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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
209/226

9.守護の森の異変

途中休憩小屋で一晩を明かし、次の日には守護の森近くまで戻ってこれた。


「……なんか、雰囲気違う?」


守護の森の入口付近、辺りには少し淀んだ空気が流れていた。前はもっと、森林特有のマイナスイオンというかリフレッシュ出来るような清々しい空気というか、そんな癒しの雰囲気だったのに。

今はどことなく、人を寄せつけないような息苦しい空気に包まれている。

一歩足を踏み入れてみれば、不安感や焦燥感に襲われた。


「これ、思ったよりまずい状況だよね」

「あぁ。この感じは尋常じゃない。こんな森は初めてだ」


闇の鎧の効果で状態異常無効のにーちゃんでさえ、この森の異常さに気がつく。エレンも辺りを見渡しては眉をひそめていた。


「これ、規模は分からないけど多分かなりの数、瘴気溜りが発生してるよね」

「ジェイド隊長たち、大丈夫なのかな?急ごう!」


ジェシカとライアンが抜けている守護団、もし誰かが瘴気中毒になって倒れたりしてたら一大事だ。

ジェイド隊長は問題ないって言ってたみたいだけど、この状態を見てしまうとどうしても心配になってくる。

急いで森をぬけ、懐かしい守護団の駐屯地へ辿り着くと、一目散に詰所の扉を開けた。


「戻りました!」

「おー、おかえりー!」


バン!と勢いよく扉を開けると、中には休憩中と思われるジェイド隊長がくつろいでいた。

……え?どゆこと?


「今ちょうどマシューとハッサンで巡回出たとこなんだ。ニコラスは……湯浴みか?」


室内をぐるりと見回し、とりあえず座れ座れと椅子を勧められる。

俺たちは呆気に取られたまま椅子へ腰を下ろした。


「隊長……あの、森の様子が……」

「あぁ、なんか辛気臭ぇだろ?最近ずっとあんなんなんだ。やたらと暗いしな」

「それ……瘴気のせいじゃあ……」


あっけらかんと話すジェイド隊長は、あんな近くに瘴気が発生してるそばで過ごしているとは思えないほど、どこからどう見ても健康そうだった。

ロバートの問いにも軽く受け答えしている。


「あぁ、アレ瘴気らしいな」

「気分とか、大丈夫なんすか?」

「問題ねぇなぁ。王都からの報告で聞いたんだがハヤテの薬草使った料理、あれが瘴気に効くんだろ?俺たちあれから毎日薬草食ってるからな」

「毎日?!」


俺とロバートで声を上げると、台所からソフィアさんがお茶を持って現れた。


「おかえりなさい、ロバート、ハヤテくん。そちらの二人ははじめましてね。私はソフィア。緑珠守護団(ここ)の回復医よ。と言っても今は回復魔法を必要とするライアンがいないから専ら家政婦みたいになってるけどね」

「はじめまして、私は王都で薬師をやっているエレンだ」

「あ、僕はシノブです」


ガシャン……!


ソフィアさんがなにかに驚いて、みんなの前に置いていたカップを落としそうになる。

あ、危な……!

零さなくてよかった……


「え、あ、はじめまして。え、闇騎士(ダークナイト)……よね?」

闇騎士(ダークナイト)、話せるじゃねぇか」


……あ、そこから説明しなきゃだったのか!


俺は、にーちゃんのこと、それから俺たちがワタリビトだということをジェイド隊長とソフィアさんに話して聞かせた。


「そうか、ワタリビトか」

「だから色んな薬草の知識があったのね……」


二人は妙に納得した顔をして頷く。


「ハヤテ、お前のその薬草の知識おかげで、俺たちは瘴気を気にすることなく森を動き回れる。まぁ多少の気持ち悪さはあるが動けないほどじゃないからな」

「もし瘴気中毒、酷くなって瘴気(あた)りにでもなっていたら、私の力ではどうにもならなかったわ。薬草のおかげで瘴気に耐えられるんでしょう?ハヤテくん、ありがとうね」


急にお礼を言われ、俺は照れくさくなりかぶりを振った。


「いやいやいや、お礼なんて……俺は自分が美味いもん食いたかっただけって言うか……」

「それでも救われた命はあるはずだ」

「いやー……」


ジェイド隊長はガバッと頭を下げ再度「ありがとう!」とお礼を言った。


「ところで……」


下げた頭を戻し、俺とにーちゃんを交互に見るジェイド隊長。そしてなにか気になることがあったのか首を傾げた。


「ワタリビトって別の世界から来てるってヤツだよな。てことは、次に魔力の揺らぎが発生したら……」

「俺たち二人、向こうの世界に引き戻される可能性があります」

「なるほど、そりゃ時間が限られるな」

「ヘンリー先生に、森の主(スフェーン)の好物はジェイド隊長が調べておいてくれるって聞いたんですけどわかりましたか?」


テセウスさんが、薬は鮮度が命だと言っていた。飲ませるなら早い方がいいと思う。

そう思いジェイド隊長に尋ねると、あぁ、と頷いた。


「さっきマシューとハッサンで巡回に出たって言ったろ?その時に見つけたら持って帰ってきてもらうことになってんだ。そこらにあるからそろそろ戻ってきてもいいと思うが」


その言葉が聞こえたかのように、扉を開けて入ってきたマシュー先輩が「あー!!」と俺たちを指さす。


「お前らー!おかえり!」


俺とロバートに走り寄ると、二人一緒に羽交い締めにするマシュー先輩。そしてエレンとにーちゃんを見てさらにテンション高く叫んだ。


「わー!めっちゃイケメンと闇騎士(ダークナイト)もいる!」


若干引き気味のエレンとにーちゃんにもハグをして、それから我に返ったマシュー先輩は入口に置き去りのハッサンと共にジェイド隊長へ報告を始めた。

その時ハッサンと目が合い、『おかえり』と言っているように見えたので『ただいま』と気持ちを込めて視線を返しておく。


「マシュー、ハッサン。両名とも戻りました。ご指示の通り『パルメラ』を数個収穫して持ち帰っております。今は外にありますが、中に持ってきますか?」

「あぁ、頼む」

「は!」


マシュー先輩とハッサンが抱えて持ってきたのは見た目がスイカのような椰子の実のような大きな実?だった。

ひとつ持たせてもらうと、結構ずっしりとしている。黒と緑のストライプ模様で見た目はスイカ、というか瓜に似ていて、コンコンと叩くと皮は随分と硬そうだ。そこは何となく椰子の実っぽい。


「これって食用ですか?」


ジェイド隊長に尋ねると、「あぁ」と返事が返ってくる。


「まぁ俺たちからしたら食べる、と言うよりは飲む、だけどな。中に液体が詰まっているんだ」


おお、やっぱヤシの実っぽい。


森の主(スフェーン)が現れる場所を確認してみると、そのパルメラの実がなっている場所によく現れることに気づいてな。恐らくソイツが森の主(スフェーン)の好物だ」


これが……


俺は今回の作戦の鍵を握る森の主(スフェーン)の好物を掲げてまじまじと見つめた。

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