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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
最終章 緑珠奪還 編
203/226

3.消費期限は意外と長い

「それはもしかして……あの森林竜(シルワドラコ)の……?」

「そうです」


アクセサリーかなにかに加工しようと思いつつ、時間が取れずそのままで持ち歩いていたドラコの折れた角。


「以前この角は魔力が詰まっていて薬の材料になると聞いていて……ただ、その分扱いが難しくて使えるならテセウスさんくらいだろうって。俺、持ってても使い道ないしこれが使えるなら使ってください」


そのままぽんとテセウスさんの手のひらに乗せる。


「ありがとう。これなら……いや、そうすると今度は瘴気水との兼ね合いがあるか?」

「そう、ですね。魔力は上がりますが普通の瘴気水だと成分が分離する可能性が……」


どうやらまだ少し問題があるのか、テセウスさんとヘンリー先生でごにょごにょ相談が始まってしまった。

俺は一旦その場を離れ、にーちゃんとロバートの座っているソファに腰を下ろす。


「調薬関係はどう頑張っても口出せないよなぁ」

「俺たち、無力だよね……」

「僕、少しは勉強したつもりだったけどやっぱりテセウスさんの知識にはかなわないなぁ」


三人で溜息をつきつつ、薬師たちの熱い論争をぽけーっと聞いている。

するとだんだん喉が渇いてきた。

何かコップになるもの……と周囲を見渡してみても空のビーカーやコップは見当たらない。


どうしたもんか……上向いて直接指から出した水飲むか?でも鼻に入ったら痛いよな……


そんなことを考えていたらその様子を見たにーちゃんが声をかけた。


疾風(はやて)、どうしたの?なんか探し物?」

「いや、なんか喉が乾いてきてさー。コップ替わりのものないかなって思って」

「コップかぁ……あ、もしかしたら空の回復薬の瓶とか闇の鎧(これ)の収納にあるかも。ちょっと待ってね」


胸に手を当て、何かごそごそするにーちゃんを眺めていると、突然何かを思い出したかのように、あ!と声を上げた。


「そうだそうだ、これも疾風(はやて)返しておくの忘れてた」


そう言ってにーちゃんが出してきたのは……


「あ、俺があのコンビニで買おうとしてたミネラルウォーター!」


今は懐かしいペットボトルに入った『湧き水のようにおいしい水』と書かれたミネラルウォーター。

にーちゃんの手にはそれが握られていた。

俺はそれを受け取りキャップに記載の期限を見ると、俺がここに飛ばされた年より二年先の日付が書かれている。

これなら期限切れの心配もなさそうだ。


「うわぁー、久々に向こうの水!」


俺は懐かしくなりパキっ、とペットボトルのキャップを開けるとそのまま飲もうとして……視線に気づいた。

そっと周りを見てみると、ロバートを始めさっきまで熱く論争を繰り広げていたテセウスさんやヘンリー先生、いやむしろ部屋の中にいる人たち全員が俺のペットボトルに釘付けになっているという異様な光景に気がつく。


「……あ、あの……?」


妙に居心地が悪くなり、ペットボトルに再度キャップをはめてテーブルに置くと、みんなの視線もそれにつられて動いている。


「……もしかして、これ?」


ペットボトルを持ち上げると、ブルブルと手を震わせながらテセウスさんがゾンビのように近寄ってくる。


いや何怖い……


思わず後ずさりするものの後ろにはテーブルがあって下がれない。

そこに、


ダン!


とテーブルに勢いよく手をついたテセウスさんが、興奮したようにペットボトルを指さした。


「ここここれはもしかしてハヤテくんとシノブくんのところの……?」

「はぁ、そうですね。俺たちが普段向こうで飲んでる水……」

「見させてもらってもいいかい?!」


俺が言い終わる前に食い気味に来たので俺は思わず頷きペットボトルを差し出した。

テセウスさんがそれを受け取ると、わっ!と周りに人が集まる。


「ここを回せばいいのかな?」


初めて触るペットボトルに興奮しながら、テセウスさんがペットボトルのキャップを器用に外し、中の水の匂いを嗅ぐ。

すると、一瞬難しい顔をしたと思ったらどこからともなく持ってきた空き容器に少し水を入れなにやら調べ始めた。


その隙に別の薬師の人がペットボトルへ手を伸ばすと……


「触るな!」


普段あまり聞かない厳しい声で、その薬師がペットボトルに触れるのを止める。


「テセウス様、そんな独り占めしないでくださいよー」


呆れた声でそう薬師の人が抗議すると、


「独占欲じゃない。触りたければ触るがいいさ。その代わり恐らく直ぐに高熱を出して倒れる羽目になるぞ」

「え?」


薬師の人は伸ばした手をすっと引っ込める。


「テセウス様、それって……」


ヘンリー先生がそう言いながらテセウスさんの手元をのぞき込む。


「これは……」


それを見たヘンリー先生は、は!と息を飲む。

テセウスさんがなにやら調べていた容器を他の薬師たちに見せると、薬師たちのなかにざわめきが広がった。


「あの、何かあったんですか?」


普通じゃない気配を感じ取り、恐る恐るテセウスさんに確認をする。

するとテセウスさんが眉に皺を寄せながら教えてくれた。


「この水は瘴気水だ。しかもこちらではなかなか見ることの無い高濃度のな」



第2章 41.懐かしいもの

第3章 1.幼馴染


の伏線、無事回収ー!

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