43.夜は平和に更ける
「いやー、食った食った」
「ライアンの言った通り何食べても美味しいね」
「だろ?!」
食事もあらかた終わり、にーちゃんに対する緊張感も解けたライアンは、にーちゃんと仲良く雑談している。
満腹感と移動疲れから俺は大きな欠伸をひとつし、背中を伸ばす。
その様子を見たジェシカが「そろそろ部屋に戻りましょうか」と切り出した。
「その前に、一応明日の流れを説明するわね。ここから黒の大陸まで通常の船なら十二時間くらい。時間短縮のため今回はライアンが風を起こしてアタシがそれをサポートするからもう少し早く着くと思うわ。弾かれるギリギリまで近寄ったらあなたたち四人と森林竜を船から降ろす……」
「え、ちょっと待って?!」
説明するジェシカの言葉を途中で遮る。あれ?!
「ドラコも連れて行けるの?」
「テセウス様からはそう聞いてるわよ?なんか森林竜がいた方が何かあった時に頼りになるから連れていった方がいいって」
「そうなの?!じゃあ馬たちも一緒に行けるのか?」
それなら移動に関してかなり楽になりそう!
そう思ったけど馬は連れて行けないらしい。
「川とかであれば馬でも渡れると思うけど、今回は海を泳がなくちゃならないし、渡った先の大陸も様子が分からないから連れて行っても足手まといになるだろうって。その点森林竜なら頑丈だし体力もあるしハヤテの言うことも聞くのなら連れていった方がいい、との事らしいわよ」
「そっかぁ」
ドラコだけだと全員は乗せていけないしやっぱり移動は歩きってことになるのかな。
「説明の続き、するわよ?あなたたちを降ろしたらアタシたちは少し黒の大陸から離れて安全な海上で数日待機。もし黒珠の問題が解決出来たらコレをあげてちょうだい」
ジェシカは俺たちに一本づつ筒を渡す。
「それは狼煙。何かあれば筒に大きな衝撃を与えれば黒煙が上がるわ。問題が解決してこちらに戻る時はその筒に火をつけると花火が上がる仕組みになってるの。その花火を見て、海上で待機してるアタシたちが再び黒の大陸まで戻るわ。……とはいえそんなに長く待機は出来ない。せいぜい三日ってとこね。それを過ぎたら一度この町まで補給で戻らないといけないから戻るまでに少し時間がかかるわ」
「三日も海上で待機?」
にーちゃんの疑問にライアンが答える。
「解決して帰るぞ、って言うんならいくらでも待てるだろうが、何かあってすぐこっちに戻らなきゃならない時、俺たちがこの港町から迎えに行ったんじゃ間に合わないだろ?その時間短縮のためだよ」
「そうよ。アタシたちだって町に戻ったってやきもきしてるだけなら何かあった時すぐに駆けつけられる近くに待機してる方がよっぽど精神衛生上楽だわ」
何も無い海の上で三日も待たせるなんて申し訳ない……
なるべく早く解決したいなぁ。
「とまぁ、流れとしてはこんな感じね。一応アタシたちは、以前まだ交流があった時に港として使われていた街の近くであなた達を降ろすから、そこから港に向かってね。黒珠のある場所はその港町からさらに北に向かったところと聞いてるわ」
「俺たちが一旦町に戻る時は船の上から黄色の狼煙を上げる。まぁそれがそっちから見えるかはわからねぇけどな」
「アタシの魔力に乗せてかなり高度をあげるつもりではいるけどね」
一通りの説明を聞き、少しづつ出発が近づいているという実感が湧いてくる。
「なんにせよ、黒の大陸の情報がなさすぎて事前に対策があまり練れないのがネックよね。アナタたちには行き当たりばったりになってしまって申し訳ないわ」
「いや、そこは誰が行ってもそうなるんだし、ジェシカのせいでもないから気にしないでよ」
「ありがと」
ロバートの言葉にジェシカがお礼を言う。
「あまり力になれなくてホント申し訳ないけどできる限りのサポートはするつもりでいるからなんでも言ってね」
「そうそう、遠慮はナシだぜ」
「ありがとう、二人とも」
じゃあ、今日は早めに休みましょうか、とジェシカがこの場を切りあげジェシカとライアンは二人の部屋へ戻って行った。俺たちも……と後を続こうとしたところでにーちゃんが
「僕、ちょっと厩舎に顔を出してくる」
と言ったので俺もついて行くことにした。
「じゃあ俺も行く。ドラコに寝る前に魔力水あげたいし」
「二人が行くなら俺も行くよ。エレンも行くでしょ?」
「……まぁ、別にいいけど」
と、結局みんなで厩舎に向かう。
「せっかくここまで来てくれたのに、マシロは連れて行けないなんてなぁ」
「まぁでも連れて行ってなにか起きてビビってはぐれたら、っての考えたら待っててもらった方がいいんじゃないの?」
「マシロは頭がいいから大丈夫だと思うんだけどな。ドラコとマシロが居ればとりあえず二人づつ乗れるから移動は楽だろうし」
「たしかに。でも港まで船で行けるならまだしも、途中から泳がなきゃならないからなぁ。森林竜は地底湖を泳いで渡り切ってたくらいだから泳ぎが得意そうだけど馬が海を渡るのは……」
「だよねぇ」
にーちゃんとロバートがそんな話をしながら白馬のマシロを丁寧にブラッシングしている。
俺はドラコに魔力水を与えたあと、持ってきたおやつ代わりの果物をドラコに差し出した。
それを美味しそうに頬張るドラコを見て癒されていると、その果物をあげたそうに見ているエレンが目に入ったのでエレンに果物を渡した。
「い、いいのか」
「いいよ、エレンがあげて。ドラコも嬉しそうだし」
実際ドラコは短いしっぽを振りながら、おかわりを催促している。
ぱぁっと瞳を輝かせ嬉しそうに果物をあげるエレンとそれを嬉しそうにかじるドラコはダブルの癒し効果を俺に与えた。
明日から、何が起こるかわからない黒の大陸。
そんな不安を微塵も感じることなく、平和に夜は更けていった。