53.宝珠の役割
完全に撃沈したバリー副団長は置いておいて、ケインさんが俺たちの座っているベンチへ歩み寄る。そして俺たちの後ろの席を指差した。
「ここ、座っていいか?」
「どうぞっ……てか!ケインさん、めちゃくちゃ強い人だったんですね」
「いや、昔ちょっと色々あって、魔物とやり合う機会が他の奴らよりあっただけだよ」
「あ、そういえば検問所で会った門番さんも魔物見たことないって言ってましたね」
ドラコを見てめちゃくちゃビビってたもんな。こんなに可愛いのに。
慣れてきたせいかドラコと意思の疎通が図れるようになってきて、ますます可愛さが増した気がする。
うちの子可愛い。
「ハヤテのいる緑珠の辺りは魔物普通にいるだろ?」
「そうですね、駐屯地出たらその辺ですぐに会いますね」
この世界はそれくらい普通に魔物と出会うのかと思ってたけど、緑珠守護団が田舎みたいなだけだったのか……
「王宮には光珠があるから、この周辺はほとんど魔物が出なくてな。遠征でもない限り、王宮のヤツらは生きてる魔物を図鑑でしか見た事ないだろうな」
あ、そっか。
食用の魔物なら一頭売りしてるから街とかで普通に見かけるのかな?種類限られるだろうけど。
てか光珠があると魔物が出ない……?
知らないことが出た時は、困った時のロバート先生だ。
そう思いつつチラッとロバートを見ると、察したのか説明してくれる。
「王都に光珠があるって前に言ったろ?それがあるのが王宮内なんだよ。光珠は回復と浄化の魔力が宿っていて、王宮を中心に王都全体を浄化の結界が覆ってる。普通の魔物は浄化の力嫌がるから、王都には近づかないってわけ」
「え、魔物って王都近寄るの嫌がるの?じゃあ、ドラコ大丈夫かな?」
心配になりドラコを見てみれば、大人しくベンチ横に寝そべり気持ちよさそうに昼寝をしている。
……大丈夫そうだな?
「森林竜は体内に元々浄化器官持ってるから浄化結界が気にならないんじゃない?」
「浄化器官?」
「なんだよハヤテ。森林竜連れ歩いてるのに浄化器官のこと知らないのか?」
ロバートに色々聞いていると、リアンも参加してきた。
「てかアイツ、森林竜だったのか。初めて見たぜ。ハヤテ、珍しいもん捕まえたな」
「捕まえたんじゃなくて勝手に着いてきちゃったんだよ。てか結局、浄化器官て何?」
「浄化器官は、体内に取り込んだ瘴気を浄化してくれる器官だろ?それがあるから森林竜らは宝珠のそばに棲めるんじゃねぇか」
リアンの説明を聞いて、さらに疑問が増える。
宝珠のそばに棲むのに浄化器官が必要?
理解していないことが顔に出ていたのか、更にロバートが説明をしてくれた。
「宝珠の役割はさ、その地域の瘴気の安定なんだよ。瘴気って高濃度の魔力だから人が取り込めば、魔力に耐えられなくて病気になって倒れるし、高まった魔力で大気が不安定になって天変地異も起きる。魔物が取り込めば凶暴性が上がって突然変異の凶暴な魔物が増えたりする。宝珠はその高濃度の魔力を取り込んで、無害な魔素に変えて排出してるんだ」
「あぁ、だから宝珠を動かすとその地域の瘴気が浄化されなくなって疫病とか災害が起きるのか」
なんで動かすだけでそんな事起きるんだ?って思ってたけどそういうわけだったのか。
「で、浄化をした時に地下に少しだけ瘴気が流れるんだよ。だから宝珠の近くの地下は少しだけ瘴気が濃いんだよね」
「まぁ濃い瘴気っつっても一度は宝珠を通った瘴気だから、大気中のはすぐに魔素に変換されるらしーけど、水に溶け込んだ瘴気は浄化に時間かかるらしい。でも生きるには水が必要だろ?他の魔物は飲み水を求めて少し遠くに水源探しに行くけど、森林竜はどこでも飲めるようにハナっから高濃度の瘴気の水を飲んでも身体に害が出ないよう、浄化器官を持って産まれてくる。ものぐさな奴らだよな」
……ん?
地下?
水……??
背筋に冷たいものが走る。
緑珠の祠の地底湖の水、俺……飲まなかったか?!
「……あのさ、ちなみにその瘴気って人にどんな害が出るんだ?」
俺の疑問にロバートが答えた。
「俺、昔疫病にかかったって言ったろ?その原因はその瘴気。普通の人は体内に取り込んだ瘴気の魔力に耐えられなくて、魔力を外に逃がそうと高熱が出る。で、高熱に耐えきれずほとんどの人が死ぬ。うちの村でも、俺の他は数人だけだったよ、生き残ったの……」
死……
でも俺、高熱はまだ出てない。
もしかしたらあの地底湖の水は平気だったのかも?
「あのさロバート。おれ、森の主に乗って地底湖見つけたろ?あそこの水、森の主と森林竜が飲んでたんだけどあそこは……?」
「地底湖ってあの緑珠の祠の裏の?あそこは完全に高濃度の瘴気が溶け込んでると思うよ。森林竜達以外、生き物いなかったろ?」
言われて思い返してみると、透き通るような綺麗な水だったのに魚一匹泳いでいなかったような……
サアァ、と顔から血の気が引く。
「ロバート、俺……あの地底湖の水飲んじゃった……」