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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
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11.研究棟にて

「……落ち着いたか?」


コクン。


僕は頷く。

一度溢れ出した涙はなかなか止まらず、僕は涙と鼻水まみれになってしまった。

でも溜め込んでいたものが流れたのか、グシャグシャの顔とは反対に、気持ちはとてもスッキリとしている。


「にしても、ひでぇ顔だなー。研究棟着いたけど、中入る前に一度顔洗ってくるか?」


コクン。


再び頷く。

鏡はないけど、わかる。これ絶対人前に出せない顔だ……


「じゃあこっちだ。裏手に水場があったはず」


大人しくケイレブの後をついていき水場に着くと、魔石にそっと触ってみた。


ジャァァァァ……


火傷することなく、普通に水が出せる。

やっぱりこの石は大丈夫なんだ。

納得をしつつ、水に手を浸し顔を洗い始めた。腫れた目に冷たい水が染み込みとても気持ちがいい。

勢いよく洗いすぎて髪の毛も半分びっしょりになってから気づく。


……あ、タオル……


どうしようか固まっていると、


「あ、拭くやつなかったな。待ってろ、今持ってきてやる」


そう言って建物の中にケイレブは走っていってしまった。

とりあえず手で顔の水分を拭い取り、前髪を髪に撫でつけオールバックにする。


……久々に前髪上げたな……


学校に行く時は、メガネと前髪で顔を隠していたため、素顔を外で晒したのが久しぶりだ。

メガネもこちらに来た時どこかに行ってしまったし……

まぁ伊達メガネだからなくても困らないんだけどね。


こちらに来て、人との関わりを少しづつ持てるようになったからか徐々に自分の心の壁というものが薄くなってきているのがわかる。

少し前までは、メガネと前髪で顔を隠さないと外は歩けなかったし、前髪をあげるなんて全く出来なかった。


ここのみんなに感謝だな……


ケイレブを待つ間、ぽけっと空を見上げていると、


──……タァン!


建物のさらに奥の方から何か音がした。

耳をすましてみると、


──……タァン!……タァン!


一定のリズムで何かが的に当たるような音が聞こえてくる。

僕はそっと建物の裏に周り、音の正体を確かめることにした。

そこには木製の板がズラリと並び、それと向かい合うように武器のようなものを構えた一人の人物の後ろ姿が。

邪魔にならないよう近づきその様子を見ていると、その人はクロスボウのようなものを腕のガントレットに装着し、そこにつがえた矢を外すことなく次々と的に当てていった。

そして全ての的に当て終えた時、そこの緊張感の空気がふと緩んだ。


「……すごい!」


緩んだ空気に思わず声を出してしまい慌てて口を塞ぐも、しっかりと相手に聞こえていたようで、その人はバッ、とこちらを振り返った。


「誰?!」

「あ……」


なんか前にもこんなことあったよな、とケイレブとの出会いを思い出しているとツカツカとその人はこちらに歩み寄る。


「見ない顔だけど……ここは関係者以外立ち入り禁止だよ。迷子?表まで案内する?」


僕より少し身長が低く、中性的な顔立ちで性別の判断はつかないけど、とても綺麗なその人は僕の目の前へ来ると腰に手を当てて立ちはだかった。


「あの、迷子……では」


初対面の人相手ではまだ上手く話すことが出来ず、しどろもどろになっていると、その人は僕の顔を覗き込んだ。


「ふぅん?やっぱり見ない顔」


前髪もメガネもない中で、こんな近くに人の顔があることに慣れない僕はますます言葉を失っていく。

そんな僕を興味深げに見ていたその人は、僕の手を掴むとスタスタと歩き出した。


「ここ、危ないからこっち」


手を引かれ、振りほどくことも出来ずそのまま歩いていると、角を曲がった先にケイレブがいた。


「あ!シノブ!勝手に出歩くなよ!……あれ?エレン。え、どう言う状況?」


タオル片手に顔いっぱいにハテナを浮かべたケイレブへ、エレンと呼ばれたその人は僕を引き渡す。


「ケイレブの知り合い?裏で訓練してたらいつの間にか後ろに立ってて危なかったよ。ちゃんと目を離さないで見てないと」

「裏?」

「じゃ、訓練に戻るから。もう目を離さないようにね」


ひらりと片手を振り、その人はまた裏へと戻って行った。


「もう、勝手にいなくなるなよ」

「……ごめん」


はい、とタオルを渡され、すでに乾いている顔と頭を念の為拭く。


「なんで裏なんか行ったんだ?」

「……なんか音がしたから、何かなと思って」

「……シノブって思いのほか好奇心旺盛だよな」


呆れ顔でため息をつかれ、おっしゃる通りです、と心の中で反省する。


「何度も言ってるけど、ここはシノブにとって危険なもの沢山あるんだから慣れないうちは一人で歩くのは禁止。わかった?」

「……はい」


しょんぼりしてると肩を叩かれ、


「ま、次からは気をつけろよ!よし、じゃあ中入るか」


と、中へと案内された。


「ここはさ、薬草とか回復薬とかそう言うのを、薬師の人たちが改良したり新しいのを作ったりしてるところ。作ったのはテセウス様」

「作った?!」

「そ。あの人、あぁ見えてこの国一番の薬師の実力者だからさ。あの人に作れない薬は誰も作れないと思う」

「ひえぇ……」


そりゃみんな様つけて呼ぶはずだよ……そんなすごい人だったなんて……


「そのテセウス様に見込まれた人達がここで研究してるから、ここの人たちも薬草に関してはすごい人ばっかだぜ。まぁその分変な人多いんだけどな……」


最後がよく聞き取れなかったけど、聞き返す間もなく研究棟の中の研究室の前に着いた。


──コンコン


「失礼します」


ケイレブが一声かけて扉を開け中へ入ると、そこは薬草の匂いなのか、草原というか森の中にいるような草木の匂いで充満していた。


「所長いますかね?」


薬師の一人にそう尋ねると、その人は机から顔を上げた。


「あれ、ケイレブじゃないか。所長なら素材が少なくなってきたから採取して来るってさっき準備してたけど……この辺にはいないな」

「採取?あー、だからさっきエレンが訓練してたのか」

「あぁ。今回は森の方の薬草採取するって言ってたからな。護衛代わりだろ。所長になんか用か?」


その人はメガネを外し、眉間の辺りをグリグリとマッサージしながら返事をくれた。


「実はテセウス様から頼まれて、ここに人を案内してきたんだ」

「テセウス様に?!新しい薬師か?!」


先程までの疲れた表情は消え、満面の笑みでケイレブににじり寄る。

室内の他の薬師たちも、「え、新しい薬師?」と期待でざわついているのがわかった。

僕は気まずさを覚えながら、そっと前に出る。


「あの、雑用のお手伝いに来ました。……シノブです……薬師じゃなくて、すみません」


明らかに室内の空気が『薬師じゃないのか』というガッカリな雰囲気を纏ったため、僕は自分が言い出したにもかかわらず、初日から心が折れそうになった……



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