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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第3章 黒の大陸 編
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29.瘴気溜り

「ぐはっ……!」


エレンは倒れたジョンさんの元へつかつかと歩み寄ると、その胸元を掴み上げて持ち上げた。


ちょ……エレン女の子だよね?!その力はどこから……


エレンの剣幕に恐慄(おそれおのの)いて動けずにいると、ジョンさんを掴み上げたままエレンは怒りを(あらわ)にした。


「貴様が私を嫌ったり憎むのは勝手だがな、関係の無いシノブを巻き込んだことは許さない」


掴んだジョンさんをそのままポイと地面に投げ捨てる。そして上から覗き込むとクロスボウの矢をジョンさんに向けた。


「ちょっとエレン!さすがにそれはやりすぎ……っ!」


止めに行こうとしたロバートはエレンに鋭い目で睨まれ、一旦近づくのをやめた。


「シノブはどこだ?」

「……わかったよ、案内する。ただちょっと問題が起きてるんだ。お前ならどうにか出来ると思うけど……」


そう言って降参、とでも言うように両手を上げジョンさん……いや、にーちゃんの誘拐犯なら呼び捨てでいいか……ジョンが立ち上がる。その瞬間、エレンとジョンの間に突如黒いモヤが現れ、そして弾けた。


「うわっ!」

「瘴気溜りか?!」


エレンとジョンは慌ててそのモヤから離れたものの少しそのモヤを浴びる。更に、立ち上がろうとしていたジョンはバランスを崩しそのまま泉の方に倒れてしまった。


バシャンっ!


派手な水しぶきを上げ、泉へ落ちる。

膝丈くらいの深さの泉だったけど背中から落ちたので全身一度泉の中に沈んでしまった。

膝丈の水位。普通ならそのまま手をついて立ち上がれるはずなのに、ジョンはそのまま一度苦しそうに暴れたあと水の中へ沈む。


「え?!」

「チッ!」


俺が呆けているとエレンが舌打ちをして泉へ飛び込んだ。


「おい!大丈夫か?!」

「う……ぐ……熱い……」


ザバッ、と泉からジョンを引き上げるとエレンは魔法で水を出しジョンにかける。

え、何してんだ?


「くそ、これは時間がかかるな……二人ともこいつの身体に水をかけて泉の水を洗い流してくれ」

「わかった!」


ロバートはすぐに駆け寄りエレンと一緒にジョンに水をかける。

……そうか、あの泉って瘴気が……

だからまず身体の瘴気水を流すのか。なら……


俺はカバンからいつもの水の魔石を仕込んだ虎杖(フォローピア)を出し、少し強めのシャワーのように水を出してジョンの身体にかけた。

ある程度流したところでロバートが風の魔力を起こしジョンの身体の水を飛ばす。


「ハヤテ、回復薬はあるか?」


エレンに言われ、にーちゃんのマジッグバッグから回復薬を出すとそれをエレンに渡す。


「シノブの上級回復薬か……仕方ない、勿体ないがこれを使うか。どちらにせよ瘴気を直接食らっているから上級じゃないとダメだしな」


……勿体ないって……

本音をダダ漏らしながらエレンがその回復薬をジョンに飲ませると、顔から苦痛に歪んでいた表情が消えた。


「すま、ん……」


そう言うとジョンは意識を手放した。


「おい!シノブの居場所を教えてから倒れろ!」


エレンの無茶振りは届かず、ジョンはしばらく起きそうにない。


「完全に気を失ったな……どうしようか……」

「とりあえずここは寝かせるには危険だ。麻痺毒蛇(パラライズセルペンス)もいるし、いつまた瘴気溜りが発生するかわからん」

「一度森の入口まで戻ろうか?」


意識のない人間を抱えたままこの場所に留まるのは危険と判断して、俺たちは森の入口まで戻ることにした。

ジョンはとりあえずロバートに括りつけて馬に乗せる。

にーちゃん、あとでまた探しに来るからね!

東の洞窟付近を後にし、あと少しで森の入口へたどり着くという辺りで、チリ……と背中が焼ける感覚がした。

ん?

ふと気になって、ドラコを止める。

エレンとロバートを見てみれば、二人も同じように馬を止めていた。


「二人もなにか感じた?」


ロバートの問いに俺とエレンは頷く。


……そういえば、闇の鎧の魔石がノイズで途切れる前に気配がどうとか言ってたような……


俺はさっき何かを感じた辺りに神経を集中させてみる。

すると、さっきとは違う、ビリっとした感じがする方向があることに気がついた。

……もしかして……?


「あっち、何かあるかも」


一際感覚が強く出る方向を指さし、二人に声をかけると二人も同じような結論に達したようで、そちらの方に向かうことにした。

しばらく進むと、岩肌にぽっかりと空いた洞窟が見えた。

チリチリとした感覚はこの洞窟に続いている。


「俺、ジョンを見ておくから二人で行ってきて!なんか嫌な予感がする!」


ロバートにそう言われ、俺とエレンで洞窟の中へ足を踏み入れる。

さほど深くないその洞窟の中に、にーちゃんが倒れていた。


「にーちゃん?!」


声をかけるとうっすらと目を開け、にーちゃんは力なく呟いた。


「は……やて……」

「にーちゃん、大丈夫?!」


慌てて抱き起こし、口に上級回復薬を注ぎこむとゆっくりとそれを飲み干す。


「シノブ、体調はどうだ?」


エレンも心配そうに覗き込み様子を伺うと、にーちゃんはエレンを、と言うよりは声がした方を向き、答える。


「その声は……エレン?ごめん、体調万全じゃないみたい……身体が思うように動かなくて」


そこでひとつ呼吸を置くと、にーちゃんは言った。


「実は……目も見えない……」


俺とエレンは嫌な予感が的中したことを悟り息を飲んだ。




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