10.パルメラの実
本日少し文字数少なめです……
「さて、好物はわかったものの、パルメラを使ってどう森の主に薬を飲ませるかなぁ」
腕を組み、俺が持っているパルメラの実をじっと見つめ、ジェイド隊長が唸っている。
その実をエレンが「ちょっといいか」と言ってヒョイと持ち上げると実を色んな角度から調べ始めた。
「先程、これの中には液体が入っていると言っていたな。ということは中はその液体を出せば空洞、ということでいいか?」
「そうだ。と言ってもそんなに沢山入っているわけではないけどな。試しに飲んでみるか?」
ジェイド隊長はおもむろにナイフを取りだしエレンから実を渡してもらうと、実の上の方にナイフを入れ丸くくり抜いた。
そして空いているカップにその中身を注ぐ。
中の液体はだいたいカップ二杯分弱、という量だった。
そのうちの一杯をエレンが手に取る。薬師の癖か、匂いを少し嗅いでからそっとカップに口をつけた。
「どんな味?」
好奇心からエレンにそう聞くと、エレンは少し考えてから答える。
「味……そうだな、今までにあまり口にしたことが無い味だ。強いて言うなら何か果物のような……?ただ、詳しく調べてみないとわからないが少し魔力を感じる。シノブは口にしない方が無難だろうな」
「え、そんな感じなの?残念……」
「じゃあ俺飲んでみてもいいか?」
ロバートに確認すると、「俺は昔よく飲んでたからいいよ」と言ってくれたのでもう一個のカップの中身は俺がいただくことにする。
そっと舐めるように口に含むと、確かにライチのようなあっさりとしたフルーツのような味がする。……この感じ。運動した後にスポーツ飲料を飲んだ時みたいな身体が満たされる感じ。これが含まれてる魔力のおかげなのかな?冷たければもっと美味しそう、と思った俺はなけなしの魔力を振り絞り氷を作るとカップに浮かべて飲んだ。
「疾風、どんな感じ?」
「なんかスポーツ飲料っぽい。アッサリしてるけど美味いよ」
「えぇ、僕も飲んでみたかったなぁ」
にーちゃんとそんな会話をしていると、エレンは空になった実に手を伸ばす。そしてナイフでくり抜かれた実の上の部分を、元のようにその穴にはめた。
「ふむ」
何となく納得した顔をしてから、エレンはにーちゃんに声をかけた。
「この実の中に薬を詰めて穴を元のように塞ごう。それを何個か作って森の主の現れそうな場所に置いておけばどれかは口にするんじゃないか?試しに一個作るから鎧から薬を出してくれ」
「うん、わかった」
エレンに言われ、にーちゃんはひとつ森の主用の眠り薬を取り出すと、エレンの手にそれを乗せた。
エレンは眠り薬を受け取ると中身を実の中へ移し穴を塞ぐ。そして器用に闇の魔力を指先に纏わせると切り口を丁寧に塞いだ。
そっと実を傾け徐々に塞いだ穴を下に向ける。しばらくそうしていても穴から眠り薬が漏れる気配はなかった。
「ひとまず大丈夫そうだな。これを何個か作るか」
マシュー先輩たちが持って帰ってきた実は全部で五つ。その全ての中身をエレンは眠り薬と入れ替えた。
眠り薬は王都から六本持ってきていたので、余った一本は予備としてまた鎧の中にしまう。
「じゃあこの実を森の主が現れそうな場所に置きに行くか」
「出没しやすい場所とかあるんですか?」
にーちゃんがそう訪ねると、ジェイド隊長とマシュー先輩、ハッサンは顔を見合わせる。
「そうだなぁ、以前より行動範囲が広がってるからなんとも言えないが、定期的に現れる場所はあるからそこに置いてきてみよう」
「俺たちもついて行っていいですか?」
「あぁ。むしろ一緒に来てもらって場所を覚えてくれ。これからはその場所を定期的に巡回しなきゃならないからな」
俺たちはパルメラの実を三個と二個持ち、二手に分かれた。
「俺とハヤテとエレンで二個、マシュー、ハッサン、ロバート、闇騎士で三個置いてこよう」
「わかりました」
にーちゃんは闇騎士呼びに慣れたのか、最近は名前の訂正をしなくなった。実はちょっと気に入ってきたんじゃ……と俺は思ってる。
「俺たちは東側、マシューたちは西側に行ってくれ。何かあれば緑珠の欠片で呼んでくれ」
「了解!」
……あれ?
「そういえばニコラスは?」
俺たちが着いてからまだ一度も姿を見てない気がするんだけど……
「アイツはなぁ……ハヤテの作ったロテンブロ気に入りすぎていつもなかなか出てこねぇんだ。ソフィア一人残すのも心配だったからちょうどいい。留守番しておいてもらおう」
「留守番……」
身だしなみ気をつけてそうだったもんな……露天風呂気に入っちゃったかー……
ならニコラスには留守番しておいてもらい、気を取り直して俺たちは二手にわかれて森の中へ入っていった。




