30.森の掃除屋
「ヤダ、何この大きさ!」
先程見かけた三匹の掃除屋は一体の大きさがバスケットボール位だったが、今目の前に落ちてきた掃除屋は原付バイクくらいの大きさがある。
そして中の核をよく見てみればひとつではなく、ギッチリと拳くらいの大きさの核が集まった集合体だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!気持ち悪っ!なんだこれ……っ!」
ツブツブを見ると鳥肌が立つため直視ができない。マジ無理ほんと無理!!
「うわ、これもしかして繁殖期迎えた掃除屋?!」
「繁殖期?!」
「掃除屋は分裂して増えるんだよ。あの中にある核の分だけな。もしここで分裂始まったら……ヤバイな」
「えぇ、あの数が産まれたらここら辺が更地になるわ」
え!
「更地って、そこまでヤバいのか?ならコイツ、ここでどうにか食い止めないと……」
「えぇ、万が一緑珠の方に行かれたらこの森どころか、また大きな疫病や災害が起きるわね」
「てことでハヤテ!」
マシュー先輩が俺の背中を叩く。
「ひとっ走り、詰所行って応援を呼んできてくれ」
「了解!二人は?」
「アタシたちは、こいつがどこにも行かないようここで食い止めておくわ。見失ったら大変だもの」
「了解!急いで戻る!」
「お願いね」
二人に巨大掃除屋の見張りを頼み、俺は来る時に目印をつけながら通ってきた道を全力で戻る。
フルスピードで詰所に戻り、
バン!!
力任せにドアを開けると、詰所の中へ駆け込んだ。
「誰か!すぐ動ける人いる?!」
食堂には食事をしようとしていたと思われるライアンと、台所の奥からドアの音を聞き顔を出した隊長がいた。
「森の中で、繁殖期の巨大な掃除屋と遭遇!今ジェシカとマシュー先輩が食い止めています!至急応援要請を!」
そう告げると目にも止まらぬ早さで装備を整えた二人が
「森へ行くぞ!」
と、詰所を飛び出し森の方へ駆け出した。
俺もすぐにあとを追う。
「ハヤテ、先行してくれ!あ、でもお前の全力では走るなよ?俺たちついていけないから」
隊長に先を促され、先行して走っていく。
時々後ろを振り返り、あまり二人と離れない速度を保つ。
……特訓してた時のロバートってこんな感じだったのかな?
速度に気を配り、先程巨大な掃除屋と遭遇したあたりまで戻ってみると、掃除屋は二匹に増えていた。
え?!仲間呼んだ?!
「ジェシカ!マシュー先輩!お待たせしました!」
近づき、声を掛けると、
「ハヤテ!ストップ!あまり近寄るな!」
と、制止の声が掛かった。
慌てて速度を落とし、歩きながら近寄ると掃除屋達はブルブルと震えながら、少し動いては跳ね回るという予測できない動きをしている。
ばいんっ!……じゅわ……
一歩先の木にぶつかり跳ね返って行った掃除屋の、ぶつかった部分の木の幹を見てみると、うっすらと焦げたように溶けている。
あと一歩前に出ていたら……
「ハヤテ、隊長とライアン連れてきてくれたのね、ありがとう!ハヤテが行ってすぐ分裂が始まっちゃって、これ以上増える前にアタシたちでどうにかしようと思ったんだけどもう近寄れなくて……」
「気をつけろ!何回か分裂してたからその辺に隠れてるぞ!とりあえず定期的に周りに水を撒いといたからそんな広い範囲には散ってないと思うけど」
マシュー先輩に言われて足元を見ると、この辺一帯を囲むように水が撒かれている。
ただ、最近気温が上がり始めたせいかすぐに乾いてしまうようだった。
「よーし!とりあえずジェシカとマシューは右手側、俺は向こう、ライアンはこっちの掃除屋を頼む!」
「え、隊長、俺は?!」
俺、戦力にはならないけど荷物になるのも嫌なんですけど?!
「ハヤテは奴らに逃げられないよう、囲んでる水が乾かないように常に水を撒いていてくれ!」
「了解です!」
「では各自、散開!!」
『了解!』
隊長の号令で担当場所にみんな散っていく。
俺も水、出さなきゃな。
自分の魔力ではまだあまりたくさんの水が出せないので、俺はカバンから水の魔石を出す。
軽く握って魔力を流せば、握った指の隙間からジャバジャバと水が溢れ出した。
その水で、マシュー先輩達が書いた水の跡をなぞっていく。
けど、これめっちゃ水が勿体ないな……
魔石の出せる水の量も無限ではないし、もっと節約する方法は……
なにかないかとカバンの中を改めて見てみれば、前にカバンに突っ込んでそのままになっていた虎杖がカバンの底から出てきた。
カバンの底、安定してると思ってたらこいつが底板代わりになってたのか……
その虎杖を取り出し、空洞の中に水の魔石を入れる。ストロー状になっているので、そのままでは底から抜け落ちてしまうから、虎杖の下の方と水の魔石を一緒に握り込むと……
ジャァァァァ……
ジョウロのように水を出すことに成功した。
これなら無駄に水が広がったりせず、綺麗に水の跡をなぞっていけるぞ!!
思った以上に快適に水を出せるようになったので、夢中で周りを囲む作業をしていると……
「ハヤテ!上!!」
「上?うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声に驚き上を見上げてみれば、頭上で掃除屋が分裂したようで、数体にわかれた掃除屋が俺の上に降ってくるところだった。