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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
212/226

12.森の主の異変


ザシュザシュザシュッ!


森の主(スフェーン)が放った咆哮にはかまいたちのような風の刃も混ざっていたようで、咆哮を浴びた俺は全身をその風の刃に切り裂かれる。更に風に吹き飛ばされ、後ろの岩に激突した。


「ぐぁっ!」


痛みで足から力が抜け、そのまま地面に倒れ込む。

ちらりと視界の隅に映った森の主(スフェーン)は咆哮を放ったあと、特に俺たちには目もくれず、再びフラフラと地底湖から去っていった。


「ハヤテ!」


エレンが駆け寄ると、血に(まみ)れることを厭わず俺を抱き起こす。


「すまない、私は回復魔法は得意ではないんだ……回復薬、飲めるか?」


口元に宛てがわれた瓶をエレンは少し傾ける。そのままゆっくりと口の中に流れ込む回復薬が喉を伝うと、俺はどうにかそれを飲み込んだ。

俺がむせないようゆっくりと回復薬を何回かにわけ飲ませてもらい、瓶一本分飲み終わる頃には俺は自力で立てるくらいに回復した。


「エレン、薬サンキュー!やっぱエレンの回復薬は効きが違うぜ」


手をグーパーさせながら身体の傷の様子を確認すると、傷自体はほとんど塞がっていた。

まだ少し痛みが残っている場所もあるが、動けないほどじゃない。


「まだ痛みがあるのか?」

「あぁ、切り傷の方は大丈夫そうだけど岩にぶつかった方がまだ……」


俺は痛みの残る左肩をさすった。それを見たエレンは何故か眉間に皺を寄せる。


「……そこは……?ハヤテ、もしかして船の上で痛みがあると言っていた場所か?」

「ん?あ、そう言われてみるとそうかも。あの時エレンに塗ってもらった薬が効いたのか、しばらく痛みなかったから忘れてた。また同じところぶつけたのかなー」


俺が痛みを和らげようとひたすら肩をさすっていると、遠くからジェイド隊長と、途中で合流したのか西側探索組のメンツがこちらに向かってきた。


「うわ、疾風(はやて)血まみれ!!大丈夫なの?」


俺を見たにーちゃんを始め、みんなが一瞬動きを止めた。

傷はふさがったものの、吹き出した血はそのままのため、俺は今全身が真っ赤に染め上げられている。

確かにこの姿は見たらビビるか……


「ちょ、どうしたんだよ……さっき途中で森の主(スフェーン)とすれ違ったけど、ヤツにやられたのか?」

「そう、ちょっと咆哮食らっちゃってさー」


怪我は大丈夫、のアピールで手足をプラプラさせる。


「普段そんな攻撃はしてこないんだが……すれ違った時にも思ったが何か様子がおかしくないか?」

「あ、やっぱりそう思います?なんか動きがフラフラしてるんですよね」


ジェイド隊長の疑問は俺も思っていた。


「ハヤテ、水飲み場(ここ)での森の主(スフェーン)の動きはどうだったんだ?」

「あ、はい。えーと、おぼつかない足取りで水辺まで来たと思ったら何故か急にイライラしだして周りの岩に当たり散らしてました」

「あぁ、かなり崩されてるな。こうまでして暴れる理由ってなんだ?」

「うーん」

「ちょっといいか?」


崩れた岩で足の踏み場が無くなっている水辺の周りを見回していると、エレンがすっ、と手を挙げた。


森の主(スフェーン)が苛立つ直前、警戒しながら水の匂いを嗅いでいた。ここの湖の水を少し調べてみたい」

「水?」


みんなが頭に疑問を浮かべる中、エレンはよく持ち歩いている瘴気水採取用の皮袋を取り出し、湖の水を汲む。


「おそらく()()が、森の主(スフェーン)の苛立ちの原因じゃないかと思うんだ」

「なんの変哲もない水に見えるけどなぁ」

「細かく調べるのに一度詰所の方に戻りたいんだが……」


ちらりとジェイド隊長にエレンが視線を向けると、ジェイド隊長は空を見上げ、口を開く。


「今日はもう日も落ちたし、ハヤテもその格好のままはどうかと思うから一度戻ろう。そこで再度森の主(スフェーン)のあの状態を考慮した上で作戦を練るか」

「了解!」


森の主(スフェーン)の水飲み場に置いておいたパルメラの実は、さっき森の主(スフェーン)が暴れたせいで砕けた岩に見事に埋もれ、回収出来なかったのでそのままにしておく。他の実ももしかしたら知らぬ間に口にするかもしれないとの事で置いたままにすることになった。

詰所へ戻る道すがら、俺は疑問に思っていたことをエレンにぶつけた。


「これ、もし森の主(スフェーン)が口にしたら効果はどれくらいあるんだ?」

「そうだな、口にして数時間で眠り、そのまま一日は起きないくらい、だな。ハヤテのあの水と、森林竜(シルワドラコ)の角のおかげで思った以上の効果になった」


ニコニコ顔のエレンは、薬のことになると途端に機嫌が良くなる。


「そんなに効果があるの……──」

森林竜(シルワドラコ)の角?!」


俺がエレンに返事をしようとしたところで、前を歩いていたマシュー先輩がバッと振り返る。


森林竜(シルワドラコ)の角なんてどうやって手に入れたんだよ、ハヤテ!」

「へ?いや、ドラコのだけど……」

「ドラコ?」

「え?詰所の裏にいただろ?馬と一緒に……」


俺たちが詰所に戻ってきた時、ドラコは馬たちと一緒に詰所の裏に放した。

緑珠守護団(ここ)では一頭づつ繋ぐタイプの厩舎じゃなくて、柵で囲われた中に放す放牧スタイルだったので、ドラコもマシロたちと一緒にそこに放してある。

そこそこの広さがあるので遠くに行っていると確かに気づかないかもしれない。


「え、裏に森林竜(シルワドラコ)いんの?!ちょ、見たい!早く帰ろうぜ!」


急にテンションが上がったマシュー先輩に引きずられるように俺たちは早足で詰所に戻る。


「俺着替えてから行くから先に行ってて」


裏に早く行きたそうなマシュー先輩にそう声をかけ、俺は急いで血まみれの服を着替えて裏に回った。


「いた?」

「いや、いねぇ……」


エレンは水の成分を調べたいと言って詰所に戻り、隊長はそれについて細かい報告を聞きたいと一緒に中へ戻ったらしい。


柵から身を乗り出すようにマシュー先輩が中を覗いているが、パッと見馬たちも近くにはいなそうだ。

中には少し木も植えられているのでその陰にでもいるのかもしれない。


「ハヤテ、ほんとに森林竜(シルワドラコ)いるのか?」

「いるはずだよー、ちょっと待ってて。ドラコー!おいでー!」


マシュー先輩に急かされ、俺は声を張り上げ、全力でドラコを呼んだ。


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