59.再会
「……入っても?」
扉の前で固まっているロバートの隙間から外を覗くと、確かに外に立っていたのは闇の鎧を纏った闇騎士だった。
ロバートが闇騎士じゃなかったのか……
予想が外れ、ぽけっとしていると、ロバートが闇騎士の問いかけに返事をする。
「ど……どうぞ」
ロバートが扉の前から一歩下がり、闇騎士を部屋の中へと招いた。
そして俺の向かいのソファに座るよう案内する。
ロバートは俺の横に座り、焦った声でこっそり俺に呟いた。
「ちょ、え、なんで闇騎士?!てか俺闇騎士って喋らないって聞いてたんだけど!」
「いや、それ俺に言われても……てか俺も何回か会ってるけど喋ってるとこ初めて見たよ……」
俺たちがコソコソ喋っていると、闇騎士はテーブルの上にコツンと魔石をひとつ置いた。
「そっちの君の分、まだ闇の鎧と同調させてなかったから」
どうやら闇騎士がわざわざロバートの石の登録にこちらに赴いてくれたらしい。
「これ?これをどうするの?」
テセウスさんの説明をまだ聞いていないロバートがやり方がわからず戸惑っていたので俺が説明をする。
「なんかその黒の宝珠の欠片にロバートの闇の魔力を流すんだって。んで、流し終わったらそれを闇騎士の鎧の魔石に近づけるとロバートの魔力が闇の鎧に登録されて、その鎧の眷属になるらしい」
「眷属?」
「そー。そうすると、なんか黒の大陸の結界の中に入れるらしいぜ」
「へぇー」
しゃべりながらも、ロバートは黒の宝珠の欠片を闇の魔力で包んでいく。ある程度魔力が染み込んだところでその石を闇の鎧に近づけた。
さっき俺が登録した時と同じように鎧から出た黒いモヤがロバートの持つ石を包み、ぼんやりと光りながら石へと吸い込まれていった。
「これでこの石も登録出来た。こちらで預かって、加工したらまた返すよ」
ロバートが石を渡し、その石を鎧の隙間から器用にしまうと、闇騎士は俺の方を見た。
「少し、いいかな?」
そう言って闇騎士は闇の鎧の兜を脱ぐ。その中から現れたのは漆黒の髪と瞳を持つイケメンだった。
「疾風、久しぶり」
優雅に微笑むイケメン。
いや、久しぶりって言われたらさっき振りだけど、なんかニュアンスがもっと前から知ってる感じなんだよな。
「はぁ……闇騎士で久々に人と喋ったよ。疾風、もう僕のこと覚えてないかな?昔体操教室で、一緒によく練習してたろ?途中で僕は別の教室に行っちゃったけど……」
体操教室?!
は?え?それって元の世界の話だよな?!
何がどうなってるんだ?!この人も異世界転移者?
てか、体操教室ってもしかして……
「……まさか、にーちゃん?!」
闇騎士の正体は、俺が体操教室に入るキッカケになった憧れのにーちゃんだった。え、でも一体何がどうなってるんだ?
なんで異世界に……
驚きのあまり言葉を失っていると、服の袖をロバートがツンツンと引っ張る。
「あの……ハヤテ、闇騎士ってハヤテのお兄さんなの?」
あ、そっか。にーちゃんって言ったら普通はそう思うよな。
「いや、違くて。昔、体操……じゃなくて、えっと訓練してた時に一緒で、よく俺の面倒を見てくれた年上の兄ちゃんで……そういや名前、なんだっけ……?」
昔からにーちゃん、と呼んでいたせいで名前を思い出せない。
うーん、と思い出そうとしていると、ぶは、と闇騎士が吹き出した。
「うん、やっぱり名前覚えてないよね。疾風と初めて会った時、『僕の名前は漢字で忍者の忍、って書くんだよ』って言ったら、『にんちゃん?……にーちゃん!』って言って、そこからずっと『にーちゃん』って呼ぶようになっちゃってたから」
「……そうだっけ……?そんな昔のこと覚えてないし!……てか、あれ?ちょっと待って……忍者の忍……?」
はるか昔の出来事のように感じる、俺がこちらの世界へ飛ばされた日。
その日、俺が最後に会った人物ってもしかして……
「そう、忘れてるみたいだから改めて名乗るけど、僕の名前は忍。服部 忍だよ」
次回、番外編を挟んでハヤテはしばらくお休みして、第二章に入ります。
……まさかこんなに長く続くとは……
いつも読んでくださっている皆様のおかげです。
ありがとうございます(*´ ꒳ `*)
今しばらくお付き合いいただけると嬉しいです!