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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
223/226

23.残された時間

地鳴りとともに、地面はズズズズ……としばらく揺れ続け、ようやく収まる。


「結構長く揺れたなー。地震久々に遭うとビビるわ」

「今の、震度三くらいかなー?」


地震大国生まれの俺とにーちゃんは、今の揺れ程度ではなんてことなく直ぐに雑談を始めていたけど、この世界(ここ)の人にとってはかなりの天変地異だったみたいで、その場で全員が身動きすら取れず固まっていた。


「なに今の……」

「神の怒りか?」


呆然とするロバートとエレンの後ろにある騎士団の宿舎から、バタバタと団員たちが飛び出してきた。


「あ、お前ら!大丈夫か?」


先頭を切って飛び出してきたのはリアンで、俺たちの顔を見て安堵の表情を浮かべる。


「いきなり宿舎全体が揺れたから魔物の襲撃にでもあったのかと思ったぜ。なんだったんだ?」


宿舎を振り返りリアンは不安そうな顔をしていた。

そっか、地震あんまりあったことないと怖いよな。


「この辺はあんまり地震って起きないんだな」

「ジシン?」

「今みたいに地面が揺れるやつ」

「あぁ、俺は初めてかも」

「あんなの滅多にないよ。俺も本で読んだことあるくらいだけど、地面が揺れるのは……魔力の揺らぎの前兆なんだって……」


リアンとそんな会話をしているとロバートも話に加わってきた。


……魔力の揺らぎ……


「そっかー、もうすぐなのかな」

「多分ね」

「魔力の揺らぎ……そうか。黒の大陸と緑珠の件解決したからそろそろ起きるのか。俺、生まれてから一度も遭ったことないんだよな。てか魔力の揺らぎ(それ)が起きるのとハヤテってなんか関係があんの?」


リアンに訊ねられ、言葉に詰まりつつもぽつりと返事をする。


「……魔力の揺らぎが起きたら、俺とにーちゃん故郷に帰るんだ」

「……そっか」


それ以上は深く追求してこなかったものの、もしかしたらリアンにはワタリビトだということがバレてるかもしれない。

でも聞かれないのをいいことに俺はそれ以上のことを口にはしなかった。


「おーい!」


沈黙を破るように、先程まで騎士団のみんなのパニックを宥めて回っていたバリー副団長が俺たちに向かって手をふっている。


「どうしました?」


俺とロバートを見つけると上げた手を『こいこい』と手招きするので、俺たちは首を傾げつつバリー副団長の所へ向かう。


「俺、先に部屋に戻ってるな」


リアンはそのまま宿舎へと戻り、俺とロバートがバリー副団長の元へ行くと、同じように呼ばれたのかにーちゃんとエレンもその場にいた。


「すまん。さっきのパニックのせいで伝え忘れてたんだが、明日の朝、お前たち揃ってテセウス様の所に行ってくれ」

「え?明日の朝?」

「俺たち四人で?」

「あぁ、忘れるなよ」


それだけ伝えるとバリー副団長はヒラヒラと手を振って宿舎の中へ入って行ってしまう。


「なんだろう?」

「めっちゃお宝もらえるとか?」

「それならば希少な薬草の方がいい」

「いや、エレンそれ自分で普通に採ってくるじゃん」


そんな他愛のない会話をしばらくした後、明日の朝また来ると言ってエレンは薬師の宿舎へと戻る。

その背中を見送って、俺たちも騎士団の宿舎の中へと入っていった。

俺とロバートにも部屋は用意されていたけど、そのまま何となくにーちゃんの部屋に三人で集まる。


「魔力の揺らぎ、かぁ。ほんとにもうすぐなんだなぁ」


ぼすん、と俺とにーちゃんがベッドに腰かけロバートは備え付けの椅子を引っ張り出して座りながらそう呟いた。


「二人の()()治って欲しいから早く起きて欲しい気持ちと、やっぱり寂しい気持ちがケンカしてるぅー!」


バタバタと足をばたつかせながら、ロバートの視線が俺の左腕に止まった。


「それ、ちょっと触ってみてもいい?」

「別に構わないけど」


右手で支えながら、左腕をロバートの方へ差し出す。

そろそろ肩も回らなくなってきたなぁ……


「うわ、硬い……コレ感覚もないの?」

「そうなんだよ。だから余計気持ち悪くて」


左腕の感覚が全くないということが今までの人生で経験したことがないので、見えるのに動かない、感覚がないのは凄く慣れなかった。


「……なんか、本で見たのと症状が違う、かも。俺が見た『呪い』の症状は麻痺して身体が動かなくなるだけで、こんなに硬くなるなんて書いてなかったなぁ……これじゃまるで石化してるみたい。ワタリビトだから症状が違うのかな?」

「なんか瘴気に対する耐性が強かったりとか体質の違いがありそうだから意外とそうかもしれないよな」


俺は支えていた右手を離す。

左腕は、ぶらん、とそのまま力なく揺れていた。


「あ、そうだ。エレンの薬飲んどこ」

「それ飲まないと全身が()()なっちゃうんでしょ?」


にーちゃんがつんつんと俺の左腕をつつく。つつかれた感覚はもちろんないけど。


「そうなんだよ。マジでエレンの薬あって助かった。まぁ全身が石化?してても魔力の揺らぎが起きたら元に戻るのかそれとも全身が()()なったら手遅れで元の世界に帰れないのかわからないもんな」

「ちょっと、怖いこと言わないで……ハヤテ、ちゃんと薬飲んでてよね!」

「はいはい」


そこから、取りとめのない話や俺がこの世界(ここ)に来たばかりの時に魔法に慣れなくて回復魔法で尻を光らせた話や、ジェシカにお姫様抱っこで運ばれた話、調子こいて魔法を放ったらヘンリー先生の首を切り落としそうになった話をロバートがし出して、そんなくだらない話で寝るのも忘れ朝まで盛り上がった。

……ん?なんか俺の黒歴史ばっかじゃないか?!

……まぁ、にーちゃんが腹を抱えて笑ってくれてたからもうそれはそれでいいけどな!


そんな感じで気づけば朝になっていて、俺たち三人は慌ててテセウスさんのところに行くための準備をする。


どうにか準備をギリギリ終えたところでエレンが見計らったかのように部屋の扉を開けて入ってきた。


「エレン、ノックして!」


俺たちは三人声を揃えてそう叫んだ。

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