20.思い出作り
「まさか、こんなことになるなんてなぁ」
ぼすん、と俺のベッドに腰掛けながらロバートはそう口にした。
部屋に押し寄せていた人達は『王都に報告に行く』『薬を更に改良する』等々各自用事が出来て部屋を出ていってしまったので、今のこの部屋にはベッドに寝かされている俺とにーちゃん、あとはロバートしかいない。
「そういやさっきちらっと見たけどなんでジョンとバリー副団長が?」
「あぁ、あれね。なんか東の森の瘴気の調査をしてた時に突然瘴気が消え始めたんだって。それでもしやと思ってバリー副団長とジョンが緑珠守護団に顔を出しに来たらしいよ」
「ジョンも来てくれて助かったよね」
「へ?なんで?」
にーちゃんがその時のことを思い出しながら教えてくれる。
「僕が起きた時、ちょうどバリーさんとジョンが緑珠守護団に顔を出した時みたいで、お見舞いにってこの部屋来てたんだ。その時憔悴したエレンが部屋に入ってきたと思ったらいきなり目を見開いてジョンを連れてっちゃってさ」
「そうそう。なんか叫んだと思ったら腕をガシッと掴んで。バリー副団長は無視してたよな」
「今思えば薬の仕上げに切羽詰まってたんだろうね。黒衣の帝王の雫、扱いが難しくてエレンの力だけだとどうしても素材が混ざらなかったんだって。そこにタイミングを計ったかのようにジョンが来たもんだから、藁にもすがる気持ちで仕上げ頼んだらしいよ」
「そっかー、俺、ジョンに救われたんだなぁ」
後でお礼言わないと。
そう思ってると、ロバートがぽつりと呟いた。
「俺、さぁ。二人が帰っちゃうって聞いて寂しくて『魔力の揺らぎ』起きなきゃいいのにってちょっと思ってたんだ。でもこうなったら『早く魔力の揺らぎ起きればいいのに』って思う。早く元の世界に戻れるといいな」
寂しそうに笑うロバートを見て、俺も胸がぐっと詰まる。
「俺も、ここの人たちすげーいい人ばっかだからさ。素直に全力で喜んで『帰る』とは言えない。やっぱみんなに会えなくなるのは嫌だし寂しいよ。でもそれでも。『この世界に飛ばされなければ良かった』とは思いたくない。あとから思い出した時に『異世界楽しかったなぁ』って楽しい思い出を思い出したい」
「うん、僕も疾風と同じこと思ってた。それでさ、残りの時間たくさん思い出作ろうよ」
「あぁ。あとこっちで知り合った人たちに挨拶もしたいよな」
「あ、そういえばルシアノさんが『かもめ亭』のオセアノさんのところに顔出すよう言ってたよね」
「あ!そうだった!あそこの料理ももう一回食べに行こうぜ!」
部屋に流れていたしんみりした空気は消え、俺たちは夕食の時間になるまで、まるで遠足のプランを考える時のようにわくわくしながら、残りの時間に行きたいところをどう回るか意見を出し合った。
「うわぁ!ほんとに露天風呂だ!」
部屋で色々意見を出し合ううちに、にーちゃんが思い出したように言った。「露天風呂が見たい」と。
そういえばピスカのうみねこ亭でそんな話をした気がする。
そんなわけで夕食後、早速にーちゃんを連れて裏の露天風呂へ案内した。
その露天風呂へ足を踏み入れた時の第一声がさっきのアレだ。お気に召していただけたようでなにより。
「え、なにこの植物……」
「あ、蓮もどき?これはこーするとシャワーになんの」
茎の先の部分を、温泉が湧き出る組まれた石の隙間に突っ込む。そうすれば、葉の先から温泉から汲み上げたお湯がシャワーとなって出る。
「わ、すごい。これも疾風が?」
「そー、ハヤテ色々作ってくれてさー!このロテンブロも草が生えて荒れ果ててたのをハヤテが風の魔法で草刈りしてくれてさ」
「あーそうだった!あの時ライアンの奴が加減間違えて裏の林の木を刈り取っちゃって大変だったよなー!」
「マシュー先輩はすぐにコツ掴んで楽しそうに草刈ってたよな。今もたまに手入れしてくれてるんでしょ?」
「まぁね、せっかく習得したからさ。風切刃」
「うわ!なぜその名前を?!」
「ロバートに聞いた」
「ロバートー!それ俺の黒歴史!」
「疾風それ、厨二っぽーい」
「闇騎士に言われたくなーい!」
「アハハハハ!」
そんな他愛のない会話をしながら、笑い声の響く風呂場で尽きることない思い出話に花を咲かせつつ時間は過ぎていく。
この楽しい時間もいつまで続くかわからないなら、今を全力で楽しんでどんどん思い出作っていこう。
後から思い出した時に、楽しい思い出でいっぱいになるように。




