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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第3章 黒の大陸 編
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69.町の英雄

俺たちの船が船着き場に着くと、あっという間に船の周りは町の人々に囲まれる。


「おい、帰ってきたぞ!」

「道を開けろー!」


え、何だこの人だかり?!


俺たちが船の上から降りるのを躊躇っていると、その人だかりの中からルシアノさんが現れた。


「よう、お前らおかえり!」

「ルシアノさん!ちょ、この人たちどうしたんですか?」


ちょいちょい、とルシアノさんに手招きされ、俺たちは首を傾げながら順番に船を降りた。

すると待ち構えていた人たちから拍手と歓声が巻き起こる。


それを見て俺たちが意味がわからず固まっているとルシアノさんが説明を始めた。


「ここにあった船、テセウス様からの指示で用意されてることはみんな知っていたんだが、誰が使うかまで知っていたのはうみねこ亭(ウチ)だけでな。お前たちが出航したあと船が無くなってることに気がついた町のヤツらから質問攻めにあってなぁ」

「質問攻め?」

「あぁ。なんのための船だったんだ、とか、誰が乗っていったんだ、とか。その説明を聞きたい人が連日うみねこ亭(ウチ)に押しかけてな。いやー、おかげで食堂は常に満員御礼だったよ。あ、町の人にもあの薬草入り魚介のトマト煮(ブイヤベース)好評だったぞ」


満面の笑みを浮かべ、俺の背中をバシバシ叩くルシアノさん。ちょ、待って……痛い痛い!


「じゃあもしかしてこの人だかりって……」

「僕たちを見に来たってこと?」


ロバートとにーちゃんがそう呟いていると、その人たちがドっと押し寄せる。


「君たちが黒の大陸浄化しに行ったんだろ?」

「この町からあの大陸が見えるようになるなんて何年ぶりかしら!」

「握手、握手してください!」

「ありがとう、君たちは我々にとって英雄だ」


もみくちゃにされ、もはや身動きもままならない。

どうしたらいいんだとなすがままにされていると、見かねたルシアノさんが町の人たちを引き剥がしてくれた。


「おうあんた達。嬉しいのはわかるがその英雄サマたちが困ってるぜ?まずはゆっくり休ませてやろうや」


その一言で、俺たちはおしくらまんじゅうのような状態から解放される。

息苦しさがなくなり、ほっとため息をつくと大事なことを思い出した。


「あ、あの、ルシアノさん!こっちに黒い霧みたいなの流れてこなかったか?」

「黒い霧ぃ?」


うーん、と思い出す仕草をしているルシアノさんの横でおずおずと手を上げる町の人が。


「あの、なんか黒い風は吹きました。俺、この船が黒の大陸に向かったってうみねこ亭で聞いて、それから黒の大陸が気になっちゃってずっと向こうを見てたんです。そしたら急にあの大陸から黒い風が吹いてきて……」

「そうそう、こう、ぶわっと撫でるように町全体を吹き抜けて行ったよな」

「で、その後すぐにあとを追うみたいに今度はなんか光った風が吹いてさ。その後からだよな。あの大陸が見えるようになったの」


わいわいと町の人たちはその黒い風の話題で持ち切りになる。


「あの、その風のあと体調崩した人とかいませんか?」


俺がそう尋ねると、何人かは頷いた。


「ああ、あの風を吸ったあとすごい気持ち悪くなったな」

「俺も。なんか体内の魔力が急に熱を持ったみたいになった」

「私はめまいだったわ。クラっときてその場にうずくまったけど、その後の光る風が通り抜けたあとは体調戻ったから、ただの立ちくらみかと思ってたんだけど」

「あ、俺もあの光る風の後、体調戻ったから気のせいかと思ってた」


……やっぱりあの黒い風は体調不良を起こしていたみたいだ。

でもいくらそのあとの浄化の風が瘴気を浄化してくれたからって言っても、初めに吸った時に瘴気ってもっと大騒ぎになるような感じじゃなかったっけ?それがめまいとか気持ち悪さで済むのか?


俺たちの表情を見て何か汲み取ったのか、ルシアノさんが質問してきた。


「なぁ、その黒い風ってなんかあるのか?」


俺たちは顔を見合わせる。

そしてエレンがルシアノさんの質問に答えた。


「実は、その黒い風の正体は黒の大陸から流れ出た瘴気なんだ」

「瘴気?!」


ルシアノさんを始め、集まった町の人々が驚きの声を上げる。


「その割に体調に変化がないんだが」

「あぁ、その後の光る風が浄化の光なんだ。恐らく体内の瘴気はその風でほぼ浄化できていると思う。もし万が一まだ体調が回復していない者がいたら私に声をかけてくれ。一応薬師だから体調に合わせて薬の調合をしよう」


エレンがそう言うと、町の人たちもほっと胸をなでおろしたみたいだ。


「とりあえず今日はもう遅い。そろそろうみねこ亭(ウチ)に連れて帰っていいか?」


ルシアノさんがそう言うと、町の人たちは口々に改めてお礼を言いに来てパラパラと家に帰っていった。

俺たちもみんなで揃ってうみねこ亭へ向かう。

うみねこ亭に着くと、ルシアノさんがドアを開けてくれた。


「さ、疲れたろ?うみねこ亭(ウチ)で疲れを癒して行ってくれ。明日には王都に戻るんだろ?」

「はい、この黒い瘴気の風がどう影響しているか分からないので」

「アタシとライアンは次の指示があるまでとりあえず待機って言われているから、もう少しうみねこ亭(ここ)でお世話になるわね」

「おう、いつまででもいてくれていいぞー。よし、んじゃ飯作ってくるからその間に湯浴みでもしててくれ」


そう言って厨房の奥にルシアノさんは引っ込んで行った。


「湯浴み……あぁ、それよりゆっくり湯船に浸かりてぇなぁ……」

「そうだね、ここの人たちお湯に浸かるってしないもんね」


俺の嘆きににーちゃんもため息をつく。


「そうか、シノブもオンセン好きなんだな?なら緑珠守護団に来た時ハヤテ自慢のロテンブロ入ってみてよ」

「え?!温泉?露天風呂?!」


にーちゃんのため息を聞いて、ロバートがわくわくしながら俺の露天風呂を勧めている。


疾風(はやて)、そんなの作ったのか……なにそれー、めっちゃ入りたい……」

「王都で黒の大陸の件報告したら次は緑珠だからな。その時ゆっくり浸かってくれよ。緑珠守護団(あそこ)毎日露天風呂入り放題だぜ」

「ライアンもなんだかんだ気に入って毎日入ってるもんね」

「アタシもあれ気に入ってるのよー。お肌ツルツルになるし」

「え……ジェシカも一緒に入ってるの……?」


複雑そうな顔をしつつ、にーちゃんは露天風呂に興味津々だ。やっぱり日本人なら湯船に浸からねぇとなー。

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