34.闇騎士の 正体見たり アレ?おまえ……
明るい光の方へ突っ込み、モヤの晴れた景色を見渡してみれば森から少し離れた街道だった。
「森の外までこんなに瘴気が漏れてたのか……」
森の近くに人里がなかったのが唯一の救いだ。
もし万が一、今のと同じような瘴気が守護の森で発生したら、隣の村と俺たちの緑珠守護団駐屯地まで瘴気が漏れてくることになる。
それくらい、危険が身近に迫っていた。
「覚悟、決めなきゃね」
にーちゃんがそう、ぽつりと呟く。
そのままフルスピードで王都まで俺たちは駆け戻る。
騎士団の厩舎に馬を戻していると、外を歩いていたリアンがこちらに気づいた。
「シノブ!」
そして勢いよく走り寄ってきた。
「シノブ、見つかったのか!もう、どこに行ってたんだよ……てか、何背負ってるの?あと……その格好……」
リアンは一度近くまで来てそのあと少し離れ、にーちゃんの姿をつま先からてっぺんまでまじまじと見ている。
「リアン、心配かけてごめん!この格好は……今ちょっと時間が無いから後で説明する!先にテセウスさんのとこに行かなきゃなんだ」
「……わかった、必ず後で説明しろよ」
にーちゃんはそうリアンに伝え、申し訳ないけどとりあえず俺たちはテセウスさんのところに向かう。
時々、すれ違った人がにーちゃんを振り返り視線を送っていたけど、呼び止める人はいなかったので真っ直ぐテセウスさんの執務室の前にたどり着く。
ロバートが呼吸を整え、ドアをノックしようとしたその時、エレンがガチャリとドアを開け入っていってしまった。
「ちょ、エレン!ノック!」
慌ててエレンの後に続き俺たちも部屋の中へと入った。
中にはテセウスさんと、先に報告に戻ったケイレブがノックもせず入っていったエレンを「またか……」という表情で見ている。
「シノブくん、おかえり。無事に戻ってきてくれて安心したよ」
「ご心配かけたようで、すみません……」
謝りながら、にーちゃんは背中に背負っていたジョンをソファの上に降ろした。
「それが誘拐犯だね……ところでシノブくん、何故兜を彼に……?」
にーちゃんとエレンはテセウスさんに、森で起こった出来事と瘴気溜りの規模の大きさ、そこから抜け出すために闇の鎧の兜で瘴気を防ぎながら戻ってきたことなどを説明した。
「そう、それで兜を……」
テセウスさんはそこで、ふぅ、と息を吐くとにーちゃんに頭を下げた。
「シノブくん、すまない。正体は隠す、という話だったのにこんな形で適合者だということがバレてしまうなんて……それも踏まえて、この誘拐犯には厳重に罰を与えるから……」
急に頭を下げられ、パニックになったのはにーちゃんだ。
「え、ちょ!テセウスさん頭あげてください!国のお偉いさんなのに頭を下げるなんて……あと僕、犯人に厳重な罪は求めてないので!……ケイレブ、お願いしたのに……」
「俺はちゃんとシノブに言われた通りに言ったさ。けど、話を聞いたテセウス様がキレちゃって……」
慌てるにーちゃんにケイレブは軽く肩をすくめる。
それを聞いたテセウスさんが顔を上げ、にーちゃんに詰寄った。
「怒って何が悪いんだい?!シノブくんを誘拐した挙句、毒を盛って?更に正体を晒す原因にもなって?罰するのが普通だろう」
息を荒くするテセウスさんを見て、「あぁ、血は繋がってなくても親子だなぁ……」なんて思っていたら、ソファに寝かされていた渦中のジョンが「う……」と軽く呻き声を上げ、ゆっくりと上体を起こした。
「……俺……は。……ん、これは……兜……?」
まだ本調子では無いらしく俯き気味に、頭に被せられた兜へ手をやる。
「あぁ、今外すね」
それに気づいたにーちゃんが、ジョンのもとへ行き頭から兜を外す。
兜を外してもらったジョンは、椅子に腰かけた状態でしばらくにーちゃんの足元を見つめ、次第に意識が覚醒してきたのか視線を上にあげていく。
「え、この鎧……闇騎士……?!」
視線が胸元まで上がったところで止まり、ジョンは驚きの声を上げた。
そしてさらに視線を上げ、にーちゃんと目が合うと言葉を失う。
「……おまえ……」
「気分は?」
「……え……あ……」
にーちゃんが体調を気遣うも、まだ覚醒していないのかそれとも目の前の現実が受け止めきれないのか。
ジョンは言葉にならない声をあげるばかりだった。
「ジョン」
ヒヤリとした通る声が部屋に響く。
その声に、ジョンはビクっと身体を震わせた。
「貴様の身柄はケインより預かった。今後は地下牢にて処罰が下るまで待て」
聞く者の背筋がゾクリとするほど冷たい声の主は、凍てつくほどの視線をジョンに向けたテセウス様だった。
「何か言いたいことはあるか?なければすぐに地下牢へ連行する」
「……」
「……連れてけ」
「ちょっと待ってください!」
テセウスさんの号令でケイレブがジョンへ向かって手を伸ばす。
声を発さないジョンの代わりに声を上げたのはにーちゃんだった。
「……シノブ」
「あの!確かに誘拐されましたけど!でももう一度ちゃんと話を聞いた上で罰を与えてください!最初から厳重に罰するんじゃなくて……」
「……いや、言われた通りの罰を受けるよ」
庇うにーちゃんを退かすようにジョンは手でにーちゃんを押し出した。
「くだらない八つ当たりで人に危害を加えた挙句、それが憧れてた闇騎士だったなんてな。罰してくれないと俺の気が済まない」
エレンに対して激昂していた時の表情とはうってかわり、憑き物が落ちたような穏やかな笑みでジョンはケイレブの手を取った。




