56.闇騎士と鎧の眷属
「うわ!」
思わずソファーから飛び退く。
「え、いつからここに?!」
「さっきからいたよ」
ケイレブが答えるけど、さっき俺が部屋を見渡した時いなかったよな?!
「闇騎士、いつ見てもお前のその気配消す能力すげぇなー」
「……」
やっぱりケイレブは闇騎士とは顔見知りなようで、普通に話しかけている。闇騎士の返事は無言だったけど……
突然の闇騎士の出現で、そっちに気を取られてたけど、俺たちを見守ってニコニコしているテセウスさんを見て思い出した。
そういえば薬の材料が必要って言ってたよな。
「テセウスさん、薬の材料って何取ってくるんですか?俺あんまり薬草とか詳しくないんですけど……」
「あぁ、必要なのは薬草じゃないんだ。普通の眠り粉なら薬草だけで十分な効果のものが作れるんだけど、今回はなんて言っても森の主に使うからね。効果を高めるのにあるものが必要なんだ」
「あるものって?」
俺の問いかけに、テセウスさんは椅子に深く座り直し、答えた。
「──黒の宝珠」
は?
「正確には、黒の宝珠の欠片だね。宝珠の中でも黒の宝珠はずば抜けて高い魔力が内包されていると聞く。それを媒体に眠り粉を精製すれば、きっと森の主にも効くと思うんだ」
「え、ちょっと待ってください……?!黒の宝珠……?」
黒の宝珠?それを取ってこいってことはもしかして……
動揺を隠せず、手のひらをテセウスさんに向け、待って、とジェスチャーをしていると、テセウスさんはにこやかに言い放った。
「キミ、闇騎士と黒の大陸に行くんだろ?その時ついでに持って帰ってきてくれないか?」
「えぇ?!」
驚きに言葉を失っているとケイレブが説明をしてくれる。
「今回闇騎士が黒の大陸に行く目的が、今の黒の宝珠の様子見と、必要であれば浄化作業なんだよ。闇騎士一人で行かせる訳には行かないから、同行者を募ってたってわけ。条件はコレ」
コンコン、と闇騎士の鎧を叩くとケイレブは手を差し出した。その手の上に闇騎士が黒い石を乗せる。
あれ、あの石……
闇騎士から受け取った黒い石を、ケイレブは俺に渡した。
「コレは闇騎士が闇の剣を使って魔力を抜いた魔石。ここに元の魔石の魔力を戻せば魔石は元に戻るけど闇の魔力を流すと、仮初の黒の宝珠の欠片になる」
「仮初の黒の宝珠の欠片?」
ならそれを薬の材料に……という俺の考えはテセウスさんにすぐに見抜かれた。
「あ、黒の宝珠の欠片と言っても所詮、仮初だからね。薬の材料にはならないよ?ただ、この欠片に闇の魔力を流して闇騎士の鎧と同調させると、その石の魔力の持ち主は闇の鎧の眷属になって、あの黒の大陸の結界を抜けられるようになる」
「眷属……」
「眷属と言っても支配したりされたりってことはないらしい。そこは安心してくれていいよ」
手のひらに握らされた黒い石を見つめる。コレに闇の魔力を流して闇騎士と一緒に黒の大陸へ行く?
横を見れば、視界に入るまで相変わらず気配のない闇騎士が置物のように立っていた。
俺が見てることに気づいたのか、ぎっ、とこちらを向く。
そしておもむろに頭をぽんぽん、と撫でた。
へ?!なんで俺闇騎士に子供扱いされてんの?!
「へぇ、闇騎士が自分から人に触るの珍しいな」
ケイレブが驚きに目を見開いた。テセウスさんもこれには目を丸くしている。そして、俺の握っていた石を指さした。
「ハヤテくん、早速だけど石に闇の魔力を流してもらってもいいかな?」
「え、ロバート待たなくてもいいんですか?」
「彼にも後でやってもらうよ。先に登録を終わらせてしまおう」
「あ、はい」
詰所で闇騎士の真似をした時のように、手のひらに闇の魔力を集中させる。
ひょろ……
やはり出てきたのは微かな黒い糸。
それを黒い石を包み込むように纏わせていく。
じわり、とその糸が石に吸い込まれたところで、テセウスさんに、闇騎士の鎧に嵌め込まれた石と、この石を合わせるよう言われる。
言われるがまま、石同士をコツンと合わせると、闇騎士の石から黒いモヤが出て俺の石を包み込む。
しばらくそうしているとそのモヤも俺の石に吸い込まれていった。
仄かに光り、その光が収まるとテセウスさんから、「もういいよ」と声がかかる。
「ありがとう、その石は一旦こちらで預かろう。出発までに少し加工させてもらうね」
石をテセウスさんに預け、振り返ると闇騎士の姿は部屋のどこにもなかった。
……あれ?!いない?ホントにいない?見えないだけ?
俺がキョロキョロしていると、ケイレブかドアを指さし、
「闇騎士ならさっき出ていったぞ」
と、半分笑いながら教えてくれた。
やば、めっちゃアワアワしてるとこ見られた……
にしてもホントに気配感じない。闇の鎧の力なのかな?すげぇ!
ドアを見つめ、闇の鎧のポテンシャルの高さに感心していると賑やかな声が聞こえてきた。
「ケインさん、なんで部屋を間違えるんですか?」
「悪い、王宮の中って似たような部屋ばっかでたまに迷うんだよな」
「アレックス団長に見つけてもらえて良かったよ……」
「いやー、まさか二人が迷子になってるとはな!ハハハ!」
言い合いながら部屋に入ってきたのはロバートとケインさんと回復薬を持ったアレックス団長だった。