47.休息所にて
勢いよく外に飛び出していくと、すぐに何かにぶつかって弾き飛ばされた。
「いってぇー!!!」
盛大に地面に転がされゴロゴロ転がり、うつ伏せの状態で止まる。
起き上がろうとしたところで、背中を何かに押さえつけられて立ち上がれない。
「な、なんだ?!」
もしかして魔物の襲撃にでもあったのか?!
見える範囲で見渡してみても、目に入るのは驚いた顔のまま固まっているロバートとケイレブの二人のみ。
てか助けてくれよ!
「ちょ、二人とも見てないで助けて……なんか背中に乗ってるんだけど……」
は!と気づいたロバートがしゃがんで手を広げた。
そして俺の背中の上のものに向かって叫ぶ。
「おいで、ドラコ!」
……ドラコ?
ロバートの声に反応するように、のそり、と上に乗ってたものが背中からどいた。
起き上がり見てみると、それは確かに森に置いてきたはずの、角の欠けた森林竜のドラコだった。
「ドラコ?なんでここにいるんだ?!」
「多分俺たちの後をついてきちゃったんだろうなぁ。シルワは居ないみたいだから一匹で来ちゃったかな?」
よしよし、とドラコを撫でながらロバートが周りを見渡す。
「森林竜、足が早いなとは思ってたけど馬の後を追ってこの距離追いつけるほど走れるんだなぁ」
「ケイレブ、感心してるけどこれからドラコどうする?森まで連れて帰ってたら時間食うし、かと言って連れてってもマズイんだろ?」
しきりに感心しているケイレブに詰め寄ると、ケイレブも「うーん……」と悩んでいる。
「ここまで来ちゃったなら一旦王都まで連れていくしかないだろうなぁ」
「俺たちで守るしかないってことか」
「騎士団のある王宮まで行けば、そういう奴らは手が出せなくなるからそこまで目を離さないようにしよう」
当のドラコはロバートに撫でられながら地面に横になっている。完全に懐かれたな、これ……
「あ、とりあえず今夜どうしよう……小屋の中に入るかな?」
「あー、ギリギリかもな……ロバート、ドラコを小屋の中に入れてくれ」
「はーい」
ロバートが歩き出すと、ドラコは起き上がり俺とロバートの顔を交互に見る。
「ハヤテも来ればついてくるかも」
「そうかな?ほら、行くぞドラコ。ついてこい」
俺が歩けばロバートの言う通り素直についてくる。ドアの幅はギリギリで、何とか室内にいれることが出来た。
この小屋は、騎士団所有で、各宝珠の守護団が移動する際に使える休息所らしい。
二階建てで、一階はリビング二階が寝室で、寝袋を使って一応五十人くらいは雑魚寝できるようになっている。
いくら広いとはいえ、さすがに寝室にドラコは連れて行けないので俺はヘンリー先生が寝ているソファの向かいで寝ることにした。
テーブルをどかし、スペースを開けるとそこへ来るようドラコを呼ぶ。
「ほらドラコ。お前はここにおいで」
パンパン、と手を鳴らし呼びかけると、とすとすとこちらに寄り、どすんと床へ横たわった。いくら森林竜にしては小さいとはいえ、小さめのポニー位の大きさがあるからそこそこ場所を取る。
……これ、ヘンリー先生起きたらビックリするだろうな……
「あ、ハヤテとドラコそこに寝る?なら俺とケイレブも一階で寝ようかな」
再度荷物を片付けに行っていたロバートが戻り、他のソファへ座る。
「あ、ハヤテこれ」
よけたテーブルの上の回復薬を見て、ロバートが声をかける。
あ!
「そうだ、忘れてた。それだけ作っちゃおう」
ヘンリー先生の回復薬アメを二個ほど作っている間にケイレブも戻り、空いているソファで横になった。
「予定外にドラコ連れていくことになっちゃったけど、まぁこの速度に追いつけるなら到着時間はそんなに変わらないだろ。このまま飛ばして明日中には王宮まで行くぞ」
「ヘンリー先生大丈夫かな?」
「そこはヘンリーに頑張ってもらうしかねぇなあ」
「よし、出血大サービス!もう一個回復薬加工してあげよう!」
残りの魔力ギリギリまで使い、計三個回復薬を加工すると、ドサッとソファに倒れ込む。
「ダメだー、限界ー!俺もう寝るねー」
「ハヤテおつかれ!俺たちももう寝るよ。また明日な」
「ハヤテ、ロバートおやすみ」
『おやすみー』
そのまま微睡むように俺は眠りの世界へ落ちていった。
──翌朝、目を覚ましたヘンリー先生の悲鳴で全員起きたのは言うまでもない。
「な!!なんで森林竜が小屋の中にいるんだ?!」
「……おはよー、ヘンリー先生……なんか昨日、ついてきちゃったみたいで……」
半分寝ぼけながら、ヘンリー先生が寝たあとの出来事を説明する。
「あの距離をついてきたのか……余程ハヤテくん気に入られたんだねぇ」
「えー、俺なんですかねぇ……」
顔を洗うため、カバンから水の魔石を取りだし台所へ向かう。
すると足元で寝ていたドラコがのそり、と起き上がり俺のあとをついてくる。
「ほら」
その様子を見ていたヘンリー先生が、微笑ましいものを見るように笑う。
「なんでこんなに懐いてるんだ?石をどかしたのはほとんどケイレブだぞ?」
「初めに手を貸してくれたからだと思うよ。懐いてて可愛いじゃないか」
「そうなんですかね?まぁ、めちゃくちゃ可愛いですけど」
顔を洗い、皿に水を出してドラコに差し出してみるとぴちゃぴちゃと水を飲み始めた。
……ん?
「あれ……?お前もしかして地底湖で俺の隣で水飲んでたか?」
ドラコは一度水を飲むのをやめ、こちらをじっと見て再び水を飲み出す。
「んなわけないか。たまたま似たような大きさなだけだよな」
ドラコと戯れている間にみんな支度を終えたようで、俺もすぐに準備をした。
外に出てみると、こちらの夏は昼間は暑いけど朝は清々しい空気で満たされていてとても心地がいい。
ドラコも水を飲み終わり、俺たちの所へ寄ってくる。
「よし、じゃあ行くか!」
それぞれが馬にまたがり、俺もロバートの馬の蓮もどきの手綱を掴んで少し浮いたところで、後ろからドラコの突進を食らう。
「うわ!」
そのまま宙返りをし、ドラコの背中の上に腹から落ちた。
「ぐえ……」
痛さで少し悶えていると、ドラコはそのまま歩き出す。
「え、ちょ、なになに?!」
その様子を見ていたケイレブとロバートは爆笑している。
「ハヤテ、ドラコが自分に乗って行けってさ!」
「え!いや、乗れないこともないけど恥ずかしくない?!」
俺が体勢を直しドラコにまたがると、両足が地面から数十センチ浮くくらいの高さだった。
いやまぁ、馬より乗りやすいけど、これマジでふれあい動物園のポニーに乗ってる気分になるんだけど……
「ドラコなら手綱で指示する必要も無さそうだし、角に掴まっておけば振り落とされることもないだろ?それにハヤテが乗ってれば狙われにくいだろうしちょうどいいだろ」
「そうそう、そのまま乗ってドラコ守ってやれよ」
ケイレブとロバートはそう言い残しさっさと馬を走らせていってしまった。
その後を追うようにヘンリー先生も走り出す。
「ほら、ドラコ。ついておいで」
その言葉を理解するように、ドラコは三人の後を追って走り出した。