58.闇騎士の正体?
「僕の所有する、薬草の研究をしているところなんだけどね。薬師っていうのは、のめり込むと時間を忘れる人が多くてねぇ、気づくと家に帰らず何日も研究に明け暮れて……ってのが多いんだよ。だから、なら初めから家に帰らなくてもいいようにすればいいじゃないか!って宿泊施設も建てたんだ」
……え?それって社畜では……??
そう思ったものの、そこで研究してる人達にも好評らしいので何も言うまい……
「そこなら限られた人しか出入りしないし、宿泊施設と研究室は少し離れてるから研究の邪魔にもならないと思うんだ。そこの部屋なら森林竜を連れて行ってもいいよ」
「ありがとうございます!」
「アレックス、後で案内してあげて」
「かしこまりました」
「あ、じゃあ俺先に行って所長に話通してきます」
ケイレブはそう言うと部屋を出ていった。
それを見送りテセウスさんは席を立つ。
「ヘンリーも森の主の薬作り手伝ってくれるみたいだからそこに泊まって。って言ってもきっと君は研究室にこもるだろうけどね」
「いや、そんなことは……!……あるかもしれないですけど」
「のめり込みすぎには気をつけてね。まぁ僕も似たようなものなんだけど」
焦っているヘンリー先生を横目に、にこにこしながらテセウスさんはひらりと手を振って部屋のドアの方へ向かう。
「僕も職務の合間を縫ってなるべくそちらの研究室に顔を出すから。ハヤテくんとロバートくんには申し訳ないけど出来るだけ早く準備をして黒の大陸に赴いて欲しい。もしかしたら最悪、緑珠の異変より先に黒珠の方が瘴気が決壊するかもしれないからね」
思った以上の悪い事態にゴクリ、と喉を鳴らす。
「わ、わかりました」
「必要なものがあれば、アレックスに伝えてくれ。早急に用意するから。アレックス、あとは頼むね」
「承知致しました」
ではまたね、と手を振りそのままテセウスさんは部屋を後にした。
「よし、では私たちも厩舎の森林竜の元へ行こうか」
ガシャ、とテーブルに置いてあった回復薬のびんが入った箱をアレックスさんは持ち上げる。
「あの、残りのその回復薬はどうするんですか?」
「これか?回復薬の加工は魔力の底上げの訓練にいいとジェイドからの報告で聞いていたからな。先程実演してもらって要領も得たし、後で騎士団の訓練に組み込もうかと思ってな」
わっはっは、と笑うアレックス団長を見て、団員さんたち頑張れ、と心の中で応援しておいた。
騎士団の厩舎につきドラコを探すと、ドラコは大人しく待っていた。
「ドラコー、ただいまー」
──クォ!
短いしっぽをフリフリしてこちらにドラコは駆け寄ってくる。犬かな?
「大人しく待てて偉いなー。じゃあ俺たちが泊まるところに移動するからな」
ドラコに声をかけ、厩舎に繋がれていた紐を外す。
これ、リードみたいに持ってた方がいいのかな?
「アレックス団長、この紐解かない方がいいですか?」
「あぁ、念の為繋いでいただけだから解いても構わんよ。そもそもそんな紐では本気を出した森林竜をつなぎ止めておくことは出来ないしな」
……確かにな。あの崖に頭突きをしていた森林竜の群れを思い出すと、あの勢いでこの紐を引っ張ったら厩舎ごと崩れ落ちそうだ……
厩舎を見て、一人でゾッとしていると、ケインさんがアレックス団長に声をかけた。
「団長、それでは自分はここで失礼します」
「あぁ、ケイン、ご苦労だったな。お前も黒の大陸行けたら良かったんだがなぁ」
「こればっかりはなんとも……ハヤテ、ロバート!二人とも頼んだぞ」
ケインさんの必死な態度に気圧される。
「もちろん!頑張ります!」
「怪我には気をつけろよ。あと必ず生きて戻れ。こんなこと頼んで悪いな……では、失礼します」
ぺこり、と団長に頭を下げケインさんは演習場の方へ戻って行った。
「君たちはこっちだ」
アレックス団長を先頭に、王宮の中へと足を進める。
ひぇ、広い……
これ俺一人だったら確実に迷子になるんだけど……
複雑な右左折を繰り返してしばらく歩くと突然、目の前に緑豊かな庭園が広がる。
その様々な種類の花たちに囲まれるように建物が佇んでいた。
温室のようなドーム状のものと、レンガ造りの洋館が二つ。
そのうちの一つの洋館を指してアレックス団長が言った。
「あちらが滞在中に使用してもらう建物だ」
案内された建物は二階建てで、そこそこの広さがあった。
これが研究室用の宿泊施設?普通に住んでも余裕があるくらいの設備なんですけど……
「基本、生活するのに問題ないはずだ。食料等は後でこちらに持ってこよう。王宮の食事だと森林竜は連れて行けないからな。何かあればこのベルを鳴らしてくれ」
アレックスさんは入口の横のボタンのようなものを指さす。
「これは王宮の警備に直接繋がっている警報笛みたいなものだ。鳴らせば直に警備室に異変が伝わる」
「わかりました」
「明日また来るから、必要なものがあったらその時に教えてくれ。では失礼する」
「ありがとうございます」
アレックスさんはそう言うと去っていった。その後を追うようにヘンリー先生も「僕はちょっと研究所の方に顔を出してくるよ」、ともう一つの建物の方へ行ってしまったので、広い部屋に俺とロバートとドラコだけが残された。
俺たち三人は各々ソファと床に腰を下ろし一息つく。
そう言えばさっき闇騎士に会った時、またお礼言い忘れてたな。
次会えるのはいつだろ?
そう思って、ふと、ロバートと闇騎士が一緒にいたことがないな、と思い当たる。
あれ?もしかして闇騎士の正体って……
まさか、と思いロバートを見る。
本人はのびー、と体を伸ばしソファにゴロンと横になっていた。
「あのさ、ロバート……」
「なにー?」
横に転がったまま、返事をするロバート。
「あの、もしかして闇騎士の正体って……」
──コンコン
俺がロバートに確認しようとしたその時、ドアのノック音が部屋に響いた。
「はーい?」
ぴょん、とソファから降りたロバートがドアへ向かい、扉を開ける。
そしてそのまま固まった。
「ロバート、どうした?」
なかなか動かないロバートに声をかけると、ロバートはぎぎぎ、とぎこちなくこちらを振り返り、そして言った。
「……なんか、ドア開けたら闇騎士いるんだけど……」