21.レモン水
「おかえりケイレブ!レモン買えた?」
美味そうに料理を頬張っているケイレブにロバートがウキウキしながら聞いている。
「おう、買えた買えた!あとこれもな」
紙袋を引き寄せ中からケイレブが出したのはたくさんのレモンとビンに入った回復薬の花の蜜っぽいもの、それと俺がよく料理に使っているような薬草の束だった。
「あれ?薬草?これどうしたの」
紙袋から出てきた薬草にはご丁寧にタグで名前が付いている。ローズマリナス、月桂樹、タイム、バジル……?
一つ一つのタグを読んでいると、ケイレブが「あぁ、それな」と薬草を指さす。
「ちょうどヘンリーも買い出しに来てたみたいで、回復薬の花の蜜見てたらバッタリ会ったんだよ。『ハヤテは?』って聞かれたから『食堂で飯食ってる』っつったらなんかまた新しいメニューが増えるかもとか言い出してよー。そしたらなんかそれ持ってけってヘンリーに押し付けられた」
ヘンリー先生……俺料理出来ないよって言ってるのに……
あ、でも……
手に持った薬草を、くん、と嗅ぐとハーブ特有のいい香りが鼻を掠める。
「これ、漁師のごった煮に入れたらもっと美味くなるんじゃね?」
「え?!薬草を料理に?!」
はい、と薬草の束をオセアノさんに渡すと、オセアノさんは受け取りながらも戸惑っている。
「騙されたと思って薬草ちょっと入れて作ってみれば?俺も最近知ったけど意外と美味くなるんだぜ?」
ごっそさん、とペロリと平らげた皿をカウンターへ下げながらケイレブが声をかけた。
俺も慌てて皿を片付ける。
「ごちそうさまでした!」
皿をカウンターの上に置き、オセアノさんにお礼を言うと、オセアノさんは薬草を握りしめまた厨房の奥へと向かった。
「お前ら、まだもう少し食えるよな?!試しに薬草入れて作ってみるから感想聞かせてくれよ。少し待っててくれ!」
厨房の奥に消えたオセアノさんを見送り、俺たちは再び席に戻る。
「じゃあ料理できるまでこっち作ろうぜ!」
そう言うとケイレブは期待に満ちた目で俺と机の上のレモンを交互に見る。
「よし、じゃあこっちも試してみるかー!」
まぁ、試すと言っても
水にレモンとか混ぜるだけなんだけどな。
俺はとりあえず急須に手を伸ばす。
中にはさっき飲んだお茶のミントの葉っぱが入ったままだけど、これも風味付けに使えるだろ、とそのまま急須に魔力水を出した。
その中に輪切りにしたレモンを入れ、その上に絞ったレモン果汁も足す。
……ちなみにレモンは俺には絞れなかったので意外と握力のあったロバートに絞ってもらった……
「んで、ここにメープルシロップ風味の回復薬の花の蜜を入れてっと」
全てを混ぜたあとちょっとだけ魔力を振り絞って急須の中に氷を出した。
俺の魔力ギリギリ使って出せる氷が急須の中を冷やせる程度とか……
感傷に浸りつつ、出来上がったはちみつレモン、もとい、回復薬レモン水?をみんなのコップへ注いでいく。
注ぎ終わると、待ってましたとばかりにロバートとケイレブがそのレモン水を口に含む。
俺とにーちゃんも後に続き一口飲んでみた。
「あ、疾風これ美味しい。はちみつじゃなくても出来るんだね。ミントのおかげかちょっとスっとするし」
パッと顔を輝かせ直ぐに感想を口に出すにーちゃん。ロバートとケイレブは何故か無言で一気に飲み干し固まっていた。
「二人ともどうした?口に合わなかったとか?」
あまりの固まりっぷりに、苦手な味だったかと心配していたら、勢いよく二人に詰め寄られた。
「ハヤテ!これめっちゃ美味しい!」
「これ、運動の後に飲んでたって言ってたよな?!訓練の後とか確かに飲みたくなる味だぜ」
結構気に入ってくれたみたいで俺はほっと胸をなでおろした。
「気に入ったんならよかったよ。今見てた通り作り方は簡単だからさ、誰でも作れると思うよ。あ!でも回復薬の花の蜜はなかなか手に入りづらいかな?」
もしこれが流行ったら緑珠守護団の駐屯地のヘンリー先生の畑が一瞬で根こそぎ無くなりそうだな、と思ってるとやけに気合を入れたケイレブが、
「それは緊急案件としてテセウス様に報告後、回復薬の量産に入ってもらおう……」
と呟いてるのを聞いてしまい、そっと聞こえないふりをした。