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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
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17.テセウスさんの本職

う……


目を覚ますと僕はベンチに寝かされているようだった。先程まで、足の甲から全身を貫くように走っていた痛みも今はない。

ぼんやりとした意識の中、ケイレブに薬の場所を聞かれた気がするから、きっと上級回復薬を取ってきてくれたんだろう。


──あとで、お礼言わなきゃな……


のそり、と起き上がりだんだんとハッキリしてきた視界の中、ふとそのケイレブが目にとまる。

向こうも僕が起きたことに気づいたようでこちらに手を伸ばした。


「ケイレブ、ありが……」

「っこっんの、バカタレがー!!」


ガンっ!!


「いだーーっ!!」

「あ・れ・ほ・ど!持ち歩けと言った薬を部屋に置いていくな!一歩間違ってたら死ぬぞ、マジで」


鬼の形相で僕を見下ろすケイレブに、僕は返す言葉もない。

そうそう危ない目になんか合わないだろ、とタカをくくって気を抜いていたのは事実だから。


「ケイレブごめん……あと薬ありがと……」

「どうしたしまして!!まったく……でもとにかく今回でわかったろ?お前はちょっとしたことがきっかけで命に関わるんだから、今後は絶対薬を置き忘れるな」

「わかった……」


ケイレブに怒られシュンとしていると、


「……おい」


と小さい声がした。

声の主は初対面の頃の大きな態度とは正反対に身を小さく縮こまらせたリアンだ。


「……もう、大丈夫なのかよ」

「あ、うん。薬のおかげか、剣を落として出来た痣もすっかり元通りだよ」

「……よかった」


ほ、と安堵の表情を浮かべる。


「リアン、心配かけてごめんね」

「べ、別に心配とかしてねぇし。大変そうだなって思っただけだ。もう大丈夫なら良かった。じゃあ俺そろそろ仕事行くわ」


え、と思い訓練場を見回すと僕たち以外誰も残っておらずガランとしていた。


「じゃ、またな」

「あ、またね」


リアンは片手をあげるとサッと訓練場から走り去る。

もしかして、僕が起きるのを待っててくれたのかな?

今度会った時お礼言おう。

走り去ったリアンを見送っていると、ケイレブから声がかかる。


「体調どうだ、もう動けそうか?目眩とか眠気は?」


ケイレブから食らったゲンコツの痛み以外は特に何も感じなかったので、大丈夫、と答える。


「っし。ならバリー副団長んとこ行くか」

「今日はバリーさんのとこで雑用?」

「バーカ。お前の体調の件だよ。ほら、行くぞ」


促されるまま、あとをついていくと建物に近づくにつれてだんだんと周りが騒がしくなってきた。

バタバタと人が走り回る中、バリーさんを二人で探していると遠くに人一人分頭がとび出た体格のいいバリーさんを見つける。そしてこちらに気づくとドカドカと走り寄ってきた。


「二人とも、ちょうど良かった!今呼びに行こうと思ってたんだ」

「俺もちょうどバリー副団長に用があったんですけど……てか、なんすかこのバタバタ感」

「実はな、来週って聞いてた()()()が突然今日に早まったとかで、その準備にみんな追われてるんだ。頼む、手伝ってくれ!」

「来週のって……え、あの()()?!」

「そうだ。とりあえず書類の準備とかもあるからそっち頼む」

「了解」


言うだけ言ってバリーさんはまたバタバタと建物の中へ消えていった。

僕はケイレブに訊ねる。


「例の件、て?」

「あ?あぁ、そっかシノブは知らないか。この国の国宝で『闇の鎧』って言う鎧があるんだけど、それの適合者を探してるんだよ」

「闇の……鎧……」


おお、なんか響きがカッコイイな。


「それが中々見つからなくて、とりあえずまずは騎士団全員にその適合試験を受けさせろって上からの命令。それやるの来週って聞いてたのにいきなり今日とか……とりあえず書類の準備するぞ」

「はーい」


その後はケイレブについてあっちに行っては書類を受け取り、こっちに行ってはハンコやらサインやらをもらい……と色々と走り回り、ようやく書類の準備が整った。


「あとはこれを広間に届ければとりあえず書類は大丈夫そうだな」

「……準備って、こんなに大変なんだね……」

「あぁ、書類めんどくさいよな。ハンコ一つないだけで次に回せないものとかあるし。今日はテセウス様ちゃんと仕事してくれててよかったよ。ついでに上級回復薬も補充分もらえたし、ラッキーだったな。それはもう肌身離さず持っとけよ」

「う、はい……」


テセウスさんにサインをもらう書類があったのでサインをもらうついでに今朝使った上級回復薬の補充分をもらった。

事情を説明したら、「はい、じゃあこれ」って引き出しからヒョイって渡してくれたけど、多分あれをもらうにもサインたくさん必要な書類書かなきゃいけないんだろうな、本当は。


そういえば……


「なんでテセウスさんのサインが必要な書類が多いんだ?テセウスさんて薬師なんでしょ?」

「え?!あー、そっか!シノブ知らなかったか……テセウス様の本職はこの国の宰相だぞ」

「え?!宰相って国の偉い人の?!てか薬師じゃないの?!」


だって、薬師って名乗って……ないな?

あれ、そういえば言ってなかったかも……

テセウスさん(ほんにん)が薬師が本職って言ったらバリーさんが違います!って言ってた気がする……

え、でも……


「テセウスさん、宰相にしては若くない?」


宰相ってもっと貫禄のあるおじいちゃんみたいな人がなると思ってた僕は面食らう。

だってどう見ても二十代なんだよな、テセウスさん。

……は!それともそういう種族?!エルフみたいな?


「テセウス様は確か……俺と五つ違いだった気がするから今二十七……くらいじゃないか?」

「うわほんとに若かった……」

「若くても実力はあるんだよ。ただ本人が宰相の仕事より薬師の仕事好きすぎて、よく執務室脱走してるだけで……」

「脱走……」


昨日のバリーさんとテセウスさんのやり取りを思い出す。

でも今日書類を持って走り回った僕にはバリーさんの気持ちが痛いほどわかった。

サインもらえないとものすごく大変だということが。

これは首根っこ捕まえてでも連れ戻したくなるよなー。

そんなことを思っていたら突然ケイレブが「あ!」と声を上げた。


「やべー、書類一枚足んねー!俺急いでもらってくるからシノブここで待ってて。絶対広間から出るなよ!」

「わかった」


広間には騎士団員が続々と集まってきていて、僕は邪魔にならないよう端っこの方を陣取って大人しくケイレブを待っていた。

なんとなく遠巻きに団員たちを見ていると何人かが僕の方を見てコソコソと話している姿が目に入った。


……なんだろう?


とん!


その人たちを気にしていると不意に肩を叩かれビクっとなる。

振り向くとそこには


「よ、さっきぶり」


片手を上げたリアンが立っていた。


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