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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
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17.浄化の代償

祠を満たしていた光が、切り株の中へと収束していく。

切り株を覆い尽くしていた闇の魔力は薄れ、代わりに光となって目に見えるようになった緑珠の魔力がぐるぐると回りながら徐々に結晶化していく。


昔どっかで似たようなの見たな……

そうだ、シャボン玉が寒さでどんどん凍りついていく動画。あんな感じで魔力がパキパキと幾何学模様を刻み込みながら、緑珠は以前の形を取り戻して行った。


その様子を固唾を飲んで見守っていた俺たちは、無事、緑珠の魔力が結晶化するとその場に膝から崩れ落ちる。


「やっ……た?」

「……戻ったー!!!」


思わず漏れた声に被さるようにロバートが歓喜の声を上げる。


緑珠の魔力で一度満たされた祠の中は、以前のように清廉な空気に包まれ体の中から浄化されていくような心地よい空気を醸し出している。


あー、このマイナスイオンのような空気、たまらない……


思わずすーはーと深呼吸をしていると、視界の端でドサリと誰かが倒れ込む姿が見えた。

思わず振り向けばそれはにーちゃんで、あまりの突然の出来事に


「にーちゃん?!」


と声を上げ、立ち上がって駆け寄ろうとしたところ、立ち上がる際に身体を支えていた左手に上手く力が伝わらずその場に再び崩れ落ちる。


「ハヤテ、どうしたの?!」


ロバートが俺に駆け寄って来てくれたけど、先ににーちゃんの様子を見てくるようお願いする。

にーちゃんは、ロバートが揺すっても起きる気配がなく、兜を押し上げ顔を見てみれば顔面蒼白で息も荒い。

ロバートがおでこに手を当てると、


「熱が高い!」


と慌てて手を離すほど明らかに発熱していた。


「エレン!にーちゃんが!!」


ロバートに続き俺の元に駆け寄ってきたエレンに、にーちゃんを助けてと伝えようとした時。

今まで何度かぶり返していた左肩の痛みが、なんの前触れもなく再び襲いかかる。

それも、今までの痛みが比じゃないほどの激痛で。


「うわぁぁぁぁぁ!」


その痛みは脳天を突きさす勢いで全身を駆け回り、俺の意識を刈り取った。


「ハヤテ?!」


ぼんやりと最後に視界に映ったのは心配そうに俺に駆け寄るロバートとエレンの瞳だった。


──ズキン……ズキン……


心臓の鼓動に合わせるように、痛みが全身を貫く。

キッカケは左肩の痛みだったけど、今は全身どこを意識しても痛い。

まるで針のむしろに入れられて押さえつけられてるみたいだ。


目を開けてみたものの、入ってくる光の刺激ですら痛みを伴うので、本当にうっすらと目を開けてみる。

その隙間から見た景色はおそらく詰所にある部屋の天井。おそらくその部屋のベッドに寝かされているんだろう。

周りに人の気配があったのでそっとその気配を探っていると、隣のベッドにも誰かがいる。


「……ここは?」

「緑珠の詰所だ。とりあえずこれを飲め。飲んだらまたしばらく休むといい」

「ありがと、エレン……」


そんな会話が聞こえてくる。

この会話の流れから、十中八九隣にいるのはにーちゃんだろう。

よかった、エレンから薬を飲むよう言われてるってことはそれを飲めば大丈夫そうだな。

エレン、俺にも、その薬……く……れ……


そこでまた、意識は途絶える。


再び、ふ、と気づいた時多少は痛みがマシになっていることを期待したけど、全く期待に応えてくれず引くどころか酷くなっているような気さえする。

ズキズキと痛む身体で起き上がろうとしても、指先ひとつ動かすことは出来なかった。

さっきと同じく薄目を開けて部屋の様子を見ようとしても、見えるのは天井ばかりで全く当てにならないので耳を澄ますことにする。


すると、にーちゃんは起き上がれるようになったらしく、エレンと会話をしていた。


「……で間違いない」

「そんな、だってあの時……は僕たちで全部……」

「……を使って薬を作ってみたから、あとは……」


小声で話しているせいで、会話が全部は聞き取れない。ただ声の感じは少しシリアスで、何か大変なことが起きてることは伝わった。

え、もしかして緑珠の魔力戻すの失敗した?!


もっと様子を伺おうとさらに聞き耳のレベルを上げていると、ガチャリと部屋に何人か入ってくる。


「シノブ、起き上がれるようになったのか?」

「はい、どうにか。でもエレンの上級回復薬でも全快は難しいそうです」

「そうか、まさかそんなにシノブの身体に負担をかけちまうことになるとは……すまない」

「いえ、全快しないと言っても少しだるさがあるくらいなので……」


……え?!もしかしてさっきエレンとの会話が重そうな話題だったのってもしかしてコレ?!

にーちゃん、回復薬でも体調が戻らないの?!


詳しく事情が聞きたくて、起き上がろうと試みて見たものの、やっぱり全身を貫く痛みには勝てず、身動ぎすらできない。左腕で身体を支えて起き上がろうとしてもまるで石になってしまったかのように左腕は動かなかった。

痛みに耐えつつ右手を動かせば、生け花のあの針山に手を突っ込んだような痛みはあるもののかろうじて動かせる。


「う……あ……」


痛みで口も開けられないせいで呻き声のような声しか出せなかったけど、それで俺が起きたことをみんなが気づいたようで、俺のベッドの周りに集まる気配がした。


疾風(はやて)、気がついた?!」


いち早く俺のベッドに駆け寄ってくれたのはどうやら同じように隣に寝かされていたはずのにーちゃんだった。

そしてその言葉に続いて掛けられたロバートの言葉に、俺はかなり驚かされた。


「ハヤテ、もう三日も目を覚まさないからどうしようかと思った……」


……へ?!三日?!

三日も寝っぱなしだったってこと?!

……道理で身体が動かしにくいと思ったよ……

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