3.森の中の出会い
バーベキュー中の集団の方へ、声を出せば聞こえるほどまで近づいて行ったものの、その人たちの異様な格好にピタリと足が止まる。
え、コスプレ?
兜は被っていなかったが、映画で見るような西洋の鎧に身を包んだガタイのいい外国人の男たちが火を囲み肉を食べながら談笑していた。
なにこれ、映画の撮影?
それとも、コスプレしてバーベキュー……?だとしたら最近の陽キャはすごい人生の楽しみ方をしてるんだな……
声をかけるタイミングも勇気もなくした僕はその場から動けず、しばし呆然と立ち尽くす。
そのせいで、一瞬気づくのが遅れてしまった。
集団のひとりが僕に気づかずこちらに向かっていることに。
「……緑珠は今日は森の主の動向確認するって言ってましたよ。もし森の主がこの辺にいたら会う……っあたっ!!」
ドンっ!
ぼーっとしていたせいか体幹的なものかはわからないが、突然の衝撃に耐えきれずドサッと地面に倒れこむ。
「痛……」
「っいてー-!なんだ!?って、お前!!」
倒れた際に打ったのか、痛む肘をさすっていると、ガっと胸元を掴まれ立たされる。
「お前、何者だ!いつからここにいた!!」
「……あ……え……」
いきなり胸ぐらを掴まれたと思ったら怒鳴られて、僕の思考は停止する。
その人は、返事がままならない僕の胸元から手を離すと手首を掴み、背中の方へ捻りあげた。
「痛いっ!」
「これ以上捻られたくなかったら目的を吐け!お前は何者だ!どこから来た!!」
ものすごい剣幕に圧され、更に声が出せなくなっていると騒ぎを聞き付けたのか他の鎧の集団が「どうした?」と集まってきた。
……無理!怖い……!
怪しげな鎧の集団に取り囲まれ、このまま意識を失ってしまおうかと思い始めた時、その中でも一番体格のいい人が「まぁまぁ」と一歩前に出てきた。
「おいケイレブ。可哀想に怯えちまってるじゃねぇか。一旦手を離してやれ」
「しかし……!」
「だいじょーぶだって。それに見たところ丸腰みたいだし、これだけ囲まれてりゃ逃げらんねぇだろ?」
「……はぁ。わかりました」
すっ、と手に込められていた力が抜け自由になると、へた……とその場に崩れ落ちた。
こわ……怖かった……
「怯えさせて悪かったな。大丈夫か?」
ガタイのいい人は手を差し伸べてくれたけど、先ほどの恐怖感が抜けず手を出すのを躊躇っていると、しゃがんで視線を合わせてくれた。
「あー、俺もデカいから怖いよなぁ。でも怖い人じゃないぞー。てかなんでそんなびしょ濡れなんだ?」
「……これは……あっちで湖に落ちて……」
そろ……と、もと来た道……湖のあった方角を指す。
「湖……?あっちの方角は……まさか!」
ドサッ!
襟足だけが伸びた淡い金髪の、先程まで僕を拘束していた青年が突然倒れた。
呼吸が荒く、顔には赤みが差しており熱があるように見える。
「貴様!何をした!」
ガタイのいい人の後ろにいた人が、僕に剣を向けた。
え!剣?!
「落ち着け!これは多分……おい、浄化の魔石は持ってきているか!」
「あ、はい!」
「急いで持ってこい!!」
「は!」
僕に剣を向けていた人に指示を出し、戻ってきたその人の手には白く輝く綺麗な石が握られていた。
「恐らく瘴気中毒だ。とりあえずケイレブを浄化してやってくれ!」
「了解しました」
言うが早いか、剣の人はその石を握ると祈るような動作をする。するとその石から淡い光が漏れだし、ケイレブと呼ばれた人の身体を包み込む。
シュワ……と一瞬白い光が黒くなったかと思ったらそのまま光は霧散した。
え、なに今の……
「これで暫く休ませりゃ大丈夫だろ。次はお前だな。よくここまで耐えたな」
ほれ、とガタイのいい人は剣の人から受け取ったその白い石を握った拳をこちらに突き出す。
受け取れってことかな?耐えたってどういうことだろ?
手をそっと差し出し、その上に白い石をぽん、と載せられる。
「熱……っ!!」
思わず白い石を取り零す。
「あっ、貴様貴重な浄化の石を……もっと丁寧に扱え!」
剣の人はひょい、と白い石を掴むと柔らかそうな布で磨き始めた。
え、あの石めちゃくちゃ熱かったんだけどなんで普通に持てるの……?
そう思い、自分の手のひらを見ると火傷をしたようで、赤く焼け爛れている。
うわ……エグい……
手のひらをじっと見つめていると、ガタイのいい人が後ろから覗き込んできた。
「お前、魔法アレルギー持ちか!」
「まほ……?え、なにアレルギー?」
よく分からない事を言われ、思わず聞き返そうとすると、
「とりあえずその全身の瘴気水どうにかしねぇと、その手のひらの治療も出来ねぇな。悪いが水ぶっかけて流させてもらうぜ」
「は?水……?」
答えを聞く前に、突然上からバケツをひっくりかえしたような水が現れ、頭から水が降り注ぐ。
息もできず、その水圧に流されないようただひたすら耐えていると、しばらくしてようやく水は止んだ。
「よし、これでひとまず大丈夫そうだな!」
何が大丈夫なのかさっぱりわからないけど、とりあえずひとつだけわかったことがある。
自分が今置かれている状況が、常識の一切通用しない事に巻き込まれている、ということだ。