58.白い炎
「……テ……ハヤテ!」
「うぅ……?」
ぼんやりとした意識の中、目を開けると心配そうに覗き込むロバートの顔。
「ロバート……ホンモノ?」
むに、と目の前のロバートの頬をつねると、頭にチョップを食らう。
「いてっ」
「痛いのはこっちだよ、もう」
頬をさすりつつ、ロバートは俺の身体を起こしてくれる。
「あ!そういえばニセモノたちは?!」
いてて、と身体を起こしつつ部屋の様子を伺うと、さっきまで薄暗かった室内はランプの魔石が起動したのか蛍光灯のような白く明るい光を放っていた。
その白い光が照らし出していたのは、床の所々に塊となって山になっている汚泥。
なんか家の前の側溝掃除した後って道路にこうやってヘドロ溜まってたよな……
そんなことを思い出したせいか、若干腐ったような匂いもしてくる。
「あの臭いヤツ、何?」
ロバートにそう尋ねると、嫌なことを思い出したような表情で教えてくれた。
「アレはアンデッドの成れの果て」
「アンデッド……あれが?」
「そ。さっき俺の前に現れた親。あれ、アンデッドだったんだな。まぁ……おかしいとは思ったけどさ。あの後急に暗くなったと思ったら周りの景色が俺の生まれた村になってて。んで、あの現れた二人としばらくは他愛のない雑談してたんだ。初めは俺も疑ってたし、ぎこちない会話だったんだけどだんだん本物かも、本物だったらいいなって思い始めた途端……苦しい、助けてって目の前でもがき始めて……こんなに苦しいのになんで助けてくれないんだって凄く辛い顔をしながらこっちに手を伸ばしてきて……」
少し、泣きそうな表情でロバートは言葉を続けた。
「当時俺も高熱出して倒れてたからそんな姿、実際は見てないんだ。でももしかしたら両親はああやって苦しみながら死んで行ったのかな、俺だけ生き残っちゃって悪かったな……って思い始めちゃって……そしたらなんか色々考えるの疲れちゃってなんかもういいか、ってなった時に目の前で苦しんでたはずの両親が眩しい光に包まれたかと思ったらどんどん泥みたいに崩れ落ちていって。完全に泥の山になったと思ったらいつの間にか俺はこの部屋に戻ってたんだ」
「……そんなことが……」
俺の前に現れた人が言っていた通り、あの闇に飲まれると冷静な判断が出来なくなりそうだ。
それにしても他人に化けてそんな姿を見せるなんてアンデッドってなんて最悪な奴らなんだろう。
そういえば、エレンとにーちゃんは?!
そう思い出しロバートに居場所を聞くと、部屋の隅を指さした。
その指差す方に目を向けると、エレンとにーちゃんは何やら二人で火を囲んでいる。ただ、その炎は何となく白っぽい気がした。
「あれ、何やってんだ?」
「実は……アンデッドが泥になって崩れ落ちたあとすぐに俺たち三人とも我に返ったんだ。で、周りを見たらハヤテが倒れてるのが見えたから助けに行こうとそっちに行こうとしたんだけど、そこにラースが現れて……」
「ラース?!」
そういえばアンデッドと共に行動するって言ってたような。
「普段なら絶対刺激したりしないでやり過ごすんだけど、ハヤテの状況がわからなかったから一刻も早く助けに行きたいって、シノブがあの黒い剣で試しに魔力を吸ってみたんだ。そしたら弱らせることが出来たから出てきたヤツ片っ端から弱らせてもらって、念の為俺とエレンで魔法で焼いた」
「焼いた?!あの火が出てるのってもしかして……」
「そう、ラース。念の為燃え尽きるまで見張ってもらってるんだ。ただ見てわかると思うけど炎が白くて。それでさっき思ったんだけど……」
とりあえず、二人の方に行こう、とロバートに促され俺たちはにーちゃんとエレンの元に向かう。
「あ、疾風!気がついたんだね?よかったー」
「身体はなんともないのか?とりあえずコレ飲んでおけ」
白い炎を見守っていた二人は俺たちに気が付きこっちに歩み寄ってくる。エレンには魔力と体力の回復薬を差し出されたのでありがたく受けとって飲み干した。
……かき氷シロップ連チャン飲みはキツい……
じんわりと身体が回復している感じがする。
魔力も少しづつ戻ってきてるのを感じながら白い炎の方をちらっと見る。
ラース、どんな魔物だったんだろう?
その炎は既に燃やし尽くしたのか消し炭すら残さず、ただ白い炎だけが揺らめいていた。
「ラースって燃やすと跡形もなくなるの?」
俺は疑問に思ったことを隣にいたエレンに聞いてみた。
「いや、そもそも普段は攻撃をしないものとして扱われていた魔物だから火で攻撃をしたという話を聞かないんだが、それにしてもここまで跡形もなく燃えるというのはないだろうな」
「それでさっきハヤテに聞こうと思ったことに繋がるんだけど」
エレンの言葉を繋いでロバートが俺の顔を見る。
「ハヤテ、もしかしてアンデッドたち浄化してくれた?」




