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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第3章 黒の大陸 編
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64.渾身のウォールラン

準備運動をし始めた俺の横でロバートが不思議そうな顔をしている。


「え、ハヤテ何するつもり?」

「ん?あの壁を登る」

「登る?!魔法使えないんだよ?ロープも踏み台もないのにあの高さを?!」

「まぁ見てろって」


あー久々だな、この感じ。

ちゃんと身体動くかな?


ロバートとエレンが不安そうに見守る中、にーちゃんはぐっ、と俺に向かって親指を立てる。


「僕、昔疾風(はやて)の動画よく見てたんだ。あの技が実際に目の前で見れるなんて……!スマホの電源入ればムービー撮ったのになぁ、残念。疾風(はやて)、ファイト!」

「おう、任せろ!」


俺もにーちゃんにぐっ、と親指を立てて返事をし、助走の体勢に入る。

すー……はー……と深呼吸をして、塔の壁と向き合う。

俺は窓の位置を確認し、その真下の壁に向かって走り出した。


ダンっ!


利き足である右足で地面を踏み切り、真上へと飛び上がる。左足のつま先を壁に引っ掛けるように更に上へ向かって蹴りあげる。二メートル位の壁ならこの時に手を伸ばして壁の縁に掴まりそのまま体を引き上げて登るけど、今回はもう少し高い位置まで登るのでそのまままた利き足で壁を蹴りあげて更に上へ。

上体を伸ばし指先を窓に伸ばせば、窓の淵に指が引っかかる。そのまましっかりと窓枠を掴んだら反対の手でも掴まり、両手で窓枠を掴んだら壁を蹴りつつ窓から前転のように回転しながら中へと入る。


時間にしたらほんの数秒。


だけど久々にパルクールをしたせいか、俺にはその何倍もの時間に感じた。


塔の中に入り、床の上で受身をとって着地した俺は安堵から、ふぅー……とため息をついた。


膝を撫でつつ、窓から下を覗いてみると、俺の姿に気づいた三人が手を振っていた。


「無事潜入成功ー!!炎探してくるから待ってろよー!」


俺もみんなに手を振り、再び塔の中へ足を進めた。

この塔はほぼ階段でできているらしく、俺が侵入した窓のところは広めの踊り場になっているくらいで、あとはひたすら石造りの階段だった。


上か、下か。

まぁ普通に考えたら上だよな。

ってことで俺は階段を上に昇っていく。

円形の塔の形に沿って作られた螺旋階段を登っていくと、さほど登らないうちに最上階の空間へと辿り着いた。

外から見た時は気づかなかったけど、屋根は途中までしかなく上にはぽっかりと穴があいて空を映し出していた。

そこから視線を落とすとその空間のど真ん中に、何かの木を模したような俺くらいの高さのオブジェがあり、その中心に花の形をしたトーチが飾られている。

そのトーチには確かに炎が煌々と燃えていた。


あの屋根の穴も普段は魔力結界が張ってあったんだろうな……

雨が降る前に結界が戻りますように!と願いつつ、その聖なる炎へと近付いてみる。


煌々と燃えているにもかかわらず、熱さはさほど感じない。


あれ?これ炎だよな?狼煙に火、着くよな?


あまりに炎っぽくないので火がつくか一瞬不安になったけど、とりあえずやるべきことはやってみようとマジックバッグから狼煙を取り出し、その炎に近付ける。


ボッ。


さほど手間もなく、狼煙の先端にはちゃんと火が移った。


その炎がついた先端をちょうど空へとあいている天井の穴に向ける。


しばらく待つと、


ボンッ、ヒュルルルルル……パァン!


と、空高く舞い上がった狼煙が煙を吐いて、空に煙の線を描いていた。


よし、大成功!


俺はひとりガッツポーズを取ると聖なる炎に一礼してからくるりと踵を返し螺旋階段を駆け下りた。


さっき侵入した窓に戻るとそこから下を覗き込む。下のみんなからもさっきの狼煙が上がったのは見えたみたいで大きく拍手していた。


疾風(はやて)、おつかれー」

「狼煙、バッチリ見えたぞー」

「助かった!早く降りてこい」


それぞれ声をかけてくれる。


「おう!そっち戻るー」


窓枠に足をかけ下を見れば……


やべ、これ思ったより高いな?


多少の角度があればまたパルクールの要領で足をかけつつ降りれたかもしれないけど、塔は垂直に建っているためそれが出来ない。

さすがに五メートル弱を飛び降りる訳にも行かないし……


途方に暮れていると窓枠の下に何かあるのが見えた。

なんだ?

しゃがみこみ、窓枠の下に手を入れてみると隠し収納になっているようで、中からこの窓からの脱出用と思われる縄ばしごがでてきた。

それを取りだし、窓枠から外に放り投げると、シュルシュルと広がった縄ばしごは地面につくギリギリの長さで止まった。

引っ張ってみるとそこそこ頑丈そうでこれを使っても途中で縄がちぎれたり……ということはなさそうだった。


これなら大丈夫そうだな。


二、三回ぐいぐいと引っ張り確認すると俺は窓枠から身を乗り出し縄ばしごに足をかけた。


ぎっ、ぎっ……とゆっくり一歩づつはしごに足をかけて降りていく。

最後の一歩を地面につけて無事地上に降り立つと、待ち構えていたようにロバートが駆け寄り、ガシッと肩を組まれた。


「ハヤテおかえりー!やっば、あの高さ魔法使わないで登るとかやば!」


とテンション高めに迎えられた。


にーちゃんもエレンも静かに興奮しているようで、ひたすらすごいすごいと褒めてくれた。


久々に登ったから自信なかったけど、失敗しないで登りきれて良かったー!!

無事に登りきって窓から中に入った時、安心したせいか膝がガクガクしてたのは内緒にしておこう。

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