32.怒りの矛先
「は?!この門番のヤツがシノブを攫った犯人で、瘴気溜まりの瘴気食らってぶっ倒れて?シノブは魔法アレルギーと毒のコンボ食らって攫われたけど、解毒しても目が見えないままになって?闇の鎧を身につけたことによってやっと目が見えるようになった……?ちょっと情報量多すぎて意味わかんねぇんだけど」
エレンから話を聞いたケイレブがリアクションに困っている。
「まぁ、そうなるよな」
俺とロバートもその説明を聞いただけならケイレブと同じリアクションになると思う。
「つかソイツ、なんでシノブ攫ったわけ?」
「なんかエレンに対して恨みがあったっぽいよ」
「すまないシノブ。どうやら巻き込んでしまったらしい」
ケイレブの問いにポロっとエレンの名前を出してしまい、エレンが思い出し落ち込みをしてしまった。
「え、いやそんなエレン落ち込まないで。元はと言えば僕が一人でフラフラしてたのが悪いんだし、それに今は身体なんともないしね。それよりエレンを恨んでいたって、エレンこそ大丈夫だったの?」
にーちゃんがエレンにそう尋ねていたけど俺とロバートはあのガチギレエレンを思い出してぶるりと身体が震える。
「あぁ、大丈夫だったな」
「うん、フルボッコだったね……ジョンが……」
「ジョンが?!」
俺とロバートの様子を見たにーちゃんが驚きの声を上げる。
「まぁでも良かった。エレンもジョンも大きな怪我とかはしてなさそうで」
「良かった?!コイツはシノブのことを攫ったんだぞ?!毒まで盛って!!」
あの時のジョンの態度を思い出したのか、またエレンがキレ始め声を荒らげた。
その様子を見て、ケイレブが驚いている。
「珍しい。エレンがここまで怒ってるのは」
「まぁ、アレでしょ。今回シノブが巻き込まれてるから」
「あー、だな」
「てかエレンってもしかしてシノブのこと……」
「あ、やっぱわかるか?」
「ダテに幼馴染やってないんで」
ロバートとケイレブが二人で話し込んでいるので仕方なく俺がエレンを宥めに行く。
「エーレン、落ち着けって。まぁ俺もにーちゃんをこんな目に遭わせたジョン許せねぇけどさ、なんか根っからの悪いやつじゃない気がするんだよな」
「あ、疾風もそう思う?」
エレンを宥めようと声をかけると何故かにーちゃんが俺の言葉に同意してきた。
いや、にーちゃんは攫われた本人だからもっと責めていいと思うんだけど……
「なんかさ、倒れてる時も回復薬で回復させようとしてくれたし、その回復薬飲む時にむせちゃって咳が止まらなくなったから咳止めも飲ませてくれたし。まぁどっちも半分意識なかったんだけど。って言うのをさっきその人の顔見て思い出した」
「回復薬に……咳止め?」
「もしかしたらちょっと軽く気絶させるつもりが、僕が魔法アレルギー出ちゃったせいで大事になっちゃったのかな、とか思ってみたり」
そう言いながら、にーちゃんはケイレブに頭を下げた。
「だから、誘拐は誘拐で悪いことなんだけど、そこまで重い罪にはしないで貰えるかな?」
ロバートと雑談していたケイレブは突然頭を下げられて面食らっている。
「え?!いや、まぁシノブがそう言うなら一応そう報告するけどさぁ……」
「エレンも!もうそんなに目くじらたてないで、ね?」
「シノブが許しても私は許したくない」
「そう言わず!」
ぶすっと不機嫌になっているエレンの頭をにーちゃんはぽんぽんと優しく叩く。
「うぐ」
相変わらず表情は不機嫌そのものだったけど、少し顔を赤くしたエレンは渋々頷いた。
「……わかった、もうそいつに手は出さない」
「足もな」
茶々を入れ直ぐに逃げたロバートのあとを、エレンはすごい勢いで追いかけて行った。
ロバート、それは口を滑らしたロバートが悪い。
大人しく制裁を食らってこい。
「まぁ、あいつらは放っておいて……とりあえず一連の流れはテセウス様に報告するよ。その時にそのシノブの言葉も添えておく。ただそれで罪が軽くなるとかは期待するなよ?決めるのはテセウス様たちだ」
「わかった」
「よし、そうと決まればシノブが見つかった件も含めて俺は先に戻って報告してくる。ジョンも先に連れて帰ろうか?」
ケイレブはそう提案したけど、
「いや。二人で、しかも一人は意識がない状態で行くとなるとその分時間がかかるだろ?俺たちでコイツは連れて帰るよ。もう危害を加えるようなことはしないだろうし」
と、俺は返事をする。
「そうだな、じゃあそいつを連れて帰るのは任せた。俺は報告しに一足先に行ってるな」
そう言いケイレブは繋いでいた馬にサッと跨ると、風のように走り去って行ってしまった。
そのケイレブを見送りエレンと頭を押さえたロバートが戻ってくる。
「いてて。もう少し手加減してくれよ」
「ロバートが悪い。あ、ハヤテ、ケイレブ先に帰ったのか?」
「おう、先に帰ってテセウスさんとかに報告してくるって。俺たちにジョンを連れ帰るのは任せたってよ」
「そうか」
気を抜くとまた殴りかかりそうな目をしながらエレンはジョンを見下ろした。
そして大きくため息をつく。
「ムカつくのは事実だが、揉めるのはシノブが望んでないからな。努力する」
そう言うとエレンは自分の馬の元へ向かう。
「さて、私たちも帰るとするか」
「そうだ……な。ん?あれなんだ?」
馬に乗ろうとするエレンの向こう、少し離れた森の中に何か黒いものが見えた。