42.薬草料理
「ガッハッハッ!アイツ知ってるやつだと絶対間違えるんだよな。オレはアイツの兄のルシアノだ」
ほらよ、とライアンとジェシカの前にも漁師のごった煮を置く。
ルシアノさんはここの食堂の料理長兼、このうみねこ亭のオーナーらしい。
あれ?てことは……
「ここ、オセアノさんの実家ってこと?」
「まぁ、そうなるな。あいつが別の町で食堂をやるからこの町から出てくと言った時は大喧嘩したもんだが今は仲良くやってるよ。今は王都で『かもめ亭』をやってるんだったか?」
「はい。そこで看板メニューの漁師のごった煮食べました」
それを聞いたルシアノさんはニッコリと笑う。
「そうか!美味かったろ?」
「はい!ここと同じ味がしました。あ、でも新しい味にしたいって言ってたからハヤテがアイデア出して、新メニュー作ってたよな?」
ロバートがルシアノさんにそう返す。
新メニュー、と聞いてルシアノさんの目の奥が光った。
「新メニュー?」
ロバートがしまった、という顔をするものの一足遅く、ルシアノさんの目は好奇心で輝いていた。
「その話、詳しく」
好奇心の塊のようになってしまったルシアノさんを宥めるのは難しく、俺はオセアノさんのところで食べた漁師のごった煮に薬草を入れてみたら?と、助言したことを話した。
「へぇ、薬草をそのまま料理にねぇ。珍しいこと思いつくもんだ」
感心したようにひとつ頷くと、ちょっと待ってろと厨房の奥へ戻る。
その間に俺たちは漁師のごった煮を口に運んだ。
「かもめ亭って、王都の大通りから一本逸れた通りの食堂だろ?」
エレンが食事をしながら俺たちに確認した。そっか、あの時エレンは先に帰ってたから一緒に食べてないもんな。でも場所は知ってたのか。エレンの問いにロバートが返事をする。
「そー。ケイレブに連れてってもらったんだけどもしかしてエレンも?」
「あぁ。私が行った時はそのオセアノという主人はいなかったんだがな、やはりこれと同じ美味い料理だったぞ」
「ウワサにはよく聞くわよね、美味しい食堂があるって。アタシもライアンもまだ行ったことがなかったんだけど今度行ってみようかしら?」
ジェシカがそう言葉を繋いだけどエレンはあからさまに目を逸らして無視をした。
ただ、一生懸命ジェシカの方を見ないようにしているのが伝わって、あ、これがジェシカの言ってた懐かない猫ってことか。と思うと微笑ましく見えてくる。
そんな感じで食事が進みあらかた食べ終わったところで、ルシアノさんが皿を持って俺たちのテーブルに再び現れた。
「さっきの薬草を料理にってヤツ。オレも試作してみたんだ。味見してみてくれ」
その皿をドン、とテーブルに置く。
これは……魚介と……トマトのスープ?
「魚介のトマト煮薬草入りだ」
そう言ってその大皿のスープを小分けにして俺たちの前に並べる。
「手元にあった薬草を色々試してみたんだがこれに合うのは月桂樹だな。ほら、味見味見」
ルシアノさんに促され、各々スプーンでスープをひとさじ掬う。
「うわ、なにこれ。うっま」
「うん、美味しい」
ロバートとにーちゃんも絶賛している。エレンは無言でスープを黙々と口に運んでいた。
「トマトと魚介の風味がすごいマッチしてる。ほのかに来る香りが月桂樹か」
「確かに前に食べた魚介のトマト煮と味が違うわ。ハヤテが緑珠に来てソフィアが薬草を料理に使うことが増えたけど、こんなに美味しくなるなら緑珠だけじゃなくてもっとほかの人たちにも食べてもらいたくなるわね、薬草料理」
スープを一口口に含む度幸せそうに飲み込むジェシカを見て、ルシアノさんが頷いた。
「オレもそう思う。薬草を使うと味に深みが出るんだ。君、オセアノのところで薬草を使った料理を教えたらしいが、うちでも薬草、料理に使って出してみてもいいか?」
何故か真剣な目で見つめられ、俺は言葉に詰まる。
「え、いや……ダメというか……」
そもそも俺は口を出しただけで料理は一切作ってないし……
でもオセアノさん、目玉商品にしたいみたいなこと言ってたよな……?
「えーと、俺自身が料理をするわけじゃないので俺の許可はいらないと思います。ただオセアノさんには一言言っておいてあげてください」
「わかった!感謝する!……よし、早速オセアノに早馬を飛ばすぞ!」
そういうが早いかルシアノさんは身を翻しカウンターの奥へ消えていった。
「なんか国全体にハヤテの薬草料理が広まるのも時間の問題ねー」
「それだとどこ行っても美味い飯が食えそうだから、俺は早く広まって欲しいぜ」
スケールの大きな話をジェシカと、ライアンがしているけど、大きすぎて俺には理解が追いつかない。
なのでとりあえず……
「すいませーん!!これ、おかわりお願いしまーす!」
俺は追加のメニューを堪能することにした。




