18.高嶺の花
「あ、リアン」
「シノブだけか?ケイレブは?」
キョロキョロとリアンは周りを見渡す。
「今ちょっと席外してる」
「そっか。シノブも適性検査、受けるのか?」
「適性検査……?あ、違う違う。僕はその検査の準備の手伝い」
そうか、ここにいる騎士団のみんなはその闇の鎧の適性検査ってやつ受けに来てるんだよな。
てか書類の準備でバタバタして聞けなかったんだけど、そもそも適性って何見るんだろ?
シンデレラのガラスの靴みたいにピッタリハマる人じゃないとダメとか?
「リアンはその適性検査受けるんだろ?それって結局どんなことするの?」
「俺も王立騎士団入ったばっかで詳しくは聞いてないけど、なんかその鎧ってすごい重くて普通の人だと持てないんだってさ。だからそれを着て動けるかどうか、とかそんなんじゃねぇの?」
「へぇー。まぁ鎧とか重そうだもんね……」
バリーさんの着ていた鎧を思い出す。いくら身体を守るためとはいえ、あんな重そうなものを着たらまず身動きが出来なくなりそうだ。
「なんで急に国宝の鎧を着れる人を探し始めたのか知らねぇけど、もし自分が着れたら凄くねぇ?俺ちょっと楽しみなんだ」
「リアン……」
多分……リアンの身長だと鎧に潰されちゃうんじゃ……
なんて失礼なことを考えていたらバレたらしく、両頬をつねられる。
「いひゃい!」
「シノブ、今ぜってー失礼なこと思ったろ」
「思っひぇない!」
えいえい、と頬をムニムニされそれを回避しようと攻防戦を繰り広げていると、
「シノブ?」
と声がかかった。
頬をつねられたままそちらを向くと、そこにはエレンの姿が。
「何してるの?」
「いやそれこっちのセリフ……エレン昨日は寝れた?所長は徹夜って言ってたけど……」
「まぁ……大丈夫……」
あ、これ多分寝てないな?
「子供はちゃんと寝ないと大きくなれないよ?まぁエレンは十分育ってる気がするけど……」
頭をぽんぽんすると、ぺし、と耳を赤くしたエレンに手を叩かれる。
「慣れてるから大丈夫。それよりケイレブは?テセウスにこの書類渡し忘れたから届けるよう言われたんだけど」
エレンの手には一枚の書類が握られていた。
「あ、それ!さっきケイレブその書類足りないって取りに行ったよ。入れ違いかぁ。ここで待ってれば戻ってくると思うけど」
「いや、いい。届けに行ってくる」
そう言うとエレンは元来た方へ走っていった。
見送っていると、横からリアンの視線を感じる。
顔を見れば口を開けてポカンとしていた。
え、何その顔……
「え、シノブ……今のもしかして騎士団の高嶺の花じゃない?」
「へ?何それ?!」
「今の、『騎士団の高嶺の花のエレン様』だろ?実力あるのに騎士団には絶対入ってくれないって言う」
「え、エレンそんなあだ名付けられてるの?!」
うわぁ、それ本人絶対気づいてないやつ……
「シノブ知り合いかよ、すげぇな」
「知り合いというか、昨日初めて会ったばかりと言うか……」
そんな話をしているとケイレブがエレンと連れ立って戻ってきた。
「今そこでエレンに会って書類揃ったぜ!んで、早速で悪いんだけどシノブ、エレンと一緒に書類出してきてくれねぇ?俺さっきバリー副団長に捕まって別件頼まれちまった」
「それはいいけど、エレンと?」
「だってシノブ、道分からないだろ?あとまだ一人で歩かせられねぇし」
「エレン、忙しいんじゃないの?」
チラっと見れば、目が合ってニッコリ微笑まれる。
「私は特に問題ないよ。じゃあシノブ行こうか」
「あ、うん。あ、そうだリアン、今朝ありがと」
「へ、何が?」
「僕が起きるの、待っててくれたろ?」
「あぁ、いいよそれくらい。それよりシノブ、もっと体力つけろよ。んでまた素振り勝負しようぜ」
「……考えとく」
じゃ、と手を振りその場を離れエレンと一緒に書類の提出をしに行く。
届けた先でまた次の雑用を頼まれ、その次でまた頼まれ……と次から次へ仕事を振られ、それをこなしているうちに辺りはすっかり夕闇に包まれていた。
正直エレンが居てくれて助かった。
僕一人だと次はどこに行ったらいいのか、迷子になってひとつも用事が終わらなかっただろうから。
一通り用事が終わり、広間に戻って来てみたものの、適性検査は既に終わっていたらしく、広間には誰もいなくなっていた。
その広間の奥に一段高くなった展示台のような台の上にポツンと置かれた鎧が見える。
もしかしてあれが例の鎧?
近くで見てみたくて、そっと近寄ってみる。薄暗くなった部屋では黒色も相まってよく見えない。
僕は見るのを諦めて、エレンに声をかけた。
「エレン、遅くまで付き合わせてごめん」
「これくらい構わないよ。それよりひとつ聞きたいことがあったんだけど……」
「何?」
「……今朝、何かあったのか?」
心配そうな瞳で覗き込まれる。
今朝……?あ、あれか。
「いや、大したことじゃないよ。訓練場で怪我しちゃっただけ」
「それだけ?」
エレンの目力に圧され、結局誤魔化せず僕は今朝あったことを全て吐かされた。
「回復魔法かけられて魔法アレルギー発症した?!後遺症は?痛みは?」
「上級回復薬をかけてもうすっかり治ってるよ」
肩を捕まれガクガク揺さぶられながら、どうにか僕は答える。
「はぁ、良かった……」
ドン!
エレンが安堵して鎧の台座に寄りかかったその時、ちゃんと固定されていなかったのか、上から例の鎧がエレンめがけて落ちてきた。
「危ない!!」
僕は咄嗟に前へ出てエレンと鎧の間に滑り込んだ。