72.薬草と瘴気耐性
「俺の料理を食ってるか食ってないか?それがどう症状の重さに繋がるんだ?」
ルシアノさんの疑問はもっともで、俺を始め他の人たちもエレンの言葉にピンと来ない。
それを見たエレンはさらに追加で説明をした。
「みんなに配ったという新メニューって例の薬草を使った料理のことだろう?」
「あぁ、そうだ。薬草を使ったメニューで……」
そこでルシアノさんはピンと来たのか「あぁ!」と手を打つ。
「そうか、ここにいる人は甲殻類アレルギー、つまり俺の作った新商品を食べていない。カギは薬草か!」
「薬草は回復薬などの原料として普段から使われてはいるが、普通何かしら加工して服用する。今までは食材として使用することは無かったんだ。ただ、ハヤテが食用として可能性を見いだし薬草を食べることで直に摂取すると、摂取したものの魔力の質が変わることがわかった。この町の人々はルシアノの料理を通して薬草を直に摂取することにより魔力の質の変化、今回の場合は瘴気耐性が上がったんだろう」
「瘴気耐性……」
エレンの仮説をみんなが聞き終わると、リゲルさんは立ち上がりルシアノさんの手を握った。
「ルシアノさん!アレルギーがあっても食べられる、薬草を使った料理、作ってもらえませんか?」
「わかった、少し待ってろ」
そう言ってルシアノさんは一度うみねこ亭へ戻って行った。
その間にエレンはあの金平糖のような瘴気の浄化薬の作り方をリゲルさんに教えている。
俺とロバートとにーちゃんの三人は、ベッドで休んでいる人たちの汗を拭いたり水分を与えたりと出来る限りの看病をした。
そうして一時間ほど経った頃、ルシアノさんが大鍋を持って戻ってきた。
鍋からは胃袋をくすぐるいい匂いが漂ってくる。
「エビや魚介の代わりにチキンと薬草を入れて作った魚介抜き炒めご飯だ。これならアレルギー関係ねぇだろ」
ベッドから起き上がれるほどの体調の人達は、みんなルシアノさんの持つ鍋に目が釘付けになっている。
小皿に移し、患者それぞれに器を渡すとみんな目を輝かせて食べ始めた。
「町のみんなが美味しいって言ってたので気になってはいたんですけどエビが入ってて食べるの諦めていたんです」
「まさか魚介抜きで作ってもらえるなて思ってもみなかったから嬉しいです」
患者たちは、そう口々に感謝の言葉を紡ぎながらパクパクと美味しそうに特製パエリアを食べ尽くしていた。
「やっぱりアレルギー持ちだったか」
「みたいです。さっき雑談しつつ「アレルギーありますか?」って聞いて回ったら皆さんそうだと言っていたので」
魚介抜き炒めご飯を配り終わったルシアノさんに、にーちゃんがそう伝えるとみんなのご飯への食いつきを見てルシアノさんは満足気に頷いていた。
「アレルギー持ちの人でも薬草料理楽しめるように魚介を使わないメニューも増やしてみるか」
「ほんとですか?!」
「食べられるものが少なくて困ってたんです!是非!」
ぽつりと呟いたルシアノさんの言葉を聞いて、患者さんたちは食いついていた。
魚介豊富な町の食堂だったらそりゃ魚介のメニューばっかりだよな。アレルギーあったら食うもんないか。これからは食べられるメニュー増えそうだし患者さんたちも嬉しそうだ。
「食事の後はなるべくこれを服用してください。身体からだるさが消えたら瘴気は完全に抜けているので、それまでは飲むように」
エレンは食べ終わった人達にあの金平糖の形の浄化薬を配って回った。そしてリゲルさんの肩を叩く。
「作り方は先程説明した通りだ。瘴気が抜けるまで薬は作ってやってくれ」
「承知しました。ありがとうございます、エレンさん。あなたの知識に助けられました」
「別に……大したことはしていない。私の知識で分かる範囲でやっただけだ」
顔を赤くしいつものツンデレ発言をすると、エレンはぷい、とリゲルさんから視線を逸らした。
リゲルさんは気を悪くすることなく、安堵のため息をつく。
「まさかこのような形で瘴気中毒の患者に当たるとは……お恥ずかしながら今まで瘴気中毒とは無縁で過ごしていまして……今回はたまたま直ぐに浄化されて症状が軽かったからこの程度で済みましたが、もし浄化の風がなかったらと思うとゾッとしますね」
「瘴気中毒ってそこまで進行の早いものなんですか?」
にーちゃんがリゲルさんにそう尋ねると恐ろしい回答が返ってきた。
「そうですね、瘴気に中り高熱を出した時に浄化や浄化薬が間に合わないともって数日、と聞きます」
「え!」
「そんなに早く?!」
にーちゃんは目の前でケイレブが瘴気中毒を起こしたのを見たせいか驚きが俺よりも大きい。
ロバートとエレンは、昔村を襲った瘴気を思い出したのか眉を下げていた。
「……これ、継続的に薬草食べてたら自然とみんなの瘴気耐性上がったりしないかな?」
俺はふと思ったことを思わず口にした。