38.検問所到着
「まぁ、港町に着いたら一旦そこで休息を取るよ。船の上ではゆっくり出来ないだろうし」
エレンはそう言って欠伸を噛み殺した。
「そういえば船に乗ってから黒の大陸の近くまで行くのにどれくらいの時間がかかるの?」
この世界のマップがまだちゃんと頭に叩き込まれてない俺は距離の感覚がいまいち掴めない。
まぁこっちの地図が向こうと比べてそこまで正確じゃないから、ってのもあるんだろうけど。
「んー、だいたい半日くらいじゃないかな?船の速度にもよると思うけど」
「半日?!え、それってもしかして王都から守護の森に行くよりも近いってこと?」
「うん。多分三分の一くらいじゃなかったかな?」
ロバートが記憶の引き出しを開けながらそう教えてくれる。
まさかの国境の海の幅がそんなに近かったなんて。
「そんなに近かったらこっちから向こうの黒の大陸の様子、見れるんじゃないの?」
にーちゃんがそう尋ねると、
「まぁね。でもいつも黒い霧に包まれてて大陸の中までは見えないんだって。もうずっとそんな感じらしいよ」
「へぇ。景色がそんなだとちょっと悲しいな」
海に行くと、何となくいつも水平線を見るのが好きだった俺はちょっとガッカリしてしまう。
「もう何年もその状態だって言うから港町の子供たちもその景色に慣れちゃってるだろうね」
「俺たちが無事浄化を成功させたら黒い霧も晴れるよな?綺麗な景色を見せてやりたいよな。……いや、絶対見せてやるぜ!」
ロバートに向かい、俺はガッツポーズを見せた。
「うん、みんなで必ず成功させよう!……あれ?検問所に誰かいる……?ケイン?」
今回は特別に許可を貰って馬を走らせていたおかげであのランプの街の中も降りずに進めあっという間に検問所へたどり着く。
その検問所の前にケインさんが待ってくれていた。
「おはよう」
「おはようございます、どうしたんですか?」
爽やかな笑顔を振りまきながら朝の挨拶をするケインさんに、にーちゃんが慌てて近寄って行った。
「どうしたもこうしたも見送りに決まってるだろう?」
腕組みをしながらキョトンと返したケインさんの手には、検問所を通る時のあの水晶が乗っていた。
「建物内を通ると少し時間を食うからな。
緊急時はこうやってこっちから出向いてそのまま検問を抜けてもらうんだ」
「え、わざわざ来てくれたんですか?!ありがとうございます!」
「……というのは建前で、あっちだと壁があってあまり近くで見送れないからな。さ、とりあえず各自魔石を登録させてくれ」
目の前にスっと差し出された水晶玉へ俺たちは順番に魔石を近ずける。
……にーちゃんのをチラッと見たら
『名前:シノブ
所属:闇を司る者
加護:闇の加護』
となっていた。
あれ?
「にーちゃんって王都の騎士団所属じゃなかったの?」
「え?」
「所属が闇を司るもの、ってなってたから。てかなんか凄い所属名だね……」
「あー……僕ほら魔法アレルギーで宝珠に触れないから騎士団の魔石では登録ができなかったんだ。で、この闇の鎧の魔石で試しに登録したらできたんだけどこんな感じになっちゃった……疾風は?なんかの加護ついてるんでしょ?」
「俺?俺は森の加護。つってもどんなのかいまいちわかんないんだけどさ」
ふぅん、と何かを考えるように唸ったにーちゃんが、あ!とドラコを指さした。
「森林竜が懐く、とかだったりして!」
「それは有り得る……」
チラッとドラコを見ると、ドラコもこっちを見たので目が合う。そのまま何故か水が欲しそうに見えたのでまた手で皿を作って水をあげた。
「ほら、なんか意思の疎通もできてるしさ」
「そうなのかなー?でもそれだったらいいな。もっとドラコと仲良くなれそう」
俺たちの様子を見ていたケインさんが、微笑ましいものを見るような顔で声をかけた。
「黒の大陸に渡るのにドラコがいるのは心強いな」
「え?なんで?」
ロバートがその話題に食いついた。
「なんでって……基本宝珠を守るのは竜種だろ?緑珠は森の主、黒の宝珠にだって元は守護竜がいたんだ。今はどうかわからないけどな。もしそこでかち合ってもいきなり攻撃してくるとかはなさそうだろ?」
いやいやいや……
ここに来て竜と遭遇するかもなんて情報出されても遅いんですけど?!
「まぁ黒の宝珠が正常な状態じゃないなら休眠している可能性もあるし、下手に刺激しなければ大丈夫だろ」
そう言い終わると、さて!と俺たち一人一人に小さな石の欠片の付いたストラップのようなものを配った。
「これは俺の故郷の御守りなんだが、四つでひとつの形になる。気休め程度かもしれないが一応持って行ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
何となくみんなのを合わせてみると、たしかに繋ぎ目がピッタリハマる。
「わ、ほんとにくっついた」
あまりに綺麗にハマるので、にーちゃんは感激している。
「……あと、ひとつ頼まれて欲しい」
ケインさんは真剣な声色で、俺たちに頭を下げた。




