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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第1章 緑珠守護団 編
60/226

60.【番外編】かき氷とハーブ風呂

「あっっっっづい!!」


それは俺が異世界(こっち)に来て二ヶ月くらい経った、ある暑い日の事だった。

その日はこっちに来てから初めてと言うくらい暑くて、詰所の食堂ではライアンが椅子の上にグッタリと溶けていた。


「今日はいつにも増して暑いな……何もする気が起きない……」

「確かにいつもより暑いですねー」


俺は日課のロバートとの鬼ごっこという名の走り込みを終え、詰所に戻って来たところだった。

昨日と比べて急に気温が上がった感じがするものの、日本のあの蒸し暑さや、殺人級の猛暑と比べるとカラッとしていて暑くても過ごしやすいかな、と俺は思っていたが、緑珠守護団(ここ)の人からすると、活動限界級の暑さだったらしい。

ぐてっとしたままのライアンから尊敬の眼差しを向けられる。


「ハヤテ、この暑さの中ケロっとしてるの、すごいな」

「俺がいたところ、もっと暑かったっていうか過ごしにくかったんで……」

「あぁ、オンセンがある火山帯地域出身なんだっけ?」


むくり、と起き上がり服の胸元を掴むとパタパタと仰ぎながらライアンはこちらに向き直った。


「あそこも暑いもんな。はぁ、こんなに暑いと食欲すら沸かないぜ。ハヤテ、なんかうまそうなもん作ってくれー」

「うわぁ、ムチャ振りするじゃん……いいけど俺これから裏の風呂の草刈りと整備するから遅くなるよ?」


前にみんなで裏の草を片付けた後、またすぐに生えてきたのであれから俺は定期的に草刈りをしている。

てか、あれただの雑草じゃなくて、いつもみんなが飲んでたお茶の素になってる草だったっぽい。鉢植えにしていた葉っぱを、試しに地植えしたら爆発的に増えてどうしようもなくなったから見ない振りした、って刈り取った草の山を引き取りに来たヘンリー先生が言ってた。

たぶんあれ、ミントだと思うんだよな。

母ちゃんが、「ミントだけは花壇に植えるな、ミントテロが起きるから!!」ってミント特集してるテレビに向かって大きな独り言言ってたのを覚えてる。

あのミントもなにか肥料以外に使えればいいんだけどなー。


「裏行くのか?じゃあ俺もなんか手伝うよ」

「いいの?」

「ここでダラダラしてるよりは暑さ忘れるだろ」


よし!と気合を入れてライアンは立ち上がり、俺と一緒に裏庭の露天風呂へと向かった。

裏庭につくと、俺はさっそく草を刈り始める。ライアンも手伝ってくれようとしてたけど、初日の「林の木、大量切り倒し事件」があったのでご遠慮願う。

なのでライアンには、問題の起きなさそうな湯船の掃除を頼む。

手馴れたもので、湯船をパパっと綺麗にしたライアンは次の仕事はないかと聞きに来た。

仕事って言ってもなぁ……


「うーん、雨の日でも湯船に入れるようにここに屋根が欲しいんだけどライアン一人だと厳しいよね?」

「あ?屋根を作ればいいのか?ならその辺の木を使って作ってやるよ」


軽く請け負ったライアンは、本当に軽く裏の林の木を何本か切り倒し、木材に加工したあとひょいひょいと組んであっという間に屋根をつくりあげてしまった……

え、ここの人の大工能力エグい……


「こんなもんだろ。ハヤテ、雨でもコレに入りたいなんて相当ここが気に入ってるんだなぁ」


ライアンの手さばきに見とれていた俺は慌てて刈った草をまとめていく。


「お湯に浸かると疲れ取れるだろ?俺毎日走り回ってるからここでお湯に浸かるとめちゃくちゃ気持ちいいんだよ」


なんてったって温泉の素じゃなくて本物の温泉だしな。……温泉の素?そういやそういうのでハーブの香り、みたいなのあったよな?

てことは……

じっ、と手の中の草を見る、!これ、ミントならハーブだよな?

ヘンリー先生に、あのいい匂いシリーズの葉っぱ少し分けてもらって風呂に入れたらいつもと違う感じになるかもな。

たまにはそんな風呂もいいかも!

よし、ヘンリー先生のとこ行こう!

一旦草を端に寄せ、


「ライアン、俺ちょっとヘンリー先生のとこ行ってくる」


と声を掛けると、ライアンは


「えぇー、なんかうまそうな食いもん作ってくれる約束はー?」


と、駄々をこね始めた。

……暑いせいか、いつもより暑苦しく感じる……


「まだ風呂の準備終わってないのー。てかそんなに暑いのが嫌なら、ライアン氷出せるんでしょ?それで涼んでなよー」

「俺魔力制御出来ないから氷出すとめちゃくちゃデカいのが出来ちゃって周り水浸しになるんだ。だからいつもマシューに怒られるからやらないようにしてるんだよ」

「なら、そこの今洗った湯船に出しておけば?」

「あ!なるほど!」


そう言って間もなく、ガンっ!!と湯船の中に俺くらいの大きさの氷の塊が出現した。


「お、ちょっと暑さマシになったかもな」

「……いつ見ても魔力ヤバイよな」

「でもいくら氷出せて少し涼しくなっても腹には溜まらないからなー。冷たいもん食いたいけど氷は味しないしよー」


だからなんか食べ物作れ、と目が訴えている。

いや、俺もなるべくなら火を使いたくないんだよ……

そう思って、ふと思いついた。


そうか、味がしないなら味つければいいんじゃん。


「よしわかった、じゃあライアン。屋根作ってくれたお礼に冷たいデザート作ってやるよ!」

「ほんとか!」


目を輝かせ、身を乗り出すライアン。


「ちょっとヘンリー先生のとこ行ってくるから待ってて」

「おう!」


ライアンを待たせ、ヘンリー先生の元へ向かう。


「ヘンリー先生いますかー?」

「やぁ、ハヤテくん。何か用かい?」


調剤室で薬草の整理をしていたヘンリー先生に、余っているいい匂いのハーブをわけてもらう。


「それどうするんだい?料理にまた使うのかな?」

「いや、これは裏の露天風呂に入れようと思って」

「ロテンブロ?!てことはまた何か新しい使い方を見つけたのかな?!」


ガシっ!!と両腕を掴まれる。

しまった、スイッチ入れちゃった!!


「いや、()()色々効果のある薬草なんですよね?なら風呂に入れたら何か効果あるかもしれないなーって……」

「なるほど!!確かにこれはスタミナ回復薬に使われる薬草で疲労回復を増長させるんだ。飲んで効くなら肌から取り入れても聞くかもしれないよね!こっちは気分がスっとする効果があって……」


延々と語り出したヘンリー先生の口を一旦塞ぎ、静かにさせる。


「あの……説明は後でにしてもらって……あとスタミナ回復薬を何本かもらいたいんですけど」

「スタミナ回復薬?いいよー、とりあえず箱ごと持ってって後で余ったら返してくれる?」


赤い液体の入ったびんが十本ほど納まった箱を譲り受け、俺は裏の露天風呂へ戻る。ヘンリー先生もあとから湯船に入りに来るらしい。

なら早くあの氷の塊、どかさないとな。


「ライアンただいまー」


露天風呂へ戻ると、そこにはロバートとジェイド隊長がライアンと一緒になって氷を囲んでいた。


「あ、ハヤテおかえりー!」

「よう」


片手を上げこちらに挨拶する二人。


「なんでここに?」

「ハヤテ探してたら露天風呂(ここ)にでっかい氷あったから涼んでた!」

「俺もついつい涼を求めてうろついてたらここを見つけてなぁ」


やっぱりみんな今日の暑さは堪えているのか少しグッタリしているように見える。

なら、この二人にも()()作ってやるかー。


「そしたら今俺ライアンに冷たいデザート出す予定なんだけど二人も食べ……」

「食べる!」

「食う!」


言い終わらないうちに食い気味に返事をされた……

そしたら皿もっと持ってくるか。

台所から皿を持ってくると、俺はナイフに風の魔力を纏わせ、氷を削り始める。

それを見ていたロバートが顔に絶望の色を滲ませた。


「え、まってハヤテ……もしかしてデザートってこの氷?」

「冷たくていいだろ?」


言いながらショリショリと皿に氷の山を作っていく。


「氷……確かに冷たいけど……味ないじゃん……」


しょんぼりとしたロバートに今削った氷の山の皿を渡す。同じようにライアンと隊長にも渡したけどみんな目が虚ろになっている。


「え、何その顔……」

「だってこれただの氷の塊じゃん!」


抗議するロバートの氷の山に、さっきヘンリー先生からもらったスタミナ回復薬をぐるりとかける。


「え?これスタミナ回復薬?」


そう、俺が作ったのはイチゴ味のかき氷!

あれだけで飲むと甘ったるいだけの物も、この氷と一緒に口に入れれば絶対美味い!

ライアンと隊長の氷にも回復薬を回し入れ、自分の分もサッと作り、いざ実食!!


三人ともスプーン片手に固まってるけど俺は気にせず食べるもんね。


……サクっ


いい感じに削れた氷とイチゴ味のシロップ風味のスタミナ回復薬は口の中で程よく混ざり合い、ふわりと溶けてゆく。

美味い!

氷も魔力で出した氷だからか不純物がなくて口当たりがすごくいい。

俺が夢中で食べている姿を見て、三人も恐る恐るスプーンでかき氷をそっとすくい……口に入れた瞬間無言でガツガツと食べ始めた。


「あ!そんなに急いで食べたら……!」

「いたーい!なにこれ、めっちゃ頭痛い!」


ロバートがこめかみの当たりをガンガン叩いている。

あーほら、言わんこっちゃない。


「そんな一気に食うからだよ……でもこれ、美味いだろ?」

「「「美味い!」」」


三人の声が見事にハモった。

それから氷をタライに移し、湯船にお湯を張る。


「ハヤテ、今度はなにやってんの?」

「刈ったミントっぽい草と、ヘンリー先生にわけてもらったハーブを湯船に入れて、ハーブ風呂にしてる!なんか疲労回復効果上がったり、気分がスッキリしたりするかもって実験」

「へぇ。確かにその薬草いい匂いするもんね。俺も入ってこう」

「なら俺も!」

「お、そしたらライアン。たまにはここで一杯行くか?」

「いいっすね、付き合いますよ」


隊長とライアンはウキウキしながら酒を取りに行った。


「ハヤテ、俺さっきのもう一杯食べたい!」


かき氷が気に入ったロバートはおかわりを要求する。俺も何となくあと一杯行きたい気分だったから俺とロバートはかき氷を食べることにした。

熱い湯船に浸かりながら食べるアイス、めっちゃ美味いんだよなー。かき氷もめちゃくちゃ美味そう!

たっぷり温泉で満たされた石造りの湯船に、ハーブの葉っぱをありったけ浮かべる。

すると露天風呂にはハーブのいい香りが広がった。

アロマで癒されるって、こういうことだな。

めちゃくちゃ匂いでリラックスして、程よい眠気に誘われる。

隊長とライアンも戻り、二人は酒で乾杯。俺とロバートはかき氷で乾杯をして、露天風呂をめちゃくちゃ堪能した。


「あー、気持ちいい!熱い風呂と冷たいかき氷サイコー!!」


そう叫んだこの時の俺は、この後慣れない回復薬の副作用でそのまま風呂で爆睡し、素っ裸のまま介抱される事になる未来が訪れることに、まだ気づいていない……


今回は番外編でした٩(ˊωˋ*)و

次回から忍目線の第2章始まります!

疾風はしばらくお休みですが、どうぞこのまま宜しくお願い致します!!

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