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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
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21.挨拶

「王都に行きたい?」


露天風呂を堪能した後、俺はジェイド隊長の部屋を訪ねた。


「はい。いつ魔力の揺らぎが発生するかわからないのでその前にテセウスさんや王都で世話になった人に顔を見せておきたいなって思いまして」

「なるほどな。……わかった、そういうことなら明日、出発の準備をしといてくれ」

「え?」

「緑珠が復活して守護の森の瘴気が安定した件の報告書、王都に提出する予定だったんだ。それ、持って行ってもらえるか?」

「了解しました!」


翌日、朝食を終えた俺は詰所の前でドラコと王都へ向かう準備をしていた。


疾風(はやて)!」


少し足を引きずりながらマシロを連れ、にーちゃんも合流する。


「にーちゃん、マシロに乗れそう?」

「うん、一度跨っちゃえば自分で歩くより楽だから」


王都には俺とにーちゃん、それから万が一途中で魔力の揺らぎが発生してしまった時の報告係にロバートと、エレンとジョンの五人で向かうことになった。


「ハヤテ、出発前にこれを飲んでおけ」


詰所から出てきたエレンは俺に薬の瓶を渡す。

エレン曰く、定期的に飲まないと進行が早まる可能性があるらしい。

出発前にもかかわらず、また薬の調合に付き合わされたのか既にジョンはぐったりしていた。


「ジョン、薬ありがと」

「いや、礼とかいらねぇよ。俺に出来ることやってるだけだから。それに最近色々教わったから調合楽しくなってきたし」


疲れを滲ませつつもニコリと笑うジョンは研究所でよく見る薬師たちと同じ顔をしている。あぁ、これで立派な薬師(社畜)の仲間入りかぁ……

俺はちょっと遠い目になる。


「お、そろそろ出発する?」


最後の一人のロバートも、ジェイド隊長と共に詰所の前に現れた。

隊長は報告書の入った封書を俺に渡すと、騎士団の敬礼をする。


「緑珠守護団、ハヤテ、ロバート。両名に王都への伝令の命を与える」

「は!」


俺とロバートもそれに応えるように、敬礼を返した。

これが実質最後の緑珠守護団(ここ)での仕事になるだろう。俺は最大級の感謝も込めて、ジェイド隊長に再度敬礼をする。


「今まで、お世話になりました!」


思わず下げた頭に、ぽんとジェイド隊長の大きな手が乗せられる。


森の主(スフェーン)に吹っ飛ばされてるの見た時は驚いたが、その後のハヤテの行動にはもっと色々驚かされたよ。短い間だったけど楽しかったぜ。戻ったら怪我、治ってるといいな」


込み上げる涙をぐっと堪え、俺は顔を上げた。


「はい!ジェイド隊長もお元気で!ありがとうございました!」


見送りに来たマシュー先輩、ニコラス、ソフィアさんとも挨拶を交わす。


「ハヤテー、戻っても元気でやれよ」

「俺の事忘れるなよ?」

「薬草使った料理、教えてくれてありがとう」


三人とも握手をしつつ、お礼を言う。


「俺の方こそ色々ありがとうございました!」


みんなと別れの挨拶を交し、ドラコへと跨る。

左手が使えないから乗るのも一苦労だ。


「ドラコ、じゃあ王都向かおうか」

「クォ!」


歩き出すドラコの上から再度振り返り、手を振る。


「みんな、元気でな!」


そこからしばらく、俺は涙で前が見えなかった。


「う……ぐす……」

「おい、もう泣くなよ……」

「だって……」


もう少しで王都に着くと言う辺りを走っている時、そこで俺はなかなか泣き止まないジョンを慰めていた。

いやなんで?!


「ジョンが泣くことないだろ」

「そうなんだけどさ、なんか、込み上げて来ちゃってさ……」


初めの頃の印象はどこに行ったのやら、思ったより情に脆いらしかったジョンは俺たちの別れのシーンを思い出してはこうやって思い出し泣きをしている。

そして何故かそれを慰める俺。


「ほら、泣き止めって。もうすぐ検問所だぞ。そんな顔でケインさんの前に出るのか?」

「それは、嫌だ……」


ずっ、と鼻をすすりながらどうにかジョンが泣き止んだ頃、俺たちは検問所の扉をくぐる。


「え?ケインさん門番辞めちゃったの?」

「あぁ。なんでも黒の大陸の調査隊が組まれることになってそれに志願したみたいだ。君たちがここを通るまでは残る、と言っていたんだけど出発日に間に合わなかったみたいでね。とても残念がっていたよ」


新しい門番さんに緑珠の御守り(アミュレートゥム)を登録してもらいながらそんな話を聞く。


「そっか、ケインさんにはお世話になったから挨拶したかったんだけどなぁ」

「もし君たちがここを通る時は、改めて最大級の感謝を伝えておいてくれ、と伝言を預かっているよ。黒の大陸の瘴気を浄化してくれてありがとう、ってさ」

「そう、ですか」


ケインさんに会えないことにガッカリしつつも、ケインさんが前から黒の大陸に行きたそうにしていたのを見ていたからそれが叶って良かったなとも思う。


「はい、登録完了。通っていいよ」

「ありがとうございます」


門番さんにお礼を言って王宮へと向かう。


「ケインさん会えなかったね」

「残念だけどしょうがないか。ロバート、今度もし会ったらお礼伝えておいて」

「おっけー」


寂しい気持ちは胸にしまい、感謝の気持ちを置いていく。

心の中でケインさんに感謝の言葉を述べながら、俺たちは王宮へと続く道を走り抜けた。

ドラコたちを厩舎に預け、今となっては勝手知ったる感が強いテセウスさんの執務室へ足を向ける。

いやいや、国のトップの人の部屋に直行するってよくよく考えたらおかしいんだけどな?!

扉の前に着き、ロバートがノックしようとするとその手は空を切る。


「あ、エレン!」


いつものようにエレンは扉を開けるとするりと中へと入っていった。


「おかえり」


中にはその様子に全く怒る様子のないテセウスさんと、いつものように呆れた顔のアレックス団長。


「エレン、ノックしろといつも……いや、もういい」


説教を諦めたアレックス団長は頭に手を当てため息をついた。そして表情を改めると俺とロバートに向き直る。


「では、報告を聞こうか」

「は!」


俺はジェイド隊長から預かった封書をアレックス団長へと渡す。

その中身をサッと確認すると、その書類はテセウスさんの元に回った。


「うん、だいたいバリーに聞いていた通りだね」

「バリー副団長?」

「あぁ、一足先に帰ってきて報告を受けている。……シノブの足とハヤテの腕の件もな」

「あ」


俺とにーちゃんは顔を見合せた。

そして視線を戻してみれば、テセウスさんとアレックス団長が俺たちに向かって頭を下げる。


「バリーから、『謝罪はいらないと言われた』と報告は受けているが、やはり言わせてくれ。すまなかった」


ギャー!

正しく国のトップから頭を下げられた!

俺とにーちゃんは、わたわたしながら二人の頭をあげさせる。


「いやまじで頭あげてください!」

「謝られる方がこっち、気にしちゃいますよ?!」

「いや、国を代表して謝罪させてもらう。それから、緑珠の件のお礼も用意させてもらった。夕食はこちらで食べていってくれ」

「お礼?」

「夕食?」


俺とにーちゃんは再び顔を見合わせ、その夕食が用意されているという部屋にみんなで向かうことになった。


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