22.夕食、のちに
案内された部屋に入ると、そこにはすでに先客がいた。俺たちが来たのが気配でわかったのかこちらを振り向いたその人は。
「「ケイレブ!」」
俺とにーちゃんの仲良くハモった声に応えるように、ケイレブはニッと笑って片手をあげる。
「いよう、待ってたぜー。ほらほら、座って」
テーブル周りに待ち構えていたメイドさんたちに椅子を引かれテーブルへと着かされる。
「ケイレブ、なんか久しぶりだな」
「そーだな。お前らが帰ってくるの待ってたんだけど入れ違いにあっちこっち行っててなー。だから次こそは会えるように戻ってくるの分かったら知らせてくれるようバリー副団長に頼んどいたんだ。そしたらすぐこっちに来るだろうって言ってたからさ」
「え?」
……もしかしてジェイド隊長、俺が言い出さなくても元々この伝令で王都に顔出させるつもりだったのかな?
恐らくもう会えない、ジェイド隊長に改めて感謝をする。
そんなしんみりしていた俺のことは気にせず、ケイレブはさらに言葉を続ける。
「ちょうどテセウス様に頼まれてたお使いもあったし、お前らタイミングいいよな」
「おつかい?」
会話の途切れるタイミングを見計らうかのように次々と料理がテーブルの上に並べられて行った。
「あれ?これって……」
テーブルの上に所狭しと並べられた料理はどれも見た事のあるメニュー。俺の予想通り最後のメニューらしき料理を持ってきたのは俺たちが会いに行こうと思っていた人物、オセアノさんだった。
「よう、お前たちお疲れさん!」
相変わらず、青空に映える真夏の太陽のような笑顔で、オセアノさんは手に持っていた漁師のごった煮をドン!、とテーブルの上に置いた。
「改良版漁師のごった煮お待ちどう!」
その声を聞き、テセウスさんが説明を始める。
「君たちが黒の大陸から戻った時に、ピスカの町での報告を受けただろう?薬草料理の効果について。その件でオセアノの料理をこちらで教えてもらおうと何度が来てもらってたんだ。今回は君たちが戻る日程に合わせてオセアノを呼んだ。前回はまだ緑珠の件が解決していなかったから王都でゆっくり出来なかっただろう?今日は心ゆくまで料理を堪能してくれ。さぁ、召し上がれ」
ふわり、と湯気の立つ料理たちはどれもふんだんに薬草を使い、胃を刺激するいい匂いを振りまいている。
みんな、最近では定着した「いただきます」を口々に言うと目の前の料理を小皿へ取り分け始めた。
俺は片手が使えないのでどうしようかと思っていると、隣に立っていたメイドさんが目にも止まらぬ早さで取り分けるとそれを俺の前に置く。
しかも片手で食べやすいように貝類は殻まで外してくれていた。
……至れり尽くせりかよ……っ!
視線で「ありがとう」を伝え、ぱくりと皿の上の料理を次々と口に運んでいく。
「あぁー、美味いー!」
前より使うハーブの種類を増やしたのか、更に味に深みが出て美味さの増したオセアノさんの料理はあっという間に皿が空になっていく。なのになくなりかけてはどんどんおかわりが運ばれてくるので、テーブルの上の料理が完全に空になることはなかった。
わんこそばのように空になるタイミングで新しい料理が盛られ、そろそろみんなの胃袋が限界を訴え出した時ようやくおかわり攻撃は止んだ。
「うぅ、もう入らない……」
行儀が悪いかなと思いつつ、椅子の背もたれにぐったりと寄りかかり、どうにか胃への負担を軽くする座り方はないかと模索する。
チラリと隣のケイレブを見れば俺の倍は食べていそうなのに顔はケロリとしていた。
騎士団の胃袋、こえー……
ケイレブとは逆の隣のにーちゃんは、テーブルの残った料理の薬草を指さしながらオセアノさんと楽しそうに談笑している。
どの薬草を使ってるんだとか、効能は、とか会話の端々から聞こえるので、にーちゃんもいずれ薬草を使って料理をしたいと考えているのかもしれない。
俺も最近興味が出てきていたからその会話に参加して、色々と教えてもらったりしながら楽しい夕食の時間は過ぎていった。
「楽しかったー」
「美味かったー」
あっという間に時間は過ぎ、そろそろ夜も更けるから、と夕食が解散になる。
「オセアノさん、色々ありがとうございました」
「おう、お前たち故郷に帰るんだってなー。王都に来た時はまた俺の店に顔出してくれよ?」
「はい、是非!」
また、なんてものがないのはわかっているけど口に出す勇気が出ず、思わず約束をしてしまった。
オセアノさん、守れなくてごめん。
楽しい気持ちと少しだけ苦い気持ちを胸に、俺たちは騎士団の宿舎へと向かった。
前回の時に、ドラコが思いの外厩舎の馬たちと仲良くなっていたので今回の滞在はドラコが騎士団の厩舎預かりになった為俺たちも騎士団の宿舎に部屋を用意してもらった。
宿舎へ入る前に厩舎に寄り、ドラコへいつものように魔力水を飲ませる。
相当喉が渇いていたのかいつも以上におかわりを要求するドラコに、俺もついつい沢山飲ませてしまった。
「ドラコ、お前めっちゃお腹タプンタプンになってるぞ?」
いつもなら少し触るだけで、ぷい、とその場を離れるドラコが大人しく触らせてくれる。
ほら、すぐに動けないくらい飲みすぎてるじゃねぇか、おもらしするなよ?
「クォ!!」
「うわ!」
前触れなく突進され、ドラコの下敷きになると鼻でぐりぐりとされる。
「なんだ、急に……」
その時。
ズズ……ッ!
地鳴りとともにこの世界では珍しい地震が起きた。




