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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
224/226

24.逃げたい、けど逃げられない

「エレン、お前さぁ……俺たちがまだ着替えてる最中とかだったらどうすんだよ」

「私は別に気にしない」

「俺たちが気にすんの!」


ノックもせず部屋の扉を開け放ったエレンにロバートが説教するものの、当のエレンは全く気にする様子もなくしれっとしている。

これは反省してないな。

そんなやり取りをしつつ、食堂へ降りるとちょうど朝食を食べに来たリアンとかち合う。


「おはよー。リアンも今から朝メシ?」

「そう。そっちも?なら一緒に食おうぜ」


断る理由はなかったので一緒に朝食をとることにした。

出てきたパンを見て思わず、お?と声が出る。


「このパン……もしかして薬草(ハーブ)入ってる?」


今までパンに何かが入ってるのは見たことがなかったけど、今日の朝食に用意されていたパンの生地には薬草(ハーブ)が練り込まれ焼いてあるらしい。


がぶ、とかぶりつくとふわりとハーブの香りとパンの表面にかけられた岩塩の塩味がいい感じに口の中で混ざり合う。


「うわ、これ美味い」

「ほんとだ、こんなの俺食ったことねぇよ」


リアンも目を丸くして「美味い」を連発し何個かおかわりをしていた。

この世界(ここ)での料理のレパートリーに薬草を使ったものが増えているらしく、かなり広まっているらしい。

昨日のオセアノさんの料理といいこのパンといい、美味しいものが増えているみたいで思わず顔が緩む。

美味しいは正義!


美味しい薬草(ハーブ)パンと身体の芯から温まるカボチャのポタージュで腹を満たすとリアンは一足先に席を立つ。


「っし。んじゃ俺もう行くわ」

「これから仕事?頑張れよ」

「おう。お前たちも今日は大変だと思うけど頑張れよ!」

「え?」

「んじゃお先ー」

「あ、ちょ、」


謎の声援を残しリアンはさっさと食器を片付けて食堂を出ていってしまう。


「え?今俺たち何応援されたの?」

「さぁ?」


残された俺たちは全員頭にハテナを浮かべつつも、解決はしなさそうなので気にしないことにしてテセウスさんの部屋へ向かうことにした。


「何もらえるのかな?」

「いや、誰もなんかくれるとは言ってなかっただろ……」


何故か何かがもらえると思っているロバートにそっと俺は釘を指す。何ももらえなかったらショックじゃん。まぁ特に欲しいものもないけどさー。


部屋に着くとエレンがいつものごとくノックせずドアノブに手をかけていたのでにーちゃんが慌てて間に入り扉を叩く。


「おはようございます、シノブです。テセウスさん、宜しいですか?」

「あ、入ってー」


にーちゃんの声に応えるように部屋の奥からテセウスさんの声がしたのでその許可を得て中へ入ると、俺は回れ右をしてすぐに部屋から出ていこうとした。


「おはようハヤテ。どこへ行くんだ?」


退路をバリー副団長に塞がれ、俺は乾いた笑みを浮かべる。


「あのー……何やら部屋の中に場違いな服が並んでいたので先客がいたのなら俺は出直してこようかなと……」

「ハッハッハ、何を言ってるんだ。あれはハヤテたちのだぞ?」

「ア、ヤッパリー」


聞きたくなかった返答に俺は棒読みで返事をする。

そう、テセウスさんの部屋の中には所狭しと正装と呼ばれる煌びやかな衣装が並んでいた。

嫌だ、俺はあんなキラキラ着たくない!!


そう言えれば良かったもののそんなことは出来るはずもなく、バリー副団長に腕を掴まれズルズルと部屋の中に連れ戻される。


疾風(はやて)一人で逃げようったってそうは行かないからね」

「そうだそうだー」


じろり、とさっき逃げ損ねたにーちゃんとロバートに挟まれ俺は完全に逃げ道が無くなった。


「おはよう。早速だけど衣装合わせしてもらえるかな?」


キラキラな衣装の奥からテセウスさんがひょっこりと顔を出す。


「あのー……この服の山は一体……」

衣装(これ)?あぁ、君たちにはこれから国民に挨拶してもらうことになってるからその衣装だよ」

「「「「は?」」」」


俺たち四人の声がハモる。え、ちょ、何?

()()?!()()?!


「それは黒の大陸と緑珠の瘴気の解決について、ということか?」

「そういうことだね」

「それ、私たちが挨拶する必要あるのか?」


エレン!

国のトップの偉い人(テセウスさん)にズケズケ言えるのはエレンしかいない!

頑張れエレン!


「うーん、みんなに安心してもらうにはこういう派手なパフォーマンスも大事だからね。みんなこういうお祭り騒ぎ大好きだし」

「私はあまり目立ちたくないんだが……」

挨拶(それ)が無事終わったらハヤテにもらったあのミネラルウォーターとかいう高濃度の瘴気水はエレンの研究用にあげよう」

「さぁ。早く準備をしようか」


エレンが寝返ったー!!

エレン以外がテセウスさんに意見など言えるわけがない。そこからは心が無になるほど着せ替え人形よろしく色んな衣装を合わせられあっという間にキラキラな衣装に身を包まれてしまった。


疾風(はやて)、諦めようよ」

「権力には勝てないよ」


俺と同じく虚無顔のにーちゃんとロバートにそう慰められつつも、俺は納得できない。

にーちゃんは全身闇の鎧ではなく、プレート部分だけを着用しての騎士風スタイル。

俺とロバートとエレンは色味こそ違えど三人ともシュッとした貴公子風の、言うなれば王子様のような衣装。

正直言ってにーちゃんもロバートもエレンもめっちゃ似合っててすんごいカッコイイ。

マジで推せる。

けどその中で平凡な俺がその衣装を着ちゃうとまるでコスプレ!めっちゃ浮く。


「あぁ、恥ずかしいー!」


顔を隠し悶絶してみてもその挨拶とやらは避けられない。

心の準備なんてものは永遠に整うわけがなく、あっという間に挨拶の時間が迫る。

と、その時。

緊張のせいかなんなのか左腕の硬直がまた広がった気がして慌ててエレンの薬を飲もうと脱ぎ捨てた服の山から俺のボディバッグを引っ張り出す。


「準備はいいかな?時間だ。さぁ、行こうか」

「え、待って……っ!」


ボディバッグを掴んだところでテセウスさんに続くようにみんな部屋から出ていってしまったので俺も慌てて後を追う。


「あ、やべ。バッグ持ってきちまった……」


急いでエレンの薬を飲みバッグに空き瓶を入れると、とりあえずボディバッグを身につける。

後でどっかに置かせてもらおう。

そう思って俺は急いでみんなの後を追いかけた。






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