19.街の食堂
ケイレブの馬に揺られ街へ着くと、俺たちは馬を預けてさっきのパレードで通った大通りの一本隣の道へ入る。
「あっちの通りはいわゆる観光客向けの通りだから俺たちはあんまり行かねえんだ。実用的なものはこっちの通りの方が充実してる。さて、何から見る?」
案内を買って出てくれたケイレブに聞かれ、俺とロバートとにーちゃんは顔を見合わせる。
「僕は街の様子がどんなものか見たかっただけだから二人の行きたいところでいいよ」
「俺はなんか美味いもんが食いたい。あと出来ればリアンに持って帰れそうなやつ」
「俺もバリー副団長に手土産買えるとこがいいな」
「了ー解。じゃあとりあえずなんか食うか。で、他に気になるとこ見つけたら覗いてみようぜ。こっちに俺の行きつけの美味い店があるんだ」
白いレンガ造りの壁に木製のドアという、テーマパークのお店が並ぶような異国情緒溢れる街並みの中、ケイレブのあとをついていくと、通りに立て看板のある扉の前で立ち止まる。
そしておもむろにその扉を開けた。
「おっちゃーん、やってるー?」
「おう、なんだケイレブじゃねーか!久しぶりだな。つか残念だったな。今日は昼は店閉めてんだ。夜にもう一度来てくれ!……ん?やべぇ、もしかして看板外に出しちまってたか?」
ケイレブを押しのけ、ひょいと扉から出て来たのは食事処の人とは到底思えない、ムキムキマッチョの漁師のような男の人だった。
何、この世界の人は筋肉標準装備なの?
「お、悪ぃな。ケイレブの連れか?今日は昼の営業休みなんだ。お前らも行っただろ?あの黒の大陸に出向くってヤツらの出立式!今まで誰も行けなかったような場所に出向くんだ。俺たちも全力で祝福して旅の安全祈ってやらねぇとな!だから店は今日は夜からのつもりで今は何の準備もできてね……」
すごい勢いでしゃべり始めたので、その勢いに俺たち三人が圧倒されているとその男の人は俺とロバートの顔を交互に見た。
「あれ?兄ちゃんらどっかで見た顔してんな」
「えっと……」
ずいっ、と顔を間近で見下ろされ俺とロバートがたじろんでいるとその男の人の後ろでケイレブが吹き出している。
「おっちゃん!そいつらが今日のパレードの主役だよ」
「何?!」
ケイレブにそう言われると、俺とロバートの顎を掴み顔を固定された。
そしてガン見される。
……怖っ!
「言われてみりゃそうじゃねえか!パレードん時は遠目だったからよく見えなかったけどな。そうかそうか、兄ちゃんらがあの大陸に行ってくれんのか!」
日焼けした肌に眩しいほどの白い歯を見せてニカッと笑うと俺たち二人の背中をバシッと叩く。
「ならせっかく俺の店に来てくれたんなら飯を食わせなきゃだよな!入れ入れ!ほらケイレブとそこのヒョロっこい兄ちゃんも入った入った!」
「ひょ、ヒョロっこい……?!」
今まで言われたことがない呼び方で呼ばれたのか、にーちゃんが面食らっていたけどそんなことは気にする様子もなく、その男の人は俺たちを店の中に押し込んだ。
「その辺適当に座っててくれ!さっきも言った通り昼営業は休みのつもりだったからあんま材料なくて大したもん作れねぇけどな」
俺たちはテーブル席に座り、大人しく待っている。
店の中を見渡してみるとテーブル席とカウンターがあって、30人くらい入れそうなお店だった。
「ケイレブ、ここは?」
にーちゃんが気持ち小さめの声でケイレブに聞いた。
「ここは俺が王都に来た時から通ってる食堂。あのおっちゃんがこの店の料理作ってるオセアノ。普段は他に何人か店員いるんだけど夜になんないと来なそうだな。俺、王都の色んな店で飯食ったけど、俺はここの店が一番好きなんだ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか」
ドン、とテーブルの上にコップとお茶を入れる急須みたいなものをオセアノさんは置く。
「すまん、手が離せねぇから飲みもんは自分たちでよろしくな」
そう言って直ぐに厨房へと戻っていくオセアノさん。
「ごめん、僕水の魔石ないと水が出せないんだ……」
「んじゃ俺がやるよ」
申し訳なさそうなにーちゃんの代わりに俺が急須を受け取る。
中にはあのミントの葉っぱがぎゅうぎゅうに入っていた。
そこに魔力水を注ぎ一気に沸騰させる。
出来たお茶を四つのコップに順番に注いだ。
「これがドラコの大好きなハヤテの魔力水か!」
向かいに座るロバートがからかうようにお茶に口をつける。
「いや、味とかは他の人と変わらねーからな?!」
からかうロバートを横目に俺もお茶を口に含む。
ふぅ、温かいのにスっとして美味いけどどうせ飲むならはちみつとかレモン入れても美味そうだなぁ……
そんなことを思っていたら思わず「はちみつレモン……」と口に出して呟いていたらしい。
その声が隣に座るにーちゃんにも聞こえたみたいだ。
「はちみつレモンか、あれ美味しいよね」
「な?!美味いよなー!ホットもいいけど冷たく冷えたはちみつレモンを運動の後に飲み干してぇ!」
にーちゃんと盛り上がっているとロバートとケイレブが首を傾げた。
「はちみつレモン?」
「そー。俺とにーちゃんの世界の飲み物でさ、運動の後に飲むと美味いんだー!」
「そっか、二人ともワタリビトだったな。お前らの世界の飲み物か。そりゃきっと美味いんだろうな。こっちでも飲めればいいのに」
ケイレブとロバートは悔しそうに顔を歪めた。