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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
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8.思わぬアオハル

翌朝、騎士団の宿舎へロバートと向かう。

ヘンリー先生はもう少し王都に残ってあとから緑珠へ戻ってくるらしい。

騎士団の宿舎に着くと、入口の前にはエレンとにーちゃんが支度を終えてすでに待っていた。


「おはよー!遅くなって悪い」

「いや、まだ出発に問題はない時間だ」

疾風(はやて)、またエレン徹夜したんだって」

「えぇ?」


エレンの顔を覗き込むとうっすらとクマができている。この子はいくら言っても言うことを聞かないな?


「う……いや、ちょっと作りたい薬があって、その試作を作るのに手伝いをジョンに頼んだら思った以上に効率が良くてだな……」


視線を彷徨わせつつしどろもどろに言い訳をするエレンの横に、生気の抜けた表情でジョンが佇んでいた。


「ジョン、大丈夫か?」


俺が声をかけると、少しだけへらりと笑い力なく頷く。


「大丈夫だ……しかしエレンのあの調薬に対する熱意はすごいな……あれだけ常に全力で薬学と向き合っていたら、そりゃテセウス様に並ぶ腕になるわけだ……改めて俺の思い違いに恥ずかしくなるよ」

「お……おつかれ……」


一晩中薬作りに付き合わされたのかゾンビのようになってしまったジョンに労いの言葉をかける。

するとそこにエレンも加わりテンション高めに話し出した。


「ジョンの魔法を混ぜて調薬すると魔力が混ざるまでにかかる時間が半減するんだ。その後私の魔力でジョンの魔力を抜き出せば魔法アレルギー等の問題も起きない。同じ時間で今までの二倍の量の試薬が作れるんだ。すごいと思わないか?!」


薬学については年相応にニコニコと話すエレンと、馬車馬のように働かされて今や生命が風前の灯火のようになってしまっているジョン。

少し前まで寄ればバイオレンスな雰囲気を滲ませていたとは思えないほど、今やふたりの間には和やかな空気が流れていた。

……いや、ジョン死にかけてるから和やかではないか……?


そんなことを考えていたら、ふと視線が刺さる。その先にはわなわなと震えるリアンの姿があった。


「おう、リアンおは、よ……」


言い終わる前にサッと腕を捕まれ少し離れた場所に連れていかれる。


「ちょ、」

「あの二人、いつの間に仲良くなってんだよー!」

「あの二人?」

「エレンとジョン!」

「あぁ、最近かな?」

「最近?!」


俺の答えにリアンは素っ頓狂な声を上げる。なんだ?急に……

って、え、待って。

これって……


「え、リアンてエレンのこと……」

「なんだよー!俺の方が前から顔見知りだったのにー!」


俺が質問をしようとしたところに被せるように、頭を抱えてリアンは叫んだ。


「何話したらいいか考えてるうちにいつも居なくなっちゃうから全然話せてなかったのに、ジョンのやつ……え、もしかして検問所から薬師になったのってもしかして……?なら俺も薬師になれば……」


一人で百面相を始めたリアンは面白かったけど、暴走しそうだったので俺は軽く止める。


「リアン、薬師にならなくても薬草に詳しければエレンと話が弾むと思うぞ。あとは……例えば遠征先とかで珍しい薬草見つけたらエレンにプレゼントするとかどうだ?」

「ハヤテ……そうだな、プレゼント作戦いいかもしれねぇ!俺も東の森の調査隊入れてもらってこよう!」


そのまま宿舎へ走り出そうとして、直ぐに戻ってくる。


「お前ら今から守護の森行くんだろ?最近瘴気溜りが頻繁に起きてるらしいから気をつけて言ってこいよ!」

「あぁ。リアンも東の森行くんなら、瘴気に気をつけろよ」

「任せろ!じゃあまた問題解決したら会おうぜ!」


そう言って、にーちゃんやロバート、そして遠目からでもわかるくらいモジモジしながらエレンに声をかけ宿舎へ走っていった。

俺と同じように目線でリアンを追っていたにーちゃんと目が合い、お互いにニヤニヤしながら歩み寄る。


「なぁにーちゃん、リアンって……」

「あぁ、間違いないよね。青春してるなー」


何となくアオハルを目撃してしまい、心がほっこりしたところでテセウスさんが姿を見せた。


「おはよう、みんな。急に旅立たせて申し訳ないね」

「いえ、これが目的だったんで」


緑珠守護団から王都に旅立った時は、森の主(スフェーン)の薬を作ってもらうだけのつもりだったのに、まさかにーちゃんに再会して黒の大陸に行くことになるとは。思ったより時間はかかってしまったけど、これで本来の目的の『緑珠奪還』を始めることが出来る。


黒の大陸の浄化の影響がどれだけ出てるかわからないし、聞いたところによると緑珠が森の主(スフェーン)に奪われた直後より守護の森の様子も悪くなってそうだと言っていた。さっきリアンの言っていた瘴気溜りが頻繁に起きていると言うのも気がかりだったので、早く戻って様子を確認したい、と言うのが本音だ。


「今回見送り私だけで申し訳ない。アレックスとバリーは東の森の瘴気やら他のことで手一杯でね……守護の森に関してはジェイドからは特に酷い問題が起きたとは報告が上がっていない。けれど、用心するに越したことはないからね。道中気をつけて向かってくれよ」

「はい!」

「行ってきます」

「何かあったら直ぐに早馬を飛ばすように」

「了解です」


テセウスさんに見送られ俺はドラコ、にーちゃんはマシロ、ロバートとエレンも一頭づつ馬に跨る。


「では、緑珠、取り返してきます!」

「頼んだよ!」


手を振るテセウスさんを振り返り、俺も大きく手を振ったあと四頭は朝日が照らす街の中を走り抜けた。

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