけど、アレ、カッコイイな!」
「あ、そうだ!結果どうだったの?すぐ結果って出るの?」
「結果は……!ダメ。俺にはまだ早かったみたいだ」
「そっかぁ。でも筋肉つければまた機会あるかもよ?頑張って!てか僕もさっきレプリカだけど闇の鎧見たよ!確かにあれはカッコイイよね」
「だろ?!」
ガタっ、と机から身を乗り出しリアンは闇の鎧について熱く語っている。
そのノリはまだ僕が引きこもる前に、友達と好きなゲームについて語っていた時の熱量に似ていて微笑ましくなった。
あ、ゲーム……
「そっかぁ、あの鎧、闇騎士の鎧に似てたんだ……」
「闇騎士?」
昔ハマったゲームで、僕が好んで使っていたキャラクターの装備が闇の鎧に似ていて、そのキャラクターの職業が闇騎士だったので、思わず呟いてしまった。
「へぇ、闇騎士か、カッコイイな!!」
まさか異世界でも厨二病的表現に食いつく人がいるとは思わなかった。
そして思った以上に騎士団に厨二病に罹りやすい人達が集まっていたようで、リアンの周りはあっという間に人だかりになり、
「闇騎士……なんか胸が踊る響きだな……」
「隠された力が解放されそうな気がする……」
「適合者現れたら闇騎士って呼ぼうぜ!」
「なら俺がその闇騎士だ!」
と、厨二病はみるみるうちに感染していった。
そのキッカケを与えてしまった僕は……
──見て見ぬふりをすることにした。




