45.森林竜
ケイレブは、石をゴーレムに変えると落石地点から少し横にずらした所へ移動させた。
そしてそこで魔力を解除し、ゴーレムはただの石の山になる。
崖下の石をどかしてみると、その崖には窪みが出来ていて、中にはここにいたのと同じくらいの大きさの森林竜が閉じ込められていた。
──クオォ……
──クォ……
石を動かす間、ヘンリー先生の足元でじっとしていた森林竜は、窪みが現れるとそちらの仲間の元へ直ぐに向かう。
蹲ったままの仲間の角と自分の角をすり合わせ、何かお互い確認しあっているみたいだ。
角の折れた森林竜がしきりにもう一方の森林竜の足を気にしているので、警戒されないよう近づいて見てみると、どうやら落石に巻き込まれた時に足を怪我したみたいだった。
「ヘンリー先生、ちょっと聞きたいんですけど……」
振り向いてヘンリー先生を見てみれば、先程まで足元に居た森林竜にビビったショックが抜けないのかまだ少し固まっていた。
「ヘンリー先生ー!」
「はいぃ!」
ビクッ、となりながら覚醒したところで再度確認してみる。
「あの、回復魔法って魔物にも効きますか?」
「回復魔法?まぁ、効く魔物と効かない魔物がいるかな?種類によって、回復魔法を掛けると逆効果で死に至る種類もいるから」
「え、回復魔法で死ぬんですか?!」
治そうと思って魔法かけて死んじゃったらショックだよな……
「森林竜、足怪我してるみたいなんですけどこの子はかけて大丈夫ですかね?」
「森林竜?」
固まっていたヘンリー先生が恐る恐るこちらに近寄り、蹲った森林竜を見る。
「あ、本当だ。足怪我してるね。うーん、多分森林竜なら大丈夫だと思うよ。緑珠の守護の森に生息してるくらいだからね」
「緑珠と回復魔法って何か関係あるんですか?」
なにやら初耳なことを聞いた気がする。
「宝珠はそれぞれ特化した魔法があってね。回復魔法に特化したのは王都の光珠なんだけど、次に回復魔法寄りなのは、ここの緑珠なんだ」
「あ、もしかして緑珠見たり触ったりするとなんかじんわり疲れが取れたりするのってもしかして……?」
「そう。だから回復魔法で悪い影響出るのであれば、森林竜はこの森に生息してないと思うからきっと大丈夫」
「ありがとうございます!ちょっと足治してきます!」
「気をつけて近寄ってね」
俺は膝をつき姿勢を低くしながらそっと怪我した森林竜へ近寄る。
──グルル……
どこから鳴き声を出しているのか、表情が余り変わらぬまま、警戒の鳴き声を上げる。
そこへ角の折れた森林竜が諭すように近くへ寄り添い角をすりつけていた。
うーん、いきなり怪我を触ったら更に警戒されちゃうかな?昔テレビで見た、警戒した動物に近寄るアニメみたいにやってみるとか?あ、でもあれは噛まれてたな。
とりあえず名前とかつけて呼んでみる?
……森林竜だからシルワでいっか。
「よーしよしよし。怖くない、怖くないよー。シルワ、大人しくていい子だねー」
後ろで、ぶは、とロバートの吹き出す声が聞こえたけど無視をする。
両手に何も持っていないアピールをしながら、じりじりと手を近づけ頭の上に乗せた。
思った以上に硬く、ザラっとした皮膚で、その手触りに感動しつつしばらく頭を撫でる。
そのまま背中、足と撫でる場所を変えていくと、初めは警戒心丸出しだったシルワは次第に大人しく撫でさせてくれるようになった。
このまま撫でていたら犬のようにお腹丸出しになるのでは?というくらいまでリラックスしてきたところで、
「シルワ、足の怪我治すからね」
そう声をかけ、怪我の上に手を当てると回復魔法をかけた。
じわ、とあたたかい光を発し、その光がシルワの体内へ吸い込まれていく。
……あー、また光消すの忘れてた……
「どう?動ける?」
腰の当たりをポンポンと叩き、立つよう促してみると、シルワはそっと立ち上がる。
そしてそのまま歩き出し、俺たちの周りをぐるぐると回り始めた。
「わぁ!」
後ろから軽く突進されたと思われるロバートがひっくり返っている。
「何やってんだよ、ロバート!」
「いや、後ろから膝裏に突進は卑怯だと思う!」
わはは、とみんなで笑っていると、油断していた俺の後ろから角の折れた森林竜が突進し、俺もひっくり返った。
「ぬわぁっ!」
どすっ。
地面に尻もちをつき顔を上げると目の前には森林竜の顔があった。
「うわ、近ぇ!」
慌てて立とうとするも、角で肩の辺りをぐりぐりされて上手く立てない。
「なんだよお前ー!……あ、お前もその角治して欲しいのか?」
なんだよー、と言いながら回復魔法を角にかけてみても、角は再生しない。
「あれ?」
座り込んだまま起きない俺のところにロバートが来て、手を貸してくれた。
俺はロバートの手を掴み立ち上がる。
「なぁロバート、角って折れちゃうと回復魔法で再生しないのか?コイツの角、もうずっと折れたまま?」
「森林竜の角?それなら回復魔法は効かないよー」