表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第3章 黒の大陸 編
178/226

56.望まぬ再会

「なん……で」


言葉を失ったエレンの視線の先。

緩いウェーブがかった肩下までの金髪を後ろでひとつに結んだ、微笑みを携えた背の高い男の人。

この人がエレンの……とーちゃん?え、でも……


「エレンの親って確か亡くなったって……」

「ならあれは……?」


ぶわり、と黒いモヤの濃度が濃くなり、エレンとエレンのとーちゃんの姿が見えなくなる。


「あっ」


思わずそちらに向かいかけた時、さっきエレンのとーちゃんが現れた所と同じ場所に現れたのは……


「とうさん……かあさん……?」


驚きを通り越し、表情の抜け落ちた顔で呟いたのはロバート。


「ロバート、久しぶりだな」

「また会えて嬉しいわ」

「え、一体何がどうなって……」


ふらり、とその二人の元に足を向けたロバートと共に再び濃くなった黒いモヤに三人の姿が飲み込まれる。


「ロバート?!」


腕を掴もうと伸ばした手は、虚しく黒いモヤを掻き回しただけだった。


「にーちゃん、どうしよう……」

「うん、ちょっとおかしいよね」


顔を見合せ、二人で揃って濃いモヤの中へ進む。

周囲の様子が全く見えない中、手探りで足を進めると、暗闇から伸びた手が不意ににーちゃんの肩を掴み、強く引いた。


「おいっ!」

「え?」


急に肩を引かれたことによりバランスを崩したにーちゃんは、後ろに引き倒される。


「いたっ」

「ふん、なんだその格好?俺たちの足を引っ張ってたヤツが正義の味方気取りかよ」

「だっせぇ、なんだよその鎧」


突然現れた数人に、にーちゃんは取り囲まれてしまった。

反論する隙もないまま、そいつらはにーちゃんに罵詈雑言を浴びせ続けている。

その言葉にイラッとしつつも、その見た目に俺は戸惑いを隠せなかった。


……制服?

こいつら、にーちゃんの知り合いか?


そう考えると、やっぱり今このモヤから出てきた人達は絶対に本物じゃない。なら、なんのために?


そこで思い出したのがさっきの偽ロバート。


「おい、ロバートの偽物!目的はなんだ?!」


どこにいるのか分からない偽ロバートに向かって、俺は声を荒らげる。


「へぇ、あんたお気楽な人生歩いてるんだな」

「は?!」


どこからともなく、スっと偽ロバートが姿を現す。いきなり現れて喧嘩を売られる意味がわからない。しかもロバートの顔で言ってくるからタチが悪い。


「お前、なんなの?ロバートの顔でそういうこと言うのやめろよ」

「いやー、だってさ。人って生きてりゃ何かしら心が折れることあるだろ?そういう心の傷の元になるやつが現れるはずなのにあんた平然としてるから。ないわけ?挫折とかそういうの」


心の……傷?


「てことは、今あの三人は今そんな心の傷になったような目に合ってるってことか」


目の前で酷い言葉を浴びせられていたにーちゃんを思い出す。

でもエレンとロバートは?

親に会えたなら……

そう考えて、目の前が暗くなる。まさか……


「ふは、エレンとロバート可哀想にな。また目の前で大切な家族が死んでいく姿を見せられるんだから」

「こっの……っ!」


偽ロバートの胸倉を掴み、殴りかかってみたものの頬にめり込んだと思った拳はモヤをかき消しただけだった。


「なっ……」


胸倉を掴んでいるはずの偽ロバート。

手応えはあったはずなのに、その顔の部分はゆらゆらと揺れるモヤが蠢くだけで首から上は何も無い。


「無駄無駄。()()に物理攻撃は効かないよ」


その言葉通り、その後何度も拳を打ち込んでみたものの気づくと無傷の状態で立っている。なのに手応えはあるせいでこっちの拳は徐々にダメージを受けていた。


「っつ……」

「何度殴ってもいいけどさ、痛くないの?それ」


嘲笑うかのように、少し血の滲んできた俺の拳を指さす偽ロバート。


「ナイフとか魔法使えばいいのに。まぁそれを使ったところで俺には効かないんだけど。てか知ってる顔に武器向けるとか、出来ないよな。他の奴らもそうだろうけど。あいつら今、一体どんな目に合ってるんだろうな。ちょっと見てきてやろ」

「あ、待て!」


くるりと身を翻し、闇の中に消える偽ロバート。

すぐにあとを追ったものの近くから気配は消えてしまった。手探りで進んでみるものの偽ロバートも他のみんなとも合流出来ない。

暗闇に、ひとり取り残されてしまった。

不意に暗闇に一人という不安が重くのしかかる。

このまま、みんなバラバラになったらどうしよう。

ここで誰とも会えず、俺の人生終わるのか?


『お気楽な人生歩んでるんだな』


あの偽ロバートの言葉が頭をよぎる。


『ないわけ?挫折とかそういうの』


あるに決まってるだろ?

何度やっても技が決まらない時。

大会に出て負けを味わった時。

悔しくて、不甲斐なくて涙がこぼれた時もある。

パルクールをやっていた時は常に自分との戦いだった。

でも。

どんなに心が折れそうになってもにーちゃんの言ってくれた『人生楽しんだもん勝ち』という言葉に心を救われてきた。

その言葉に励まされ、何度も這い上がってきたんだ。


ここで諦めたら、人生楽しめない。

この先も楽しむために、今この状況を何とかしなくちゃ……

でも、どうやって?


ぐるぐると考えていると、目の前に人の気配が現れる。

偽ロバートかと思い、俺は慌てて()()から距離を取った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ