31.適合者
ガシャガシャガシャッ……
広げたバッグの口から黒い光沢を放つ金属が溢れ出す。
まだ目が見えていないにーちゃんは、なんだかわかっていなかったけど、エレンは普段見なれていたのかすぐにコレがなんだかわかったようだ。
じっ、とこの金属の山を凝視している。
「……え?ハヤテ……これ……」
「うん。闇の鎧」
俺とロバートは目を合わせ、へらりと笑う。
そう、にーちゃんの部屋で見つけたあの箱には闇の鎧が入っていたのだ。
回復薬をマジックバッグにしまう時に一緒にバッグの中へ闇の鎧も吸い込まれてしまい、仕方なく一緒に持ってきた。
「マジックバッグにしまえば誰でも持ち運び可能なものなのか?」
エレンがそう確認するけど、
「いや、そうじゃないみたい。俺も持ってみようと思ったけど全然持ち上がらないの、そのバッグ」
そうロバートが肩をすくめる。
宿舎を出て東の森に来るまでに、好奇心に負けたのかロバートがこのマジックバッグを持ってみたいと言うので一度渡してみた。すると俺からしたら30キロ位の重さのこのバッグを、ロバートは持ち上げることが出来なかった。
ロバートが持てれば交代で運んでこれたのに、何故か俺しか持てないせいでこのクッソ重たいバッグをずっと持ってきた俺を褒めて欲しい。
「え、これ闇の鎧なの?」
にーちゃんが手探りで闇の鎧に手を伸ばすと、コツンと手が胸当ての部分に当たる。
──その部分だけでいいから身につけて、魔石を鎧に嵌めこめ。そうすればその副作用の中和を出来る。
闇の鎧の魔石がそう言うので、エレンとロバートとでにーちゃんに胸当てを装備させた。
すると、にーちゃんの身体からじわりと黒いモヤが出て胸当ての魔石に吸い込まれる。
「……にーちゃん、どう?」
にーちゃんは二、三度ゆっくりと瞬きをし、徐々に焦点を合わせる。
「……よかった、疾風の顔が見える」
ほう……と安堵の表情をしたのでそれに合わせて俺も息を吐き出した。
「よかったぁ……」
安心して気が抜けたところで、ガシッと肩を掴まれた。
振り返ると笑顔のようで笑顔じゃないエレンが肩をガッチリと掴んでいる。
痛い痛いもげる!
「ハヤテ、これは一体どういうことだ?」
「俺に言われても知らなねぇよー!勝手にマジックバッグに吸い込まれてきたんだよー!」
おかげですっごい重いバッグを持ち歩く羽目になったけど、そのおかげでにーちゃんの目が見えるようになったなら結果オーライ、かな?
──ふむ、第二の適合者、と言ったところか。
俺とエレンのやり取りを聞いて、突然闇の鎧が爆弾発言を投下した。
「へ?!適合者?!」
俺は驚いて大声をあげる。
適合者って鎧が羽根みたいに軽いんだろ?!
俺からしたら普通に金属の鎧の重さなんだけど……
そう言うと、エレンもロバートも
「普通は持ち上げることも出来ない」
と言って、期待に満ちた目で俺を見る。
「疾風も適合者かぁ。適合者の条件に『ワタリビト』ってのもあったりして」
──その可能性はあるな。ワタリビトは瘴気に対する耐性が高い。そこが適合者の条件にも当てはまるのだろう。……とはいえ我も、闇の鎧の一部でしかないから詳しいことは知らぬがな。
「そうなの?!」
闇の鎧の魔石はなんでもお見通しなのかと思ってたよ……
てか今更だけど『闇の鎧の魔石』って呼ぶのになんか長いよな……?
「なぁにーちゃん。みんな『闇の鎧の魔石』って呼んでるけどさ、ここまで意思の疎通できるなら名前あった方が都合が良くない?にーちゃんたちはなんて呼んでるの?実は名前知ってる?」
にーちゃんやエレンに聞いてみても二人は首を振るだけだ。どうやら名前はやっぱり知らないらしい。
「なら……呼び名考える?闇の石とか」
俺がそう提案すると、珍しく慌てた様子で闇の鎧の魔石が会話に入ってきた。
──待て待て、変な名で呼ぶな!
「変って……じゃあなんて呼べばいいんだよ」
真面目に考えた名前を変呼ばわりされてちょっと拗ねた俺は闇の鎧の魔石に言い返した。
──……はるか昔だが、『ニガレオス』と呼ばれていた時代がある。
「二ガレオス?」
その名前にロバートが反応した。
「なんかそれ聞いたことあるような……どこで聞いたんだったっけ?」
「私も……」
ロバートやエレンが聞いたことあると言うなら、やっぱり闇の鎧の魔石は昔そう呼ばれていたんだろう。なら……
「じゃあ俺、その名前で呼ぶわ」
──好きにしろ。
闇の鎧の魔石の許可も得て、次からは長く呼ばなくて済むぞ、と思って和んでいたところで、地面に寝かせていたジョンが少し身動ぎしたのが見える。
「あ」
近寄ってみると、起きたかと思ったのは勘違いで、まだ目を覚ますには時間がかかりそうだった。
「シノブも無事発見したし、そろそろ戻ってテセウス達に報告するか」
「そうだな、ケイレブもすぐあとを追うって言ってたし、もしかしたらその辺まで来てるかも」
そうと決まれば早く戻るとするか、とエレンが言ったので再度ジョンはロバートに括り付けられ、にーちゃんはエレンと相乗りで戻ることにした。
森の入口まで戻り、王都に向かう道を少し走ったところで予想通りこちらに向かってくるケイレブとかち合った。
「シノブ!よかった、無事だったんだな……ってかなんで闇騎士になってんだ?」
もっともな疑問を浮かべるケイレブに、森であったことを大まかにエレンが説明した。