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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第3章 黒の大陸 編
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26.誘拐【シノブ視点】

「僕はちょっとテセウスさんのところ行ってくるよ」

「わかった。にーちゃん案内ありがとう」

「どういたしまして。じゃあまた後でね」


リアンの部屋の前で疾風(はやて)と別れたあと、僕はテセウスさんの執務室へ向かった。

正直、みんなに『僕が闇騎士(ダークナイト)でした』って言うのはまだ抵抗があるけど、僕がよく倒れて周りに心配かけまくってるのも事実だから鎧さえ着てれば倒れることは無いから安心して、と言ってあげたい気持ちもあるんだよなぁ。

それに初めは『闇騎士(ダークナイト)』って呼ばれ方が恥ずかしかったから嫌だったけど、今はなんか呼ばれすぎて慣れてきた感じがするし。


ドンっ!


そんなことを考えながら歩いていたせいか、角を曲がるときに前をよく見ておらず人とぶつかってしまった。


「あ、すみません!」


ぶつかって倒れ込んでしまった人を助け起こそうと手を伸ばし、その人の手を掴んだところで僕の意識は暗転した。


──おい、しっかりしろ。


「ん……」


頭に響く闇の鎧の魔石の声でぼんやりと意識が覚醒する。


「ここは……」


目を開けているはずなのに、ぼやけて周りがよく見えない。

手足を縛られている様子もなさそうだけど、何故か身体に力が入らず動くこともままならない。

横たわった床がひんやりとゴツゴツとしているので岩のようなものの上に寝転がされてる、のか?


『え?これどんな状況?!』


声も出せなかったけど、頭の中に思えば闇の鎧の魔石とは意思の疎通ができるので助かった。


──どうやら何かで魔法アレルギーを故意に発症させられて、意識を失っているうちにここに運びこまれたらしいな。


『へ?!じゃあもしかして僕、誘拐されてるってこと?!』


──そのようだ。魔法アレルギー自体は溜め込んだ魔力で多少中和させたが、さらにそこに毒を飲まされているようだ。


『毒?!』


もしかして身体が動かなかったり目が見えないのもそのせい……?!


──すぐに死に至るようなものでは無いと思うが長引けばどうなるかはわからぬ。鎧を身にまとった状態であれば初めに攻撃を食らった時点で魔法アレルギーが発症してもいきなり意識を失うことはなかったと思うが、この状態では少し中和するので精一杯だ。せめて近くに魔力を吸えるものがあればその魔力を吸って、もう少し回復できたんだが……


周りに魔力を吸えるような魔物はいないってことか。

それは良かったんだか悪かったんだか……

今のこの、動けない、目が見えない状態で魔物に襲われたらひとたまりもない。

でも、かと言ってこのまま魔力を回復できない状態が続けばいずれこの謎の毒でどうなるかわからない。


先の見えないこの状態を、冷静に考えてゾッとした。


僕をさらった人物が何の目的でこんなところに僕を連れてきたのかはわからない。

犯人に心当たりも全くない。

言いようのない不安だけが頭をよぎる。

……このまま僕、ここで死ぬのかな……


絶望感に襲われ、手足の先からだんだん冷えてきた。

本能的に、ぶるり、と身体が震える。


いや、諦めちゃダメだ。何か、何か手はあるはず……


脱出の手立てを考えていると不意に闇の鎧の魔石が声をかけてきた。


──残りの魔力をほぼ使うが、試したいことがある。


『試したいこと?』


──離れている眷属をここへ呼び寄せる。意識が繋がればこの場所も恐らく伝わるはずだ。ただ距離があるとその分魔力を使う。また意識を失うことになると思うが……


『わかった、それでお願い!』


闇の鎧の魔石の提案に僕は頷いた。

……いや、実際は動けないんだけど……


──承知した。


闇の鎧の魔石がそう言うと、身体から徐々に魔力が抜けていく感覚がする。

先程絶望から冷えた指先が今度は魔力を失うことによって冷えてきた。

そして今度はぶるりと震える間もなく再度意識が闇の中へと沈んで行ったのだった。


……ガチャガチャと急に周りが騒がしくなる。

再び意識を浮上させ、目を開ける。

うん、やっぱりまだ視界はぼやけたままだ。

でもわかる。

頬の下には相変わらず冷たい岩の感触があるからさっきと同じ場所に横になっているんだろうけど、気配がする。

僕は声にならない声でその名前を呼んだ。


「は……やて……」

「にーちゃん、大丈夫?!」


抱き起こされ、口に飲み慣れたあの上級回復薬が注がれる。

それを飲み干すと、魔法アレルギーから来る体のだるさや痛みはスっと消えた。


「シノブ、体調はどうだ?」


この声はエレンか。

回復薬のおかげで少し体調も戻り、少しなら声は出るようになったみたいだ。

でも……


「その声は……エレン?ごめん、体調万全じゃないみたい……身体が思うように動かなくて」


そして僕は口にするのが怖かった事実を伝える。


「実は……目も見えない……」


周りが、ハッと息を飲むのがわかった。




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