55.御守り
安心した表情でこちらに歩み寄ろうとするロバートを俺は制止した。
「ロバート、止まれ」
「ハヤテ、どうしたの?急に怖い顔して……もしかしてエレンに何かあった?!」
なおもこちらに近づこうとするロバートの足元に、俺は虎杖から威嚇のため魔法で灯りの魔力を飛ばす。
「いいからそこから動くな」
「ハヤテ……」
俺とにーちゃんはずっと離れずにいたけどエレンの話とロバートの話が噛み合わない。どちらかが嘘をついている?ならなんのために?そもそもこの二人は本当にロバートとエレンなのか?
「疾風……」
虎杖を構えたまま動かなくなった俺を、にーちゃんが心配そうに見つめる。そして「あ!」と思い出したように何かゴソゴソし始めた。
「疾風、これ!」
ずいっ!と目の前に出されたのは、出発前にケインさんにもらった四人おそろいの御守り。
「エレン。エレンの御守り出せる?」
「あ、あぁ……」
俺のロバートに対する態度を見て少し動揺しつつ、エレンは例の御守りを出した。
「ロバート。お前の御守りはあるのか?」
少し距離を置いた場所で待たせているロバートに声をかけると、「当たり前だよ!」と言って懐から御守りを出した。
遠くから見る限り、それは俺たちと同じもののように見える。
「ねぇ、なんで疑うの?俺は俺だってば!」
「じゃあその御守り見せてみろ」
「いいよ!」
ロバートをこちらに呼び寄せ、それぞれが持つ御守りを合わせてみる。すると御守りはケインさんのところでもらった時のようにピタリとハマった。
ロバートの分以外は。
「……お前、誰だ?」
虎杖を突きつけ、ロバートと距離をとる。にーちゃんとエレンも武器を構えた。
ロバート、らしき人物は戸惑った表情を浮かべオドオドしている。
「え、なんで?!あの、俺ほんとにロバートだってば!信じてよ」
涙目になりつつ、ロバートらしき人物がこちらに手を伸ばそうとした瞬間、
「みんな!大丈夫?!」
俺たちの後ろからロバートの声がした。
前と後ろ、二人のロバートに挟まれ俺たちが混乱していると、後からやってきたロバートは「もう、急にみんな居なくなるしさ、置いていかれる方の身になってよね……」と、何やらブツブツ文句を言いながらこちらに近づき、もう一人のロバートに気づくと一瞬間を空け、叫んだ。
「うわーーーー!!俺がいる!」
この緊張感のなさに一瞬呆気に取られたものの、とりあえず後から来たロバートにも御守りを出すように言うと、素直に出した。
「御守りってコレだろ?何、これをみんなと合わせればいいの?」
先程ピタリとハマっていた俺たちの御守りにそれを近づけると、今度はピタリとハマった。
「いやー、これ何度見ても綺麗にピッタリハマるよねぇ。……ところで、あの俺のソックリさん、誰?」
自体を把握出来ていないのか、のんびりと偽ロバートを指さす本物のロバート。
すると、さっきまで目に涙をためてオドオドしていた偽ロバートは突然笑い声をあげ始めた。
「ふ、くく……いやー、まさかこんな形でバレるなんて」
再び顔を上げた偽ロバートは先程とは全く違う不敵な笑みと赤い瞳でこちらを見た。
その赤い瞳は、奥に昏い光を宿し、見つめていると心の底から身体が冷えるような悪寒に襲われる。
「もう少し近くで観察しようかと思ってたんだけど、まぁいいか。さて、絶望に染まる顔を見せてもらおうかな」
そう言うと部屋の奥から黒いモヤが溢れはじめる。
「疾風、あれって」
にーちゃんが指さす先、部屋の奥の方には黒いモヤが溢れだしている祭壇らしきものがあり、そのまわりに黒い鉱石がチラホラ見えた。
もしかしてあれが黒珠?!
近づいてみようにも、偽ロバートが立ち塞がり近寄ることが出来ない。
そうこうしている間に部屋の中がどんどん黒い霧で満たされていく。
するとその黒いモヤの向こう、ゆらゆらと動く人影が見えた。
「え、人?!」
その人影はどんどん数を増していき、俺たちはぐるりと取り囲まれる。
「くっ、どうする?一旦ここから退避するにも囲まれたか」
腕にセットしたクロスボウを人影の方に構え、ジリジリと後退するエレンの前に、モヤからその人影が飛び出してきた。
「止まれ!」
クロスボウの矢をそちらに向け、その体勢のままぽかんと口を開けたエレンはその驚きの顔のまま矢を取り落とした。
「エレン?」
その様子にそろりと近寄り、落ちた矢を拾ってエレンに渡そうとしたロバートも同じように固まる。
モヤから出てきた人影を見て、二人同時に呟いた。
「とうさま……」
「村長……?」
そう呼ばれた人物は、エレンの顔を見て優しく微笑む。
「エレン、大きくなったな」