39.闇の騎士
「闇騎士？」
思わずニコラスへ聞き返す。
何その厨二心全開のネーミングセンス。
でも、森の主もドラゴンだし、魔法もあるし闇騎士くらいいるか。
そう思ってマシュー先輩とライアンを見ると二人とも首を傾げている。
あれ？闇騎士は一般的ではない？？
「少し前から王都の騎士団に指令が出ててさ、国宝の闇の鎧あるだろ？あれの適合者を探せって言われてたんだよ」
「国宝の鎧？それってあれか？めちゃくちゃ重いヤツ。隊長でも何人か人呼ばないと持てなかったって言う……」
「それ」
え！そんな重い鎧だったの？！
あの人めっちゃ軽々跳んでたけど！
「その適合者がどうやら騎士団に居たらしくてさ、それの対応で騎士団の人数少し割かれてたから、おれもハッサンも中々こっちに戻れなかったんだ」
「なんでまた急に適合者探し始めたんだ？」
「それは隊長クラスのトップシークレットだって。おれも気になって少し聞き込みとかしたけどぜーんぜん理由わからなかったわ」
ニコラスが、お手上げのポーズをとる。
マシュー先輩はまだその話題に食い下がりたいようで、しつこく「誰？正体誰？」と聞いていた。
「それも全く分からずじまい。誰も正体知らないから、騎士団の中で『正体不明の闇騎士』って呼んでた」
めちゃくちゃ恥ずかしい呼び名キター！
闇の鎧はカッコよかったけどその呼ばれ方は恥ずかしい！
鎧は着てみたいけどそう呼ばれるなら遠慮したくなるな……
あれ、適合者ってことは誰でも着れるわけじゃないのか？
「闇の鎧ってあの重さに耐えられるマッチョじゃないと着ちゃダメなのか？まぁそんなに重いなら普通のやつなら潰れそうだけど」
「重さに耐える必要はないらしいぜ。なんせ、適合者なら全く鎧の重さ感じないらしいから」
「へぇー！」
俺の問いかけにニコラスが答えてくれ、それに対してマシュー先輩が食いついている。
「オレもあの鎧持ったことあるけど全然持ち上がらねぇのな。それを軽々着こなすなんてますます正体知りたいぜ！騎士団の誰かならわかりそうなもんだけどな」
「いや、ここ最近緑珠の周辺異常が続いてたろ？それに合わせて最近募集かけたらしいんだ。だからマシューの知らない新人たちもたくさんいるぜ。まぁ闇騎士のウワサはその募集の前からあったから、もしかしたらマシューの知り合いかもしれねぇけどな」
「俺も会いたかったなー、闇騎士！」
闇騎士の話題は、ライアンまでも虜にしていた。
そういえばマシュー先輩とライアン、俺の厨二病魔法気に入ってたからなー。
この話題、ロバートも好きそう。
闇騎士の話題で盛り上がりつつ、とりあえず闇騎士が倒してくれた森の狼は回収し、詰所へ持ち帰ることにする。
魔物を倒した後のいつもの通り、解体して魔石を取り出すと……
「あれ？なんだこりゃ……」
出てきた魔石は、真っ黒だった。
森の狼の魔石って黒なのかな？
「なんか黒い石出てきたんだけど……」
「黒？森の狼の魔石は青っぽいはずだけど」
「でもほら、これ」
ライアンへ黒い魔石を渡す。
「ホントだ、黒い魔石だ……ん？」
日に透かしてみたり色々な角度で魔石を眺めていたライアンがなにかに気づく。
「これ、魔力抜けてんな」
「え、ほんとか？ちょっとオレにも見せて」
ライアンからマシュー先輩へと渡った黒い魔石は、同じように日に透かされたり色々と確認され、マシュー先輩は魔石を俺に返した。
「うん、ライアンの言う通り魔力入ってないぜ」
「魔力が抜けることってよくあるの？」
マシュー先輩は首を振った。
「いや、魔力が減ることはあっても無くなることは無いし、魔石の色が薄くなっても黒くなることは無い」
「闇騎士の魔力が影響してるんじゃないか？闇の鎧身につけてるなら無属性の闇系魔法使ってんだろ」
「闇魔法かぁ。闇騎士まだこの辺にいるかなぁ。俺もその魔法見てみたいなぁ。ハヤテ羨ましいぜ」
話しながらも森の狼を肉と素材と魔石とで綺麗に解体し終わりそれぞれ分担して持つ。
「そしたら一旦これ詰所持ち帰るか。あと隊長にも闇騎士がいた事報告しないとな。まぁ闇騎士が動くってことは王都の騎士団の指令なんだろうけど」
「案外森の主のこの件に関連してるかもしれないぜ？それにしちゃ来るの早いけどな」
俺たちは周りにまだいるかもしれない森の狼を警戒しながら、詰所へ戻ることにした。
詰所へ戻ってみると、まだ隊長たちもケイレブさん達も着いていなかった。
「おれたち肉と素材置いてくるわ。ハヤテはちょっとこれ持っててくれ」
ニコラスから渡されたのは、森の狼から取り出した黒い魔石。
それを無くさないようポケットへしまおうとして、背後から肩を叩かれる。
え、何の気配もなかったんだけど？！
慌てて振り返ってみればそこには闇騎士が立っていた。
「闇……」
叫ぼうとした途端、手の部分の鎧……ガントレットを外した素手で俺の口を覆い、詰所裏の露天風呂の方へ連れていかれる。
裏に回ると口から手を外してくれ、その手の人差し指を立て、『シーッ』とジェスチャーをする。
そのまま胸元から何かを取りだした。
「あ！」
闇騎士が取り出したのは俺の緑珠の欠片がついたチョーカーだった。
「森で外れてたのか……もしかしてわざわざこれを届けに来てくれた……んですか？」
頷きながら、チョーカーの紐部分を持ち、こちらに手渡してくれる。
その時、欠片が闇騎士の手に触れた瞬間に慌てて手を引っ込めていた。その指先には赤い小さな火傷のあと。
あれ？あの位置……
闇騎士はガントレットを付け直すと、少し何か言いたそうな雰囲気を纏いながらも、また先程と同じように跳躍して露天風呂の裏手の林の木へ飛び移り姿を消した。
あの動き……なんかどこかで見たことあるような……？？
しばらく後ろ姿を見送りながら思い出そうとして、諦めた。
まぁ次会った時にでも思い出すだろ。
そう思い直し、詰所の正面玄関へ向かうと、隊長たちが戻ってきていた。
「あ、ハヤテただいまー！」
「おー、ロバートおかえり！収穫あったか？」
「いやー、手分けして探したけど全然。森の主どこいったんだろうね？あ、森の主には会えなかったけど、帰りにケイレブたちと会って合流してきたよ」
「こんにちは。はじめまして、ハヤテくん」
ロバートの後ろから、スラリと背の高いイケメンがひょっこりと顔を出した。
